千葉県北西部における都市昆虫の調査 (2022年10月2日付 掲載)
私は2016年頃から千葉県北西部での都市昆虫を調べるようになりました。元々は東京都区部の昆虫相を調べていましたが、千葉県側にも範囲を広げて調べるようになりました。主なフィールドは浦安市、市川市、船橋市、習志野市の都市部です。とくに、浦安市は昆虫相情報の少ない地域です。そこで、これらの地域を回って、どのような昆虫が生息しているのか、外来種の分布の広がりはどのようになっているのか、調査を進めました。
まず感じたのは、都市部のスポット状の緑地帯に、意外と多くの昆虫が生息していることです。浦安市の埋立地の小さな緑地に、ナナフシモドキ、ホシアシブトハバチ、ウシカメムシ、マツヒラタナガカメムシなどを確認できました。これらは都市部では記録の少ない種です。浦安市のような都会の緑地でも、細々と生息しているものなのですね。都市昆虫というのも、なかなか奥が深いものだと感じました。
浦安市はとくに昆虫相情報が少なく、過去に出た記録もデータのないもので、データのある記録はほとんどありません。普通種の記録が全くない例もありました。トンボについて記録を取りましたが、なんとギンヤンマが市初記録でした。近年はシラホシハナムグリが多くなったように感じます。この他、浦安市の会社に勤務する知り合いから情報が得られることがあって、共著で発表することもありました。
過去に首都圏の都市部でのセミ類相の報告が出ました。私は浦安市で調べてみましたが、確かにクマゼミの鳴き声をよく聴きました。とくに緑地公園の樹木の高い場所で鳴き声を聴くことが多かったです。近畿地方では低い位置にも見られますが、関東では高い場所に止まることが多く、鳴き声の割には姿を見つけるのは難しかったです。
分布を拡大させている南方系種を都市部で確認することがありました。東京湾岸ではクロマダラソテツシジミが発生することがあって、浦安市や習志野市で記録を出しました。新浦安駅前のクスノキではミナミトゲヘリカメムシを採集しました。ナガサキアゲハやツマグロヒョウモンはよく見ます。
都市部での調査で、一番記録報告が多かったのは外来種の記録です。とくに、都市部では外来種のカメムシが蔓延しています。ヨコヅナサシガメ、キマダラカメムシ、クスベニヒラタカスミカメ、マツヘリカメムシ、アワダチソウグンバイ、ヘクソカズラグンバイ、プラタナスグンバイ、セイタアワダチソウヒゲナガアブラムシなど、広範囲で確認しました。都市部は外来種の巣窟になっているのですね。これからはどのように分布を拡大させていくのでしょうか。特定外来種に指定されたアカボシゴマダラも非常に多く、街中でもよく見ます。道端のエノキ幼木では幼虫が目につきます。
さて、これからも県北西部の昆虫相を調べていきたいところでしたが、そろそろ限界が見えてきました。都市部の昆虫相調査は東京都区部に絞っていきたいと思います。仕事の関係やその他もあって時間を割くのがかなり厳しくなり、さすがに都外に調査範囲を広げるのは困難になってきました。本当はもっと調べていきたいのですが、このあたりで打ち切りたいと思います。今後は東京都区部をより集中的に調べ、その傍らに千葉県側に訪れることもあるかもしれませんが、今までのようにはいかないかと思います。
これまで、「房総の昆虫」に記録を多く報告してきましたが、断片的でまとまりのない記録を投稿することもあって、編集者の方々には手を煩わせてしまったことをお詫びいたします。大阪に住んでいて、限られた時間を割いて首都圏で調べているので、なかなかデータがまとまりませんでした。遠地をフィールドにしていると、まとまった記録を出すのは容易なことではありません。
会員の皆様には、都市部の身近な昆虫に目を向けていただければと思います。とくに外来種の広がりは興味のあるところです。身近なクスノキの葉で、クスベニヒラタカスミカメの食痕を探してみてください。キマダラカメムシは大型で目に付きやすいので、街路樹で探してみてください。マツ類の植栽地では、樹上でマツヘリカメムシが目につきます。街路樹のプラタナスの樹幹には、プラタナスグンバイが見られます。雑草のヘクソカズラをめくると、ヘクソカズラグンバイが見られます。そして、データを蓄積して「房総の昆虫」に報告してください。記録を積み重ねることで、外来種の分布の広がりを把握することができます。(長田 庸平)
千葉県のムシのここが面白い! カメムシ編 (2021年12月11日付 掲載)
喜ばしいことに、この数年千葉県新記録種をはじめ、県内から報告されるカメムシの新知見が増加傾向にある。実際に2019年以降の「房総の昆虫」では26種の県内からの分布初記録をはじめ、採集報告なども含めるとカメムシ目を取り扱った記事が50本以上も報告された。要因としては何よりも調査の担い手が増えたことが第一と思われる。
カメムシは山林や里山はもちろん、河川敷、海岸、さらには住宅地の中の小規模な緑地など、県内の「ありとあらゆる」ところに生息している。また、採集方法もスゥイーピング、ビーティングをはじめ、ライトトラップに多くの個体が飛来する、ツルグレン装置などでリターからも抽出されるなど多岐に渡ることを考えると、今後も新知見のペースは増加傾向を維持するのではないだろうか。今回はその中でも、筆者が特に注目している分類群について紹介したい。
・外洋性ウミアメンボ
国内からはツヤウミアメンボ、センタウミアメンボ、コガタウミアメンボの3種が知られる。これらの種は普段は外洋に生息しているため、通常はほとんど採集できない。しかし、台風などで強風が吹き付ける日には、しばしば海岸に多くの個体が漂着する。
外洋に面する千葉県は、これらの分類群を採集する上で絶好のコンディションが整っているが、正式な記録は「房総の昆虫」67号で館山市と南房総市からコガタウミアメンボ1種が報告されたのみである。
採集に適した海岸や気象の条件は、2012年に「徳島県における外洋性ウミアメンボ3種の記録」というタイトルの文献上で詳細な報告がなされている。この文献はオープンアクセスであり、誰でも閲覧できることから詳細はそちらに譲るが、風速10 mクラスの強風が海岸に向かって吹き付けるような日(例えば、筆者が報告した平砂浦海岸では南東から南よりの強風が吹く日)には高い確率で外洋性ウミアメンボが漂着すると思われる。
房総の昆虫で報告された記録以外にも、外洋性ウミアメンボが県内に漂着したことを示唆する書き込みがネット上にしばしば散見される。こういった採集例が「房総の昆虫」などの雑誌上で正式な記録として未だ公表されていないことは残念だが、千葉県の地理的条件を考えると、今後も外洋性ウミアメンボの漂着は相次ぎ、残りのツヤ、センタも確実に採集されるだろう。皆様も条件が揃った日は是非とも海岸へ出かけて外洋性ウミアメンボを探索し、記録を会誌にどんどん投稿して頂けると幸いである。
右図1:千葉県から記録されたコガタウミアメンボ(房総の昆虫67号参照)、2–3:採集地の環境。
・マルグンバイ属
コケ類に寄生するという特異な生態を持つ一群である。また、外見も丸型や長卵型に近い体型を持つなど、特徴的なグンバイムシ科の中でも殊更変わった姿形の虫として知られている。これらの特徴も相まって、虫屋の中では割と認知度が高いカメムシではないだろうか?
国内からは8種が知られており、関東地方でも山沿いを中心に各地から記録されているものの、千葉県からは長らく見つかっていなかった。しかし、2019年に「月刊むし」で鴨川市四方木産の個体をもとに千葉県からマルグンバイ Acalypta sauteriが始めて記録されたことをきっかけに筆者らが各地で調査を行ったところ、既産地以外の複数地点から新たに発見された。まだまだ調査は完全ではないため詳細は今後の別稿に譲るが、筆者が当初予想していた以上に広範囲に分布している可能性が高い。
マルグンバイAcalypta sauteriは北向きに面した谷や斜面沿いの、岩や道路の法面に生育するハイゴケ、シノブコケ、アオギヌゴケなどの蘚類のコケから採集されることが知られており、県内でもそのような環境を注意深く探索すれば得られるだろう。また、採集法はビーティングネットやお盆の上でコケを叩いたり、転がした後、注意深くネットの上を観察すると採集できる。動きが緩慢であるため、個体を捕獲すること自体は容易だが、体長が2-3mm程度と小さくネット上に落ちても気付くのが難しいことが難点である。
なお、これまでマルグンバイ属は飛翔できず移動能力が低いため、沖積平野や縄文海進で水没した地域には分布しないとされてきたが、近年国内から記録されたA. cooleyi 、ムロマルグンバイ A. gracilis、A. marginataは飛翔能力を持つことが報告されている。このうちA. cooleyiは、栃木県の鬼怒川河川敷で4~6月にエゾスナゴケから採集された標本をもとに記録されており、県内の平地や河川敷の草地にも生息している可能性が十分考えられる。近年は5月ともなれば暑い日が続き、河川敷のような環境での調査は大きな苦労を伴うが、そのような場所に行く機会のある方は是非とも本種の探索を試みていただきたい。なお、本種は現時点では国内でも栃木県からしか記録されていないため、千葉県から発見された場合は国内2箇所目の産地となる。
今回ご紹介したものの他にも、あっと驚くような大幅な東限・北限記録の更新や、絶滅が危惧される種の新産地の発見、さらには未記載種の存在など、千葉県のカメムシに関する新知見は事欠かない。皆様もご自身の専門分野を採集する過程で、もしカメムシが一緒に採集されたら、片手間で良いので摘んでいただけたら幸いである。
右図1–2:千葉県産マルグンバイ、3:生息環境。(伴 光哲)
千葉県のムシのここが面白い! ゴミムシ編 (2021年9月30日付 掲載)
ご存知の通り千葉県は最大標高が408mと全国最下位で、チョウ、クワガタ、カミキリといった山地性種が多い人気昆虫では他県に比べ種数が少なく面白みに欠ける県である。しかし、平地にも多くの種が産する分類群は千葉県でも楽しめる。今回紹介するゴミムシもそうで、珍しく千葉県が全国に誇ることができる分類群であると思う。
①千葉県の誇るゴミムシ
・千葉県固有種
千葉県固有のゴミムシは現在のところイスミナガゴミムシとカズサヒラタゴミムシの2種である。どちらの種も模式産地は現在のいすみ市内で、後者はその後多くの産地から記録されているが、前者は未だに模式産地からしか採集されていない。
・アオゴミムシの仲間
この仲間は湿地性の種が多く、千葉県には24種の記録がある。これは都道府県別種数では岡山県と並んでおそらく1位タイである。特に全国的に珍しいオオサカアオゴミムシやツヤキベリアオゴミムシの産地が多いことや、ド珍品とされるアオヘリアオゴミムシが最近採集されていることは注目される。コキベリアオゴミムシは県内の水田にごく普通だが、他県の愛好家によるとこれほど沢山いるのは千葉くらいらしい。2000年代以降の確実な記録がないクマガイクロアオゴミムシとクビナガキベリアオゴミムシの再発見に期待したい。
・海岸性ゴミムシ類
キイロホソゴミムシは関東地方南岸に固有のゴミムシで、千葉県のいくつかの河口が産地として有名である。ほぼ千葉県固有種と言っても良いだろう。小さくて目立たないながらも、海岸に生息するゴミムシには他にも珍しい種が多い。特に、近年の記録がないオオキバナガミズギワゴミムシ(千葉県が分布南限)やオオズミズギワゴミムシ(同)、ハマベゴミムシなどの動向が気になる。海岸はなかなか調査される機会がないが、もっと目を向けたいところである。
・その他湿地性ゴミムシ
山がダメな千葉県は湿地性種くらいでしかまともに戦えない。千葉県らしい湿地性ゴミムシといえばまずスナハラゴミムシや先述のアオゴミムシ類が思い浮かぶ。他県では少ないが、他県の愛好家と話をすると、「それが割といるのは千葉県くらいだよ」と言われる種も結構多い。例えば、ホソヒョウタンゴミムシ、ノグチナガゴミムシ、キアシツヤヒラタゴミムシ、トゲアシゴモクムシ、オオトックリゴミムシ、ヨツモンカタキバゴミムシ、ヒメホソクビゴミムシなどである。カワラゴミムシ、クビアカモリヒラタゴミムシ、コアオアトキリゴミムシ、モリアオホソゴミムシなども湿地性ではないが千葉県南部では比較的採りやすい。このような種は千葉県の「個性」とも言え、千葉の虫屋としては意識しておきたいものである。
②今後発見されそうなゴミムシ
・未記載種
後翅の退化する狭義ナガゴミムシ属やツヤゴモクムシ属のleptopus種群、マルクビゴミムシ属のSadonebria亜属は、特に房総丘陵で未知の種が発見される可能性を秘めているだろう。発見されればほぼ間違いなく未記載種である。地下浅層性のチビゴミムシも千葉県では見つかっていないが、生息していないとは言い切れない。
・その他の県未記録種
関東の他県で記録があるのに千葉県では見つかっていない種では、ヒトツメアオゴミムシ、キノコゴミムシなどがある。特に後者は最近関東での記録が増えており、発見に期待したい。南方系種として知られるクチキゴミムシやオオミイデラゴミムシが県南にいないかとも密かに妄想している。また、今年になって県初記録されたオオヒラタトックリゴミムシのように、湿地性種でも驚くべき新発見があることから、昔に比べ悪化している湿地環境においてもまだまだ探索の余地はある。ゴミムシの種にも栄枯盛衰があるから、昔の珍品が今になってひょっこり採れる可能性も考えて探索を続けると面白い発見ができるかもしれない。
③記録が1、2例しかないゴミムシ
千葉県で初めて記録されてからの追加記録がない、あるいは追加記録が1例のみという種がいくつかある。例えばアカイロコミズギワゴミムシ(東金市雄蛇ヶ池)、トカラコミズギワゴミムシ(富山)、トネガワナガゴミムシ(柏市和田沼)、オオキンナガゴミムシ(習志野、御宿町浅間神社)、ヒコサンヒメツヤゴモクムシ(清澄山)、アリスアトキリゴミムシ(鴨川市江見)、クロズジュウジアトキリゴミムシ(夷隅地区)、クロサヒラタアトキリゴミムシ(清澄山)などである(括弧内は記録地)。これらは全て1900年代に採集されたものであり、現在の生息状況が気になる。特にトネガワナガゴミムシは千葉県が模式産地の種であるので生き残っていてほしい。
④探索すべき地域
・利根川沿い
利根川沿いのゴミムシ相については1972年と1983年に報告されて以来、まとまった報告がない。当時とゴミムシ相はかなり変わっているだろうから、是非調査・報告をお願いしたい。筆者による成田市の利根川沿いの調査でもかなりの成果が上がっている。
・海岸
上述の通り海岸には多くの注目すべきゴミムシが生息しているが、包括的な調査報告が近年ない。河口の干潟や岩礁などに特に注目しつつ、時には先入観を捨てて色々な海岸で調査するとまだまだ貴重な知見が出てきそうである。
・房総丘陵
古くから調査が行われている地域ではあるが、主たるゴミムシの調査方法は灯火採集とベイトトラップに限られている。ヤマビルにめげず、夜間のルッキングなど新たな方法を取り入れれば、必ずや面白い種が得られるはずである。(中村涼)
〈投稿記事〉クロマダラソテツシジミ:千葉県内での急速な分布拡大 (2020年12月12日付 掲載)
2009年に県内でも大発生したソテツ食いのこの蝶はその年末に田久保会員と新鮮な低温期型の♂成虫を館山市で記録(当日採集した蛹は大半が1月に羽化したがすべて羽化不全—-会誌44号に報告済)してから今年は11年ぶりの大発生となった。1992年に沖縄で初めて確認された当時は必死で採集もしたが、九州や本州の温暖地でも分布を広げてから興味を失い、昨年の奄美大島訪問時にもネットを振らなかった。—-2009年の状況は、関東東山病害虫研究会報第57集(2010)「千葉県におけるクロマダラソテツシジミの初発生確認後の分布拡大と越冬の可能性」(中央博の斉藤明子・尾崎煙雄・ほか)に詳しい。
今年の発生情報を聞いた時、まず頭に浮かんだのは昨秋、甚大な被害をもたらした台風15号、19号によって飛来した個体群の一部が越冬し、今年の大発生につながったというものであった。市原市内で昨年、諫川会員がこの蝶を撮影されたからで、その後付近を探索したが記録できず、偶然飛来した個体である可能性が高いと、その時は判断した。
今春、館山市の野鳥公園に出かけた折に「館山運動公園」を覗いてみると2009年に大発生したソテツが若葉展開の盛りであったが全く食害もないので、昨年は、一部地域でこの蝶の飛来はあってもこの冬を越すには至らなかったか、と一人合点した次第である。
今年の台風12号は9月24日に関東地方に接近したが、この台風の進路はこの蝶の発生地付近も通過しているのでその風に乗って飛来したのが今回の発生の原因では、と妄想は膨らみ、9月中旬から情報が聞こえだしたのを機に、10月3日から調査を開始することにした。今年は新型コロナの感染拡大で遠征を控えているので、車での買い物ついでや散歩がてらの調査には絶好?の機会でもある。手始めに2009年も発生した鴨川市西のソテツ栽培畑を訪れると成虫や各令幼虫も多くみられた。同日、館山市の「運動公園」では、成虫は少数だが、激しく食害されたソテツから、蛹、終齢幼虫を多数得た。これらのことから、9月下旬の台風12号がもたらした成虫の子孫でなく、もっと遡って飛来があったものと考えられた(以前のように沖縄や南西諸島だけでなく、本州の温暖地にも定着地が増えているので、ちょっとした風に乗って運ばれやすくなっている可能性もある)。袖ケ浦市の「海浜公園」は、2009年に調査した時もそれ以降にも記録できなかったが、今年は多数確認でき、同市台宿の住宅地でも複数採集した。また、私の地元市原市では、姉崎の田久保会員から五井海岸南「海釣り公園(養老川臨海公園)」の情報をいただき、出向くとかなりの数を記録できたので、市原市の調査を重点的に行った。また、高速道「市原SA上下線」のソテツ植栽で多数を得ることができ、高速道路近くの養護施設敷地のソテツ群落でも飛翔が見られた。その他、姉崎駅付近、国道16号線沿い、姉崎(田久保会員が自宅庭及び付近で複数採集)、青葉台の住宅地(小生の自宅庭でローズマリーやビオラに吸蜜中)、海保、極め付きは椎津のカップルズホテル(休業中)敷地では、10数本のソテツで大発生しており、二桁の成虫及び蛹を11月下旬に多数採集するなど、広範に分布を広げているようであった。また、安房生物愛好会会員でもある諫川会員は、「愛好会通信」に飯沼と五井海岸南の10月のデータを寄せている。11月中旬には木更津市、富津市を調査し、木更津市では「海浜緑地公園」ほか数か所の食害ソテツを調査したが生息を確認できなかった。富津市では「市民ふれあい公園」と「富津公園」で成虫を確認した。10月下旬に勝浦市から九十九里方面を調査したところ、勝浦市の中央博分館「海の博物館」付近のソテツでは食害があるものの記録できなかったが、新宮の民間施設敷地のソテツ群落で幼虫を見つけ終齢幼虫をいくつか確保した。御宿町、いすみ市、一宮町は、幹線道路沿いのソテツが目につくと車を留め調査したが食害されていても古葉が多く、残念ながら記録を伸ばすことはできなかった。
一方、千葉市方面の状況であるが、美浜区の「稲毛海浜公園」に五十嵐会員と調査を行ったが、食害痕がある硬化した葉が見られるだけで1♀の記録だけにとどまった。若葉区の加曾利貝塚では、田久保会員が1♀を撮影、採集した。土曜サロン常連の大塚会員と瀬戸会員が千葉市中央区、緑区、若葉区周辺を精力的に調査し、中央区の中央港1丁目周辺でお二人とも成虫を数回にわたりかなりの数を採集している。また、ブログで蝶の写真を発信されている斉藤富夫会員は習志野海浜公園でも発生を確認しているようだった。
調査の概要は以上だが、ここにお名前を挙げさせていただいた会員諸氏に感謝するとともに、正確なデータを会誌「房総の昆虫」に寄稿していただければ、と要請するところです。また、お名前を挙げていない会員のなかで、この蝶の採集、観察データをお持ちの方はぜひとも会誌に発表をお願いする次第です。
ここからはつぶやきです。蛹は、展開葉の裏側や葉痕内でも見つかるが、効率的なのは付け根周辺の綿毛状になっている箇所をピンセットなどで掘り出すと、蛹や前蛹が密集した状態で見つかることが多い。どのソテツでもそうだが、蛹を掘り出す際は、ソテツの針状の部分でかなり痛い思いをすることもあるので気を付けたい。また、民間施設等で「ソテツの害虫、被害状況調査も兼ねています」と、お話しすると、ほぼ例外なく快諾されるので実に調査しやすかった。普段大きなネットを持参している蝶屋は、胡散臭く見られがちで、樹木害虫退治?のカミキリ屋さんを密かに羨やんでいたので仇討の気分である。
コロナ禍の中、公園等の開放空間は平日でも人出が目立ち、よく「何をしているのか」と聞かれることもあったが、その都度、採集等の手を休め、丁寧な説明を心掛けた。今年は内房(一部は外房)の沿岸部を中心にかなり内陸部までソテツの新葉をつないで秋から急激に繁殖を繰り返し分布拡大してきたようだ。今年はいつまで成虫が見られ、越冬できるかどうか目を向けていく必要があろう。
毎日のように羽化してきている蝶を見ると、表のスカイブルーの濃淡や裏面の帯の太さ、赤紋消失割合にも個体差があり、赤紋が色濃く残り、帯がないなど、市原市内でも産地によっては顔つきが異なる場合も見られ単なる低温期型と決めつけてしまうには逡巡する。ひょっとすると飛来箇所の由来が異なるのか(亜種がいくつか記載されているようだ)興味は尽きない。♀2頭が飼育箱内で、相当数の産卵をしたが、若葉の供給が少なくなった場合に、餌不足で幼虫は共食いをするのか?を確かめるため放置しておいたが、共食いの確証を得られず、多くの小さな蛹ができた。果たして正常に羽化できるかちょっと楽しみ。
また、代用食としてインゲンマメでも十分育つが、将来、これら農作物への害虫になる可能性があるのか?…。昨年の日本蝶類学会での講演で、東京農大の方々が「マメ科植物に対するクロマダラソテツシジミの寄主選択」と題され、幼虫生育試験や成虫産卵選好性試験を行った結果を講演されたのを興味深く拝聴した…と、想像は広がるばかりである。 (木勢庄平)
〈投稿記事〉今後、千葉県での動向が注目される昆虫 ~外来種や分布拡大種~ (2020年12月12日 掲載)
まずはクズに関連のある外来甲虫2種、ムネアカオオクロテントウとクズクビボソハムシである。これら2種は未だ千葉県から記録されていないが、お隣の東京都においては23区内を中心にかなり蔓延している。クズはかなり普遍的な植物であることから、千葉県に侵入するのも時間の問題と考えられる。特に23区と近い県北西部で注意が必要である。いずれの種も秋口によく見られ、9〜10月のクズ葉上がポイント。
ハムシと言えば、ヨツモンカメノコハムシの動向も気になるところである。本種はヒルガオ類の葉を食べる種で、東京や神奈川では記録されていた。千葉県では北西部で見つかるかと考えていたが、今年、房総の昆虫66号で南房総市から県初記録されたのは驚きであった。県北部にも生息の可能性があり、県全域での調査が必要だろう。
森林害虫となる甲虫も忘れてはならない。2017年に鴨川市から県初記録されたカシノナガキクイムシは、今や県下全域に拡大しているようである。ブナ科の樹種に穿孔し、白い粉状のフラスを噴出するので、虫自体よりも被害木の方が発見しやすいだろう。本種が発生し枯死木が生じると、それを住処とする甲虫が増加したり、穿孔により流れ出た樹液に昆虫が集まったりするなど、他の昆虫の状況にも注目である。また、サクラなどを食害し問題となっているクビアカツヤカミキリは、今年9月に千葉県にごく近い足立区で発見された。千葉県への侵入も常に警戒しておく必要があろう。
カメムシ類でも多くの外来種が知られる。キマダラカメムシやマツヘリカメムシ、外来グンバイムシ3種(アワダチソウ、ヘクソカズラ、プラタナス)は県内の記録が比較的蓄積されている印象があるが、トガリアメンボのように県初記録以降の記録がなく、調査不足の種もある。ここ数年に限れば、ツマベニヒメナガカメムシとクスベニヒラタカスミカメが急激な勢いで分布を拡大している。特に後者は、県内では未だに食痕による記録しかなく、さらなる調査が望まれる。県北部において10〜11月頃にクスノキの葉裏などを見るのがポイントである(スウィーピングも効率が良い)。未発表ながら、今秋は県北の数地点で生体が確認された。この他、東京23区内ではカグヤホソカスミカメなど数種の千葉県未記録の外来カメムシが見られ、県内へ侵入する可能性がある。
チャイロスズメバチも要注目の種である。従来は山地性の稀な種とされることもあったが、最近全国各地で分布を拡大している。千葉県でもこれまで本種の記録はなかったが、今年になって県北の数カ所で発見された(今月発行の房総の昆虫参照)。来年以降も分布を拡大するのではないかと推測され、今後の動向に注目である。夏季に樹液をチェックするのが良いだろう。
筆者の専門外ではあるが、鱗翅目でもツマジロクサヨトウ、トチュウウスクモヨトウなどの外来種と推測される種が各地で発見されている。千葉県での分布も調査の余地があろう。また、人気の高いカトカラ類では、フシキキシタバに次いでアサマキシタバも最近の分布拡大を示唆すると思われる記録が出ており、今後の調査に期待である。
外来種や分布を拡大している種は、常にその分布動態が変化しており、あらゆる時点での生息情報が貴重である。コロナ禍であまり遠方に出かけられない今だからこそ、身近な虫の貴重なデータを集めるのも良いのではないかと思う次第である。また、このような虫においては、ある時点である場所に「いなかった」という情報もまた、大きな意味を持つことも意識しておきたい。
※本記事で使用した写真は全て筆者自身の撮影による。(中村涼)
〈投稿記事〉コロナ禍の中、身近な場所での新発見 (2020年9月26日付 掲載)
2020年はいわゆるコロナ禍で、思うように虫採りを楽しむことができなかった会員の方も多かろうと思う。筆者も思うように虫ができず、鬱々と過ごしていた。そんな中、気晴らしに出かけた近所の公園で意外にも多くの発見をしたので、普段は無視しがちな身近な場所での虫探しの可能性を紹介したいと思う。
舞台は千葉県成田市の中台運動公園。筆者宅からは徒歩5分ほどの場所にある。多くの樹木が植えられているものの、地面は基本的にコンクリートか芝生で、それほど自然豊かな環境とは言えない。以下、日記風に今年出会った虫を紹介する。
5月上旬、新緑のコナラの葉をスウィーピングしてみる。ゾウムシなどの雑甲虫に混じってカスミカメという小さなカメムシの仲間がたくさん入る。狙っていたニセカシワトビカスミカメは計5頭。千葉県初記録だ。東京都内の小規模な緑地で多数確認されているのでここにもいるだろうと予想していたら狙い通りに採れた。千葉県2例目のキアシクロホソカスミカメも多い。これは春のクヌギ・コナラによく見られる種で、これまでの記録は少ないが県内どこでも探してみる価値はあるだろう。未記載種と思しきカスミカメも1頭だけ採れた。近所の公園も捨てたものではない。
6月下旬、大量の大学の課題から逃げるように公園に来てみると、道に瀕死のシラホシハナムグリが落ちていた。これは従来関東地方では稀とされていたが近年増えている種類だ。増えているのは外来の個体群ではないかとも言われ、 都市公園のような人工的な環境でも発見されている。成田市では2016年に既に記録されているが、自分で見つけたのは初めてなので嬉しい。
7月上旬、涼しい夕方を狙ってある虫を探しに来た。ケヤキの幹を凝視していると、体長2mm強の黒くて丸い虫がちょこちょこと動いている。千葉県初記録のヒメダルマカメムシだ。このカメムシは樹幹上で生活することが知られ、都市公園などでも見つかるという。自然豊かなフィールドだと色々目移りしてしまいがちだが、一見大したことのない場所だからこそ、こうした特殊で見つけ難い虫に集中して探すことができる。同じ樹幹からは甲虫類も見つかった。虫かどうかもよくわからず持ち帰った1mmの黒い点は、顕微鏡で見たら千葉県初記録のクロタマキスイであることが判明した。同時に採れたテントウムシは、解剖したところナガサキクロテントウでこちらも県初記録。身近な環境でも新たな視点を持って探せばまだまだ魅力を発見できると感じた次第。
8月下旬、道脇のツツジの植栽を覗き込んでみる。白い斑点だらけになった葉を見つけ、これはあれがいるなと思ってめくってみると、予想通りツツジグンバイが鎮座していた。レースのような透明の翅が実に美しいカメムシの仲間だ。ツツジに絡みついたヘクソカズラにも斑点があったのでめくってみるとこちらにはヘクソカズラグンバイ。外来種ではあるが、胸部の造形美が素晴らしい。気晴らしの散歩としては中々楽しめた。(中村涼)
〈投稿記事〉何回調査すれば、地域の昆虫相がわかるのか? (2020年9月26日付 掲載)
千葉県昆虫談話会では、清澄山や房総のむら、こんぶくろ池などで定点調査を行ってきた。これらの調査は数年間にわたり、数十回の調査を行って成果を挙げているが、調査地域の昆虫相の、どの程度をカバーしているのか、気になるところだ。とはいっても、分類群の違い、例えばチョウ、トンボ、コウチュウなどの場合で状況がかなり異なるであろうことは容易に想像される。ここでは、私が関心のある蛾類に限定して話を進めてみよう。
古くから調査が行われてきた清澄山の場合、1960年代(2年間)、1990年代(4年間)、2000年代(4年間)、2010年代(3年間)にまとまった調査が行われた。これらは調査人員、用具・方法、回数等、違っているが、総計で1,800種弱の蛾が記録された。そして、調査のたびに数十の新たな種が追加記録されてきた。これらの中には地球温暖化によって分布を拡大してきたものもあるのだろうし、そもそも種の分布は拡大したり縮小しているものなのかも知れない。こんな時、私たちはどこで“手を打て”ばいいのだろうか。
こんなことをボーッと考えている時、蛾類学会の連絡誌「蛾類通信」No.286の記事が目に止まった。「灯火蛾類採集における調査回数と種数の関係」(http://publ.moth.jp/tsushin/251-300/jhj286.pdf で閲覧可能)という表題である。概略は、岐阜県の定点で7年間にわたりほぼ毎日、大蛾類と、小蛾類のうち比較的大型で同定の容易な種を全て採集(12月から3月を除く)して同定する。やむを得ず調査できなかった日はその前後から推定値を出して使用する。このデータを用いて、月に1回調査した場合、月2回~20回調査の場合を推測するというものだ。私はこの記事を読んで興奮してしまった。就寝時に読んでいたのだが、すっかり目が覚めてしまった。7年間毎日調査だと! 著者達にどんな動機があったのか、思わず唸ってしまった。調査の結果は、総種数1,169種となり、シミュレーションの結果は、単年月1回の調査では26%の種が採集され、2回で35%、ある程度精度の高い7割程度の結果を得るには月4回以上の調査が必要になるとのこと。また、調査年数を増やせばさらに精度が高くなるというものであった。
この結果はシミュレーションによるものであり、千葉昆の調査で行っているように同一日に2個所、3個所のライトトラップを使用する場合や、調査人員など、いろいろと条件が異なっている。しかし、一つの指標を示したこの報告は、かなり有益なものであろう。この報告の中で、一定以上の種数を得るには、月4回以上の調査“努力”を必要とする、という記述があり、その通りだなと思う反面、私の語彙になかった調査“努力”という言葉に、いまだ馴染めないでいる。(斉藤修)
〈本の紹介〉『ネイチャーガイド 日本の水生昆虫』 (2020年4月25日付 掲載)
著:中島淳・林成多・石田和男・北野忠・吉富博之
発行:株式会社 文一総合出版 351pp.
定価5,000円+税 ※出版社HPに正誤表あり
昨今、若者を中心に水生昆虫ブームが到来し、『月刊むし』や『さやばねニューシリーズ』(日本甲虫学会誌)では毎号のように多くの水生種に関する報告が掲載されている。そうした水生昆虫熱の高まりを受けてか、2019年末に素晴らしい水生昆虫の図鑑が出版された。
本書は、480種・亜種の水生甲虫(ゲンゴロウ・ミズスマシ・ヒメドロムシなど)と水生半翅類(アメンボ・タイコウチ・ミズムシなど)を図示・解説している。この480という数字は、日本から知られる種の約99%にあたり、驚異的な網羅率である。2019年に日本初記録されたオニガムシ科まで載っているのには驚いた。
標本にすると色彩が変わってしまうものも多い水生昆虫だが、本書では多くの種が生態写真で紹介されており、虫の魅力が存分に伝わるものとなっている。標本写真でないと同定がしづらいと考える向きもあろうが、本書には掲載種全種の科・属・種までの絵解き検索がついているので心配ご無用である。実際に私も使ってみたが、馴染みの薄い分類群でもわかりやすく、同定にあたって大変有用なものと感じた。特に、これまで包括的な資料が少なく属さえわかりづらかった水生ガムシ科について、絵解き検索と豊富なカラー写真を見ることで概略をつかむことができたのが個人的には収穫であった。欲を言えばもう少し形態や分布について詳細な記述があればとも思うが、スペースの都合上致し方ない面もあろう。これらに関しては、『図説 日本のゲンゴロウ』(初版:森・北山,1993、改訂版:同,2002)、『日本産水生昆虫(第2版)』の半翅目の項(林・宮本,2018)、『タガメ・ミズムシ・アメンボハンドブック』(三田村ほか,2017)や、各種原著論文を併用することにより、更に深い理解を得ることができるだろう。
本書の重要なポイントとして、生息環境や生態についての記述が多いことも挙げられる。合わせて生息環境や生態写真もカラーで多数掲載されておりイメージを掴みやすい。すなわち本書は、同定のための図鑑だけではなく、野外で実際に水生昆虫探索をする際の手引きともなり得るのである。
開発の進んだ南関東としては稀なことに、千葉県には多くの良好な湿地環境が現在も残されている。しかし、千葉県の水生甲虫・半翅類に関する報告は、2000年代初頭までの鈴木智史氏や信田利智氏、大木克行氏らの報告以降まとまったものが出ておらず、調査不足の感が否めない。開発の影響を受けやすく、絶滅危惧種も多い水生昆虫の千葉県での現状を今、調べておくべきではなかろうか。ごく最近でも大型種コガタノゲンゴロウの再発見(柳ほか,2020.月刊むし(587):22-23)という驚くべき事例があったように、千葉県はまだまだポテンシャルを秘めている。本書がきっかけとなって、少しでも千葉県の水生昆虫相解明が進むことを期待している。(中村 涼)
千葉県のムシのここが面白い! カミキリ編 (2016年10月1日付 掲載)
このシリーズの第2弾としてカミキリ編を書くことになった。何を書くか迷ったが、昆虫採集は記録のある虫より記録の無い虫または記録の少ない虫の方が採れた時の方が嬉しいと思うので、千葉のカミキリのケースで思いつくままに書いてみた。
1.未記録種編
千葉県のカミキリは本当にいるかどうかは置いといて、現在約200種が記録されている。これはおそらく全都道府県の中で最少であり、これを1種でも増やそうと県内のカミキリ屋さんは頑張っているが、ここ数年なかなか簡単には増えてくれない。そこで今後、新たに見つかりそうな種をリストアップしてみた。
◆ムネマダラトラカミキリ
今後見つかる可能性が高い最有力候補種。三浦半島にも生息しており、過去に富津市で目撃されている。5月頃、房総でイボタの新しい枯枝や伐採枝を見ると採集出来るかもしれない。
◆ケブトハナカミキリ
本種も江ノ島辺りに記録があり、千葉にも分布している可能性が高いと思われる。5・6月頃海岸付近で枯枝の混じったクサギの生木をビーティングすると採集出来るかもしれない。
◆ヨコヤマトラカミキリ
他県でも少ない種であるが、特に山地性でもなく伊豆半島の海岸付近にも生息している。県内全域に発見される可能性があるが、GW頃房総の海岸付近ではオオバヤシャブシの枯枝、内陸部ではクリなどの枯枝から採集出来るかもしれない。またミズキ等に訪花するので、花掬いで採れる可能性もある。
◆クビアカツヤカミキリ
2012年に愛知県で発見された新進気鋭の外来種。その後埼玉県、東京都でも発見され千葉県でいつ発見されてもおかしくはない。幼虫はサクラの生木を加害する。花見川に侵入すれば一気に拡大することが予想され、考えただけでもワクワク、いやゾッとする。
2.再発見編
千葉のカミキリには過去に記録はあるが長年記録がない種類や初記録後記録のない種類も多い。そのような再発見したい種類をリストアップした。
◆クビアカハナカミキリ
北総のマツ林から記録があるが、1980年代以降記録がない。今年、県内最大のマツ林が残された定点調査地でもある「房総のむら」でマダラコールトラップを設置したが残念ながら採集出来なかった。厳しい状況ではあるが、5月頃北総のマツ林周辺でガマズミやアカマツの花、アカマツの新鮮な伐採木から採れる可能性がある。
◆ヒメビロウドカミキリ
当会の中村俊彦さんが御宿の海岸で採集されたのが唯一の記録。海岸や河川敷でオトコヨモギがあれば採集出来るかもしれない。6月頃、オトコヨモギの枯れ葉に隠れている。
◆ルリボシカミキリ
2006年、当会の宮内氏が袖ケ浦市の埋め立て地で採集したのが唯一の記録。神奈川県では山地に生息していた本種が横浜市内など平地にまで分布を広げている。偶産の可能性が高いが日本の代表的なカミキリであり、秘かに生息していることを期待したい。
◆アサカミキリ
1980年代を最後に長らく採集されなかったが、2010年千葉市稲毛区から再発見された。しかしその後、生息地に笹が生い茂ったことでアザミが減少し、2016年の調査では発見することが出来なかった。稲毛区の生息地はごく狭い範囲であり、広い県内のどこかでまだ生息していると思われる。開けた環境にアザミの群生地があれば見つかるかもしれない。
3.生息範囲編
県内に記録があるものの、限られた地域からしか記録のない種類も多い。そんな種類の県内における分布状況を解明することも採集の楽しみである。
◆ハチジョウウスアヤカミキリ
南の島から海流にのって千葉県まで分布を広げてきたと考えられている。千葉県では御宿町と勝浦市からのみ記録されているが、南方系の種類なので、より南の鴨川市や南房総市にも生息していると思われる。海岸付近のアズマネザサで夏季にはビーティング、冬季には枯れたアズマネザサの割り出しにより採集出来る。
◆フタコブルリハナカミキリ
大型で綺麗なハナカミキリで上翅等の色に変異がある人気種。(ただし千葉県産はあまり綺麗でない個体が多い)南は館山から北は長柄町まで房総半島に広く分布するが、長柄町より北では見つかっていない。成虫はミズキに産卵し幼虫は土中で根を加害する。ミズキは長柄町より北にもたくさん見られるので、長柄町以北にも生息していると思われる。
◆キイロメダカカミキリ
南方系の種類で千葉県では大多喜町会所からしか記録がない。幼虫はカゴノキの枯枝に穿孔しているので、カゴノキ枯枝を持ち帰れば羽脱するかもしれない。
以上思いつくままに書いてみたが、これを読まれた会員の皆さんが県内でカミキリを探索し、さらには千葉県のカミキリが1種でも増えれば幸いである。(西 泰弘)
千葉県のムシのココが面白い! カトカラ編 (2016年5月12日付 掲載)
千葉県は高い山もなく、特徴的なムシは?と聞かれるとルーミスシジミくらいしか頭に浮かばない。知り合いのムシ屋さんもたいていは県外に採集に出て行ってしまう。でも、千葉県でよくよく調べてみると、あるいは見方を変えてみると、実は面白いことが沢山ある。
このへんのところをこれからシリーズでニュースレターに載せてみようと思う。先ずは言い出しっぺの私から、ということになった。以下の文は土曜サロンで配布される情報誌「SALON NEWSモドキ」に載せたものに手を加えた。
一般にカトカラと呼ばれるヤガ科シタバガ亜科の一群(Catocala属)は、前翅が地味な木目模様だが、後翅に赤、白、黄、紫などの派手めの斑紋を持っている。大きさ、色彩の変異、まとまりの良さもあって蛾屋だけでなく人気の高いグループだ。日本に31種を産するが、千葉県では記録種類数が少なく、千葉県産動物総目録で7種がリストアップされている。その後、君津市からアミメキシタバが記録されて種類数は8種となった。それでも最近の県別比較では下から3番目の少なさだ(石塚,2011)。その後、野田市から本県9種目のフシキキシタバが記録された。さらに、2014年にアサマキシタバとシロシタバが記録され、また、古い記録でベニシタバが確認されて、県内のカトカラは一挙に12種となった。大躍進と思ったが、これでやっと福岡県と並んで下から4位である。今回、本県での分布が明らかになった3種類の県別分布を石塚(2011)の「世界のカトカラ」から見てみよう。網掛けが記録のある県、白抜きが記録のない県、沖縄はアマミキシタバ1種を産するだけなので以下、この話から外す。先ずはアサマキシタバ。記録のないのはこの時点で茨城、千葉、東京、三重、島根。福岡、佐賀、熊本、宮崎と意外に多い。分布図では鹿児島が白抜きになっているが、県別の一覧表では分布するとしている。ベニシタバは記録のないのは千葉、奈良、長崎、鹿児島だ。シロシタバの記録がないのは、千葉と長崎、鹿児島。何故か千葉と鹿児島が頻繁に出てくるが、私の頭の中には鈴木某さんのご家族が分布するとカトカラが分布しにくいという仮説が真っ先に浮かんでくる。総じて九州では産出種類数が少ないが、分布図を見てなんで千葉県が白く抜けているのだと疑問に、かつ不満に思うのは私だけではないと思う。
カトカラの産出種類数は、関東地域では茨城16種、栃木24、群馬23、埼玉24、東京19、神奈川17であり本県が突出(突凹?)して少ないことがわかる。カトカラの産出種類数については、食草や環境、地史的経緯などいろいろな要因があると思う。また、カトカラについてはよく記録・発表されていることから、県別の種類数が算出されて比較できる状況にあるが、実は他の分類群についても詳細に比較すれば同様なことがあるのかも知れない。比較的調査が行き届いているチョウ類ではどうなのであろうか。
ところで、次に採れるカトカラは何だろうか。やはりこれは分布図からあたりをつけて、生息環境や食草から類推するのが確率が高そうだ。以前から当然生息するだろうと考えていたのがエゾシロシタバだ。食草はミズナラ、カシワなどとあるが恐らくコナラも食べるのではないだろうか。千葉以外には富山、奈良、福岡、佐賀、長崎で記録がない。次に可能性の高そうな種類はゴマシオキシタバ。食草はブナなので本県での産出は難しそうだが、長距離を移動するようで、ブナの全くない平野部でかなりの数が採れることがある。本県以外に記録のないのは京都、大阪、長崎のみ。穴馬はクロシオキシタバ。食草はウバメガシで太平洋南岸沿いでウバメガシが自生するところで記録されている。本県では同じくウバメガシを食べるヤクシマキリガが採れることや、伊豆半島まで分布することから、クロシオキシタバの可能性も捨てきれない。意外なところでは、ヤマナラシ・ポプラを食べるムラサキシタバが、関東では千葉県のみが空白になっており、もし採れたら大穴であろう。こんな風に、蛾の一グループを見てみても、なぜ採れないのか、採れるとしたら何か、と想像はふくらむ。そして、類似の分布をする他の種の分布要因を調べたり、新記録を狙って他産地の状況を調べたりと、調査、類推、想像、妄想はどんどん膨らんでいくのである。(斉藤 修)
【引用文献】
石塚勝巳(2011) 日本のカトカラ, むし社