5. むしコラム

〈投稿記事〉コロナ禍の中、身近な場所での新発見 (2020年9月26日付 掲載)

2020年はいわゆるコロナ禍で、思うように虫採りを楽しむことができなかった会員の方も多かろうと思う。筆者も思うように虫ができず、鬱々と過ごしていた。そんな中、気晴らしに出かけた近所の公園で意外にも多くの発見をしたので、普段は無視しがちな身近な場所での虫探しの可能性を紹介したいと思う。

舞台は千葉県成田市の中台運動公園。筆者宅からは徒歩5分ほどの場所にある。多くの樹木が植えられているものの、地面は基本的にコンクリートか芝生で、それほど自然豊かな環境とは言えない。以下、日記風に今年出会った虫を紹介する。

5月上旬、新緑のコナラの葉をスウィーピングしてみる。ゾウムシなどの雑甲虫に混じってカスミカメという小さなカメムシの仲間がたくさん入る。狙っていたニセカシワトビカスミカメは計5頭。千葉県初記録だ。東京都内の小規模な緑地で多数確認されているのでここにもいるだろうと予想していたら狙い通りに採れた。千葉県2例目のキアシクロホソカスミカメも多い。これは春のクヌギ・コナラによく見られる種で、これまでの記録は少ないが県内どこでも探してみる価値はあるだろう。未記載種と思しきカスミカメも1頭だけ採れた。近所の公園も捨てたものではない。

6月下旬、大量の大学の課題から逃げるように公園に来てみると、道に瀕死のシラホシハナムグリが落ちていた。これは従来関東地方では稀とされていたが近年増えている種類だ。増えているのは外来の個体群ではないかとも言われ、 都市公園のような人工的な環境でも発見されている。成田市では2016年に既に記録されているが、自分で見つけたのは初めてなので嬉しい。

7月上旬、涼しい夕方を狙ってある虫を探しに来た。ケヤキの幹を凝視していると、体長2mm強の黒くて丸い虫がちょこちょこと動いている。千葉県初記録のヒメダルマカメムシだ。このカメムシは樹幹上で生活することが知られ、都市公園などでも見つかるという。自然豊かなフィールドだと色々目移りしてしまいがちだが、一見大したことのない場所だからこそ、こうした特殊で見つけ難い虫に集中して探すことができる。同じ樹幹からは甲虫類も見つかった。虫かどうかもよくわからず持ち帰った1mmの黒い点は、顕微鏡で見たら千葉県初記録のクロタマキスイであることが判明した。同時に採れたテントウムシは、解剖したところナガサキクロテントウでこちらも県初記録。身近な環境でも新たな視点を持って探せばまだまだ魅力を発見できると感じた次第。

8月下旬、道脇のツツジの植栽を覗き込んでみる。白い斑点だらけになった葉を見つけ、これはあれがいるなと思ってめくってみると、予想通りツツジグンバイが鎮座していた。レースのような透明の翅が実に美しいカメムシの仲間だ。ツツジに絡みついたヘクソカズラにも斑点があったのでめくってみるとこちらにはヘクソカズラグンバイ。外来種ではあるが、胸部の造形美が素晴らしい。気晴らしの散歩としては中々楽しめた。(中村涼)

〈投稿記事〉何回調査すれば、地域の昆虫相がわかるのか? (2020年9月26日付 掲載)

千葉県昆虫談話会では、清澄山や房総のむら、こんぶくろ池などで定点調査を行ってきた。これらの調査は数年間にわたり、数十回の調査を行って成果を挙げているが、調査地域の昆虫相の、どの程度をカバーしているのか、気になるところだ。とはいっても、分類群の違い、例えばチョウ、トンボ、コウチュウなどの場合で状況がかなり異なるであろうことは容易に想像される。ここでは、私が関心のある蛾類に限定して話を進めてみよう。

古くから調査が行われてきた清澄山の場合、1960年代(2年間)、1990年代(4年間)、2000年代(4年間)、2010年代(3年間)にまとまった調査が行われた。これらは調査人員、用具・方法、回数等、違っているが、総計で1,800種弱の蛾が記録された。そして、調査のたびに数十の新たな種が追加記録されてきた。これらの中には地球温暖化によって分布を拡大してきたものもあるのだろうし、そもそも種の分布は拡大したり縮小しているものなのかも知れない。こんな時、私たちはどこで“手を打て”ばいいのだろうか。

こんなことをボーッと考えている時、蛾類学会の連絡誌「蛾類通信」No.286の記事が目に止まった。「灯火蛾類採集における調査回数と種数の関係」(http://publ.moth.jp/tsushin/251-300/jhj286.pdf で閲覧可能)という表題である。概略は、岐阜県の定点で7年間にわたりほぼ毎日、大蛾類と、小蛾類のうち比較的大型で同定の容易な種を全て採集(12月から3月を除く)して同定する。やむを得ず調査できなかった日はその前後から推定値を出して使用する。このデータを用いて、月に1回調査した場合、月2回~20回調査の場合を推測するというものだ。私はこの記事を読んで興奮してしまった。就寝時に読んでいたのだが、すっかり目が覚めてしまった。7年間毎日調査だと! 著者達にどんな動機があったのか、思わず唸ってしまった。調査の結果は、総種数1,169種となり、シミュレーションの結果は、単年月1回の調査では26%の種が採集され、2回で35%、ある程度精度の高い7割程度の結果を得るには月4回以上の調査が必要になるとのこと。また、調査年数を増やせばさらに精度が高くなるというものであった。

この結果はシミュレーションによるものであり、千葉昆の調査で行っているように同一日に2個所、3個所のライトトラップを使用する場合や、調査人員など、いろいろと条件が異なっている。しかし、一つの指標を示したこの報告は、かなり有益なものであろう。この報告の中で、一定以上の種数を得るには、月4回以上の調査“努力”を必要とする、という記述があり、その通りだなと思う反面、私の語彙になかった調査“努力”という言葉に、いまだ馴染めないでいる。(斉藤修)

〈本の紹介〉『ネイチャーガイド 日本の水生昆虫』 (2020年4月25日付 掲載)

著:中島淳・林成多・石田和男・北野忠・吉富博之
発行:株式会社 文一総合出版  351pp.
定価5,000円+税  ※出版社HPに正誤表あり

昨今、若者を中心に水生昆虫ブームが到来し、『月刊むし』や『さやばねニューシリーズ』(日本甲虫学会誌)では毎号のように多くの水生種に関する報告が掲載されている。そうした水生昆虫熱の高まりを受けてか、2019年末に素晴らしい水生昆虫の図鑑が出版された。

本書は、480種・亜種の水生甲虫(ゲンゴロウ・ミズスマシ・ヒメドロムシなど)と水生半翅類(アメンボ・タイコウチ・ミズムシなど)を図示・解説している。この480という数字は、日本から知られる種の約99%にあたり、驚異的な網羅率である。2019年に日本初記録されたオニガムシ科まで載っているのには驚いた。

標本にすると色彩が変わってしまうものも多い水生昆虫だが、本書では多くの種が生態写真で紹介されており、虫の魅力が存分に伝わるものとなっている。標本写真でないと同定がしづらいと考える向きもあろうが、本書には掲載種全種の科・属・種までの絵解き検索がついているので心配ご無用である。実際に私も使ってみたが、馴染みの薄い分類群でもわかりやすく、同定にあたって大変有用なものと感じた。特に、これまで包括的な資料が少なく属さえわかりづらかった水生ガムシ科について、絵解き検索と豊富なカラー写真を見ることで概略をつかむことができたのが個人的には収穫であった。欲を言えばもう少し形態や分布について詳細な記述があればとも思うが、スペースの都合上致し方ない面もあろう。これらに関しては、『図説 日本のゲンゴロウ』(初版:森・北山,1993、改訂版:同,2002)、『日本産水生昆虫(第2版)』の半翅目の項(林・宮本,2018)、『タガメ・ミズムシ・アメンボハンドブック』(三田村ほか,2017)や、各種原著論文を併用することにより、更に深い理解を得ることができるだろう。

本書の重要なポイントとして、生息環境や生態についての記述が多いことも挙げられる。合わせて生息環境や生態写真もカラーで多数掲載されておりイメージを掴みやすい。すなわち本書は、同定のための図鑑だけではなく、野外で実際に水生昆虫探索をする際の手引きともなり得るのである。

開発の進んだ南関東としては稀なことに、千葉県には多くの良好な湿地環境が現在も残されている。しかし、千葉県の水生甲虫・半翅類に関する報告は、2000年代初頭までの鈴木智史氏や信田利智氏、大木克行氏らの報告以降まとまったものが出ておらず、調査不足の感が否めない。開発の影響を受けやすく、絶滅危惧種も多い水生昆虫の千葉県での現状を今、調べておくべきではなかろうか。ごく最近でも大型種コガタノゲンゴロウの再発見(柳ほか,2020.月刊むし(587):22-23)という驚くべき事例があったように、千葉県はまだまだポテンシャルを秘めている。本書がきっかけとなって、少しでも千葉県の水生昆虫相解明が進むことを期待している。(中村 涼)

千葉県のムシのここが面白い! カミキリ編 (2016年10月1日付 掲載)
このシリーズの第2弾としてカミキリ編を書くことになった。何を書くか迷ったが、昆虫採集は記録のある虫より記録の無い虫または記録の少ない虫の方が採れた時の方が嬉しいと思うので、千葉のカミキリのケースで思いつくままに書いてみた。

1.未記録種編
千葉県のカミキリは本当にいるかどうかは置いといて、現在約200種が記録されている。これはおそらく全都道府県の中で最少であり、これを1種でも増やそうと県内のカミキリ屋さんは頑張っているが、ここ数年なかなか簡単には増えてくれない。そこで今後、新たに見つかりそうな種をリストアップしてみた。
◆ムネマダラトラカミキリ
今後見つかる可能性が高い最有力候補種。三浦半島にも生息しており、過去に富津市で目撃されている。5月頃、房総でイボタの新しい枯枝や伐採枝を見ると採集出来るかもしれない。
◆ケブトハナカミキリ
本種も江ノ島辺りに記録があり、千葉にも分布している可能性が高いと思われる。5・6月頃海岸付近で枯枝の混じったクサギの生木をビーティングすると採集出来るかもしれない。
◆ヨコヤマトラカミキリ
他県でも少ない種であるが、特に山地性でもなく伊豆半島の海岸付近にも生息している。県内全域に発見される可能性があるが、GW頃房総の海岸付近ではオオバヤシャブシの枯枝、内陸部ではクリなどの枯枝から採集出来るかもしれない。またミズキ等に訪花するので、花掬いで採れる可能性もある。
◆クビアカツヤカミキリ
2012年に愛知県で発見された新進気鋭の外来種。その後埼玉県、東京都でも発見され千葉県でいつ発見されてもおかしくはない。幼虫はサクラの生木を加害する。花見川に侵入すれば一気に拡大することが予想され、考えただけでもワクワク、いやゾッとする。

2.再発見編
千葉のカミキリには過去に記録はあるが長年記録がない種類や初記録後記録のない種類も多い。そのような再発見したい種類をリストアップした。
◆クビアカハナカミキリ
北総のマツ林から記録があるが、1980年代以降記録がない。今年、県内最大のマツ林が残された定点調査地でもある「房総のむら」でマダラコールトラップを設置したが残念ながら採集出来なかった。厳しい状況ではあるが、5月頃北総のマツ林周辺でガマズミやアカマツの花、アカマツの新鮮な伐採木から採れる可能性がある。
◆ヒメビロウドカミキリ
当会の中村俊彦さんが御宿の海岸で採集されたのが唯一の記録。海岸や河川敷でオトコヨモギがあれば採集出来るかもしれない。6月頃、オトコヨモギの枯れ葉に隠れている。
◆ルリボシカミキリ
2006年、当会の宮内氏が袖ケ浦市の埋め立て地で採集したのが唯一の記録。神奈川県では山地に生息していた本種が横浜市内など平地にまで分布を広げている。偶産の可能性が高いが日本の代表的なカミキリであり、秘かに生息していることを期待したい。
◆アサカミキリ
1980年代を最後に長らく採集されなかったが、2010年千葉市稲毛区から再発見された。しかしその後、生息地に笹が生い茂ったことでアザミが減少し、2016年の調査では発見することが出来なかった。稲毛区の生息地はごく狭い範囲であり、広い県内のどこかでまだ生息していると思われる。開けた環境にアザミの群生地があれば見つかるかもしれない。

3.生息範囲編
県内に記録があるものの、限られた地域からしか記録のない種類も多い。そんな種類の県内における分布状況を解明することも採集の楽しみである。
◆ハチジョウウスアヤカミキリ
南の島から海流にのって千葉県まで分布を広げてきたと考えられている。千葉県では御宿町と勝浦市からのみ記録されているが、南方系の種類なので、より南の鴨川市や南房総市にも生息していると思われる。海岸付近のアズマネザサで夏季にはビーティング、冬季には枯れたアズマネザサの割り出しにより採集出来る。
◆フタコブルリハナカミキリ
大型で綺麗なハナカミキリで上翅等の色に変異がある人気種。(ただし千葉県産はあまり綺麗でない個体が多い)南は館山から北は長柄町まで房総半島に広く分布するが、長柄町より北では見つかっていない。成虫はミズキに産卵し幼虫は土中で根を加害する。ミズキは長柄町より北にもたくさん見られるので、長柄町以北にも生息していると思われる。
◆キイロメダカカミキリ
南方系の種類で千葉県では大多喜町会所からしか記録がない。幼虫はカゴノキの枯枝に穿孔しているので、カゴノキ枯枝を持ち帰れば羽脱するかもしれない。
以上思いつくままに書いてみたが、これを読まれた会員の皆さんが県内でカミキリを探索し、さらには千葉県のカミキリが1種でも増えれば幸いである。(西 泰弘)

千葉県のムシのココが面白い! カトカラ編 (2016年5月12日付 掲載)
千葉県は高い山もなく、特徴的なムシは?と聞かれるとルーミスシジミくらいしか頭に浮かばない。知り合いのムシ屋さんもたいていは県外に採集に出て行ってしまう。でも、千葉県でよくよく調べてみると、あるいは見方を変えてみると、実は面白いことが沢山ある。
このへんのところをこれからシリーズでニュースレターに載せてみようと思う。先ずは言い出しっぺの私から、ということになった。以下の文は土曜サロンで配布される情報誌「SALON NEWSモドキ」に載せたものに手を加えた。

一般にカトカラと呼ばれるヤガ科シタバガ亜科の一群(Catocala属)は、前翅が地味な木目模様だが、後翅に赤、白、黄、紫などの派手めの斑紋を持っている。大きさ、色彩の変異、まとまりの良さもあって蛾屋だけでなく人気の高いグループだ。日本に31種を産するが、千葉県では記録種類数が少なく、千葉県産動物総目録で7種がリストアップされている。その後、君津市からアミメキシタバが記録されて種類数は8種となった。それでも最近の県別比較では下から3番目の少なさだ(石塚,2011)。その後、野田市から本県9種目のフシキキシタバが記録された。さらに、2014年にアサマキシタバとシロシタバが記録され、また、古い記録でベニシタバが確認されて、県内のカトカラは一挙に12種となった。大躍進と思ったが、これでやっと福岡県と並んで下から4位である。今回、本県での分布が明らかになった3種類の県別分布を石塚(2011)の「世界のカトカラ」から見てみよう。網掛けが記録のある県、白抜きが記録のない県、沖縄はアマミキシタバ1種を産するだけなので以下、この話から外す。先ずはアサマキシタバ。記録のないのはこの時点で茨城、千葉、東京、三重、島根。福岡、佐賀、熊本、宮崎と意外に多い。分布図では鹿児島が白抜きになっているが、県別の一覧表では分布するとしている。ベニシタバは記録のないのは千葉、奈良、長崎、鹿児島だ。シロシタバの記録がないのは、千葉と長崎、鹿児島。何故か千葉と鹿児島が頻繁に出てくるが、私の頭の中には鈴木某さんのご家族が分布するとカトカラが分布しにくいという仮説が真っ先に浮かんでくる。総じて九州では産出種類数が少ないが、分布図を見てなんで千葉県が白く抜けているのだと疑問に、かつ不満に思うのは私だけではないと思う。

カトカラの産出種類数は、関東地域では茨城16種、栃木24、群馬23、埼玉24、東京19、神奈川17であり本県が突出(突凹?)して少ないことがわかる。カトカラの産出種類数については、食草や環境、地史的経緯などいろいろな要因があると思う。また、カトカラについてはよく記録・発表されていることから、県別の種類数が算出されて比較できる状況にあるが、実は他の分類群についても詳細に比較すれば同様なことがあるのかも知れない。比較的調査が行き届いているチョウ類ではどうなのであろうか。

ところで、次に採れるカトカラは何だろうか。やはりこれは分布図からあたりをつけて、生息環境や食草から類推するのが確率が高そうだ。以前から当然生息するだろうと考えていたのがエゾシロシタバだ。食草はミズナラ、カシワなどとあるが恐らくコナラも食べるのではないだろうか。千葉以外には富山、奈良、福岡、佐賀、長崎で記録がない。次に可能性の高そうな種類はゴマシオキシタバ。食草はブナなので本県での産出は難しそうだが、長距離を移動するようで、ブナの全くない平野部でかなりの数が採れることがある。本県以外に記録のないのは京都、大阪、長崎のみ。穴馬はクロシオキシタバ。食草はウバメガシで太平洋南岸沿いでウバメガシが自生するところで記録されている。本県では同じくウバメガシを食べるヤクシマキリガが採れることや、伊豆半島まで分布することから、クロシオキシタバの可能性も捨てきれない。意外なところでは、ヤマナラシ・ポプラを食べるムラサキシタバが、関東では千葉県のみが空白になっており、もし採れたら大穴であろう。こんな風に、蛾の一グループを見てみても、なぜ採れないのか、採れるとしたら何か、と想像はふくらむ。そして、類似の分布をする他の種の分布要因を調べたり、新記録を狙って他産地の状況を調べたりと、調査、類推、想像、妄想はどんどん膨らんでいくのである。(斉藤 修)
【引用文献】
石塚勝巳(2011) 日本のカトカラ, むし社

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