8 房総の昆虫人

千葉県昆虫談話会会員名簿 房総の昆虫人<2019年版>(2019年12月25日発行)

「房総の昆虫人」のすがた
「房総の昆虫人」編集部

1.はじめに
世の中には実に多様な人々の集まりがある。会社や学校などはその最たるものだが、草野球やサッカー、バレーボール、音楽、ダンス、手芸、英会話など様々な趣味のサークルもまた、そのような人々の集まりの一つの形といえる。そしてそれらは年齢層や性別など、集う人々にある程度の「属性のまとまり」ができることが一般的である。会社はともかくとして、学校は年齢で限定されているし、草野球やサッカーであれば通常は世代ごと、あるいは男女別にチームを作る。バレーボールに至っては「ママさんバレー」の通称のごとく女性の独壇場だ。音楽やダンス、手芸、英会話などは性別は不問かもしれないが、ある程度の年齢以降のメンバーが多い傾向が少なからずみられるだろう。だが、「趣味を同じくする者同士の集まり」という点でこれらと何ら変わることのない当会では、もちろん偏りこそあるものの、下は小学生から上は後期高齢者まで、しかも男女を問わず、実に幅広い属性の会員がいる。これはある意味特異なこととはいえまいか。
本名簿の作成にあたり、各会員には3つの必須項目を書いていただいた。すなわち、「虫屋になったきっかけ」、「興味ある虫」、「自分はどんな虫屋かor目指す虫屋像」であるが、年齢・性別などと併せてこれらを眺めていると、ちばこん会員の傾向のようなものがおぼろげながら浮かび上がってくる。そこで、今回お寄せいただいた104名の会員の原稿から、「ちばこん会員の実像」なるものを探ってみるのも一興であろう。お暇な方はお付き合いいただきたい。

2.世代と男女比
会員全体(192)では男性が175(91.15%)、女性が17(8.85%)、回答ベース(104)では男性が92(88.46%)、女性が12(11.54%)で、いずれもざっくり4:1の構成比である。これを「世代」別に見ると下のグラフの通りで、若者(10代以下)は男性93.33%:女性6.67%、青年(20・30代)は男性80.0%:女性20.0%、壮年(40・50代)は男性83.33%:女性16.67%、それ以降(60代以上)は男性91.84%、女性8.16%である。年代別に見ると、30代・40代・60代で女性比率が全体の女性比率よりやや高く、10代以下と40代及び70代以上は圧倒的に男性が多い傾向がみられる。特に若者世代については、インセクトフェアや自然誌フェスタ会場の様子を見る限り、女子の昆虫愛好者数は決して少ないものではなく、「かつての」を含む「潜在会員候補者数」は多いのではないかと思われる。今後の作戦次第か。一方、60代以降については、「まあそんなものだろうね。」という印象である。「昭和」の時代のあちこちの虫好きの集まり(学会や同好会)のほとんどが、いわば「(かつての)男子の世界」であったことの名残といえるのかもしれない。

世代と男女比

3.きっかけ
虫に親しむようになったきっかけはもちろん人それぞれだが、最も多かったのが、男女問わず「物心ついた頃~小学生時代」であった。男性の実に78.26%、女性の58.33%を占め、明らかに幼少時の経験がベースになっていることが窺える。他に、女性では30代が16.67%あり、「子育ての過程で虫に親しむようになった」ような事例も見られるが、男性の場合は特にそういった傾向はないようだ。
また、その後の状況は、若者世代(20代以下)を除くと、男性が85.90%、女性が72.73%、平均すると8割を超える人がそのまま大人になっても虫を追いかけ続けている。残りは一時中断した人だが、再開のきっかけは、男性は「子育て」と「定年退職」がそれぞれ5.19%、「就職」や「大学入学(同好会含む)」がそれぞれ2.6%、中年に差し掛かって突然再開した人(1.3%)など様々である。一方女性は、すべて「子育て(27.27%)」であった。このような女性は世の中にたくさんいるのだろう。会の発展のためには、子育て世代の母親(もちろん子供もだが・・)向けのアピールも必要なのかもしれない。

4.興味ある虫
嗜好についてみてみよう。まず興味ある虫について、複数の分類群を挙げている人がほとんどだったが、便宜的に筆頭に上がったものに限定させていただいた。全体でみるとチョウが最も多く32.69%、甲虫が27.88%、ガが12.50%と続き、以下はトンボ5.77%、カメムシとハチが並びで4.81%、バッタ類が1.92%で、特に分類群を決めていない人が8.65%と意外に多かった。そのほか「虫屋」という人もいたが、網翅類とアブ・ハエを筆頭に挙げた人はいなかった。チョウが多いのは予想していたが、甲虫との差がそれほど開いていないのが意外である。また、その二つの分類群で全体の6割、ガを加えた鱗翅・鞘翅の2つの目で、ほぼ3/4に達する。

年齢との関係はどうか。n値が少ない年代が多いので、いくつかの年代をまとめて3つの「世代」として比較してみたい。まず30歳以下では甲虫が最も多く42.11%、次いでチョウとガが15.79%で並び、トンボが5.26%、分類群を定めていない人も15.79%いた。この世代では、チョウ+ガでも甲虫に及ばない。30代~50代では、甲虫が最も多いのは同じだが、比率は下がって37.14%、次いでチョウが22.86%、ガが14.29%、そのほかトンボ・カメムシ・ハチが並びで5.71%、分類群を定めていない人は11.43%であった。この世代では、チョウ+ガで、甲虫と並ぶ。一方60代以上では、チョウが46.15%でほぼ半分を占める。次いで甲虫が15.38%、ガが9.62%、トンボが7.69%、ハチが5.77%、カメムシ・バッタが並びで3.85%、分類群を定めていない人が7.69%であった。この世代では、チョウ+ガで甲虫のほぼ4倍、甲虫+ガでもチョウの半分程度にしかならなど、圧倒的にチョウの嗜好性が強い。還暦頃を境に、最も興味のある昆虫が大きく逆転してしまっているところがおもしろい。例会や土曜サロンなどで、なんとなくこのようなことがささやかれてきたが、今回改めてデータで裏付けられたといえる。また、かつての若者は「とりあえずチョウから入って他に興味が移った」という人が多かったようだが、データを見る限り、最近は、いきなり「甲虫」というパターンが多いようである。なぜなのか? ということを考察しても面白いかもしれない。
次に、主だった分類群ごとの年代構成を比較してみたい。チョウは、最も多いのが60代で35.59%、70代が26.47%、50代が20.59%、他の年代はいずれも10%に満たず、年代構成にかなりばらつきがみられる。ガでは最も多いのが50代で30.77%、70代が23.08%、60代・10代が同率で15.38%、40代・20代が同率で7.69%で、やや年代構成が偏っている。トンボでは、最も多いのが60代で33.33%、10代・40代・50代・70代がいずれも同率で16.67%と比較的バランスがとれているようにみえるが、0%の年代もあり、ばらつきは比較的大きい。甲虫では最も多いのが10代と40代・50代で17.24%、次いで60代・70代が同率で13.79%と、ばらつきは比較的小さい。分類群を定めていない人は、最も多いのが70代で25.0%、他は10以下・20代・40代~60代がそれぞれ同率で12.5%、30代は0%であった。年代別に見ると、チョウ・ガ・トンボでは最も多い世代の占有率が30%を超えており、年代分布に大きな偏りが見られるが、甲虫は最多の世代でも20%を割っており、かなりバランスがとれているといえるだろう。また、多くの分類群で0%の年代が複数見られるが、甲虫ではこのようなことはなかった。以下のグラフは、主だった分類群ごとに、各「世代」の比率を示したもので、濃いグレーが60代以上、グレーが30代~50代、薄いグレーが20代以下をそれぞれ示す。一目瞭然である。チョウは最も「高齢化」が進んでおり、トンボがそれに次ぐ。ガはやや高齢化が進んでいるが、バランスは悪くない。甲虫は中間世代がやや多いが、総じてバランスがとれているといえるだろう。特に分類群を定めていないグループは、ガに近い構成比だがやや高齢者が多い、という傾向がそれぞれ読み取れる。

ところで、当会は若い会員が比較的多いらしく、近隣都県の同好会のメンバーからうらやましがられているという話を聞くことがある。「隣の芝生が青い」だけなのかもしれないが、仮にそれを念頭におくと、ちばこんでは「高齢者嗜好の象徴」ともいえるチョウの33.0%は、果たして高いのか、それとも意外に低いのか、また他の分類群の傾向はどうなのか、他都県の同好会と比較してみたいところである。

5.興味ある地域
地域的嗜好は、全体では家の近所が30.69%、県内が13.86%、国内(県外)が27.72%、海外が3.96%、特になしという人が20.79%である。分類群の嗜好とあわせてみよう。チョウの好きな人では、家の近所が最も多く40.63%、次いで国内が28.13%、海外が12.50%、県内が3.13%の順で、地域にこだわりのない人が15.63%であった。ガでは家の近所が38.46%で最も多く、次いで国内と地域にこだわりのない人がそれぞれ23.08%、県内が15.38%で、海外の人はいなかった。トンボでは、近所、県内、国内できれいに三分され、海外と地域にこだわりのない人はいなかった。甲虫では、国内が最も多く39.29%、次いで地域にこだわりのない人が25.00%、近所が21.43%、県内が14.29%で、海外の人はいなかった。その他の分類群は母数が少ないので合算した。地域にこだわりのない人が最も多く41.67%を占め、次いで県外が33.33%、県内が16.67%、近所が8.33%、海外の人はいなかった。分類群ごとの傾向を以下のグラフで示す。濃いグレーが家の近所を含む「県内」、薄いグレーが海外を含む「県外」である。県内で活動している人の率が最も高いのはガで、トンボ、チョウ、甲虫の順となる。フィールドを定めている人だけで見てみると、トンボ・ガではほぼ7割の人が県内をフィールドとしているのに対し、甲虫では半分を超える人が県外で活動している。県内には存在しない高標高地に魅力的とされる種が多い分類群では、やはり県外に出かける人が多いのであろうか。また、海外組がいるのはチョウだけであるが、それとは反対に、県内をフィールドとしている人が思った以上に多かった。身近な虫であるため、家の近所で観察している人が多いのかもしれない。

一方、特に分類群を決めていない人では、近所が55.56%で最も多く、国内と県内が共に22.22%で、地域にこだわりのない人はいなかった(当然といえば当然だが・・・)。また、ざっくり「専ら好きな虫を追いかけている人(≒特定の分類群にこだわっている人)」と、「フィールドにこだわっている人」とに分けると、前者が80.76%、後者が19.23%であり、趣味とはいえ「地に足の着いた活動をしている人」もまた少なくない証といえる。
本土で唯一ブナ帯を欠き、ほとんどの分類群で山地性の種が少ないため、関東の他都県、特に神奈川県や東京都などと比較して昆虫相が貧弱とされている千葉県でありながら、意外と県内、特に家の近所をフィールドにしている人が多いことに驚く。最近の「房総の昆虫」は増ページ続きで、編集部はうれしい悲鳴をあげているが、このような多くの会員の日頃の努力の積み重ねあってのことと納得した次第である。

6.おわりに
最後に、虫を「メシのタネにしている人(現職・元職)」と「そうでない人(趣味)」とに分けてみた。回答項目ではないので見込み違いもあるかもしれないが、まだ「食い扶持」の決まっていない若者組を除くと、趣味の人が83.33%、現職・元職の人が16.67%であった。他の同好会はいざしらず、あくまでも趣味の会でありながら、「千葉県の昆虫相の解明」という壮大な野望をその活動の柱の一つに掲げる当会にとって、1割を大きく超える専門家の比率は、やはり重要な意味を持つのではないか思う。また、現在のこの傾向が10年後、あるいは20年後にどう変化しているのか、あるいは変化しないのか、将来的に比較してみても面白いだろう。
末筆ながら、このような「与太話」ができる素材をお寄せくださった、多くの会員のみなさまに感謝します。

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