第113回例会報告(2024.10.20)
第113回例会を2024年10月20日(日)に中央博物館講堂にて実施しました。代表幹事から挨拶後、以下の発表が行われました。(伴 光哲)
演題1:マレ―シア トレンガヌを訪れて (瀬戸 昭氏)
2024年5月にタイとの国境に近いマレー半島の東海岸トレンガヌを再訪した様子について、瀬戸昭氏にご講演いただきました。
〇今回採集に行ったトレンガヌとは
マレー半島東海岸、タイと国境を接するコタバル州に隣接する。敬虔なイスラム教徒が多く、他の州ではお酒が販売されているセブンイレブンでも、ビールが売られていないほど。
〇今回採集のターゲットである2種について
今回採集のターゲットは、ダンフォルディフタオチョウとバンカナオオイナズマを確認することである。ダンフォルディフタオチョウは、インドからスマトラ、ボルネオにかけて分布しているが、どこでも個体数が少なく、稀な種である。生息地である低地のジャングルは急速な開発にさらされており、絶滅が危ぶまれている。バンカナオオイナズマは、マレー半島、ボルネオ、スマトラから確認されており、インドシナ半島にはオス後翅にルリ紋のない近似種の、アルボプンクタータオオイナズマが分布する。
〇今回訪問した採集地と成果
Ulu Kekab、Bukit Bintang、Panchor Merha という 3 ヶ所の採集地にいき、うち Bukit Bintang で目的のダンフォルティフタオを2ペア採集し、2019年の雪辱を果たすことが出来た。一方で、バンカナオオイナズマは、Ulu Kekab でメスを目撃したものの、採集はできず。ガイドからオス 1 個体をもらうことでなんとか入手できた。
その他、Bukit Bintangではスミナガシ、ヤイロタテハ、ルリオビタテハといったタテハ類が、Ulu Kekabではワモンチョウやイナズマチョウの普通種が多く、Pancha Merha では緑色系のムラサキシジミの一種であるアウレアムラムラサキシジミ、キララシジミ、アオバセセリの一種が目撃・採集された。時期を変えて訪れたい採集地である。
〇その他、採集中に感じたことなど・・・
トレンガヌ州の地元のレストランでは、お得なセットメニューがあるので、もっぱらそれを頼んでいた。酒は取り扱っておらず、料理が辛いので、飲み物はアイスティーに砂糖を大量に入れた紅茶が普通である。また、こうしたレストランやホテルにはしばしばノラネコが住み着いている。
危険生物には遭遇しなかったものの、マレー半島は場所によってはトラ、ヒョウといった大型肉食獣がいるため、注意は必要である。
採集許可については、国立公園以外では採集自体は規制されていない。但し、それ以外でも地域によっては採集できない場所があるので良く確認する必要がある。また、個人や民間が管理する私設の公園では、交渉次第で採集できる可能性がある。もっとも、近年はABS問題の観点から、国内での採集自体はできても、採集品の国外への持ち出しや、新種記載等の研究材料に利用できるかは別問題である。これらの行為にはまた別に規制がかかっていたり、法的な手続きを要する可能性があるので、注意してほしい。また、アカエリトリバネアゲハをはじめ、法律で採集が禁止されている種もいるので、対象種をよく確認する必要がある。
演題2:採集時の熱中症対策について (小田切 健氏)
毎年、最高気温、平均気温ともに上昇傾向が著しく、採集中の熱中症対策は死活問題となりつつある。演者も2020 年以降でも沖縄で5回、千葉で1回熱中症になってしまっている。自身の経験上、WBGT 値(人体と外気との熱のやり取りに注目した指標。湿度、日射・輻射などの周辺の熱環境、気温の3つの指標をもとに算出される)が30以上で発症していた。
〇熱中症にならないために行なっている対策
演者が行なっている対策としては、
・十分な睡眠や採集途中の休息をこまめに取る
・冷たい飲み物をはじめ、大量の水分と塩分タブレットを摂取する
・急速冷却材(瞬間冷却「ひえっぺ」)の使用
・半袖or作業着+虫除けスプレーの着用・
意見交換で出た対策など・・・
・合計 2.5~3 リットルの水を飲むようにする。特に粉末から作るスポーツドリンクはおすすめ。
・汗がこもらないよう、服装はスポーツウェアの半袖。藪漕ぎの場合は冷汗アームカバーを着用する。
・長袖の服を川などで濡らしてから着用する。
・一度熱中症にかかった人は、その後もかかりやすくなる傾向がある。どうやら体質が変わって熱中症になりやすくなってしまうとのこと。いずれにせよ、一度かかってしまった経験がある人はより一層気をつける必要がある。
・登山用の長袖を着用する。
・塩タブレットに加え、ビタミン剤も併用する。
・工事現場で付けているような、ファンが付いた服はどうか?
→ファンのバッテリーが1日持たない。リュックを背負うと汗で蒸れやすくなる等の欠点があるため、採集時には向かない。
・氷水を頭からかぶって時間稼ぎをし、その間に冷えた場所に移動する。
・最も効果があるのは水風呂なので、溺れないように注意し近くの川や海に入って体を冷やす。
・アイスノンを首などの太い血管がある場所につける。
第112回例会報告(2024.2.18)
第112回例会を2024年2月18日(日)に中央博物館の会議室にて実施した。参加者は23名であった。例会に先立ち、鈴木代表幹事が本例会をもって退任されること、後任の代表幹事には博物館の斉藤明子氏が、採集例会担当幹事には小岩鷹明氏が就任される旨、報告があった。講演は以下の2題が行われた。(伴 光哲)
演題1:乾草沼の現状について (伊藤敏仁氏)
乾草沼は千葉県九十九里浜沿岸の横芝光町に位置し、ネアカヨシヤンマ、トラフトンボ、チョウトンボといった希少なトンボの産地として全国的に有名である。
伊藤氏は1995, 2020, 2023 年の各年に乾草沼の昆虫相調査を行った。
○昆虫相の概況
オオミズスマシ、ミズスマシ、タイコウチ、ミズカマキリ、ヒメミズカマキリは1995年の調査では沼のみならず、周辺の水路でも見られたが、2020 年には全く見られなくなってしまった。他の種も含め、水生昆虫は減少傾向が著しい。
湿地性のネクイハムシでは、フトネクイハムシ、キアシネクイハムシ、イネネクイハムシが採集されている。これらの種にとって、乾草沼は貴重な生息地と考えられる。
県内では乾草沼でしか採集されていない種として、ヒゲブトクチブトゾウムシがあげられる(しかし、千葉県未記録のハスオビクチブトゾウムシの誤同定では?と指摘があった)。また、千葉県初記録種となるハヤシサビカミキリ(千葉県初記録)が、乾草沼周辺の荒地脇に積まれたサクラの伐採枝から採集された。交尾器の形質から本種と同定した。国内では八重山諸島のみに分布することや、採集状況からおそらく国内外来種と考えられる。DNA解析も行ったが、移入元の推定には至らなかった。
草地に生息する種では、ルリクチブトカメムシが採集された。しかし、本種が採集された地点には太陽光パネルが設置されてしまった。
○乾草沼の環境の現状
沼の周辺では太陽光パネルの設置工事が進んでいる。生態系に対しては、昆虫やその他の生物の生息環境の減少のみならず、沼内の水草が消失した原因に太陽光パネルを保護するための除草剤の散布が考えられるなど、様々な悪影響を及ぼしている。また、工事に伴ってアルカリ性の土壌が攪拌され、環境の悪化にそのことが影響している可能性もある。
外来生物も多く生息しているようで、沼の中ではブラックバスやブルーギルがしばしば確認されている。
環境の悪化は進む一方だが、トンボ類を保全するため、簡易ビオトープを設置する試みも行われている。このような保全の試みが実を結ぶことを期待したい。
演題 2:2024 年 気になる蝶たち ―千葉県に関する話題― (大塚市郎氏)
※ニュースレターで紹介した内容の一部に誤りがあり、訂正いたします。
○千葉県のチョウ相の概況
千葉県のチョウの土着種:75 種。種数は横浜市とほぼ同じであり、トップクラスで少ない。様々な理由が考えられるが、他県にあるようなブナ帯以上の環境がないことが大きな要因と思われる。なお、参考までに東京都の確認種数は、126種である。
各地で人為的な放蝶に伴って記録される種も多く、オオムラサキが千葉市、長柄町、成田市で、ヒョウモンモドキ、コヒョウモンモドキ、オオルリシジミが千葉市内で放蝶由来の個体の確認例がある。ちなみに、ヒョウモンモドキ、コヒョウモンモドキは定期的に放している人がいるとのこと・・。
○県内で分布が拡大傾向にあるチョウ
・ツマグロキチョウ
近年埼玉や東京都から本種が散発的に記録されている。千葉県からも採集されるようになった。他県の生息地では、アレチケツメイに寄主転換したようである。生息地を移動しながら個体群を存続させているのかもしれない。県内からのさらなる記録を期待したい。
・ヤマキマダラヒカゲ房総半島亜種
2011 年以降、北方へは千葉市緑区や市原市、外房側では御宿町やいすみ市でも確認されており、分布が拡大傾向にある。
・ウラゴマダラシジミ
市原市、柏市、野田市で分布を拡大傾向にある。
・ルーミスシジミ
保田から鴨川を結ぶ線より南には分布しないと思われていたが、生息していることが明らかになった。御宿町、いすみ市、勝浦市で生息が確認されている。しかし、分布の中心は依然として清澄山〜元清澄山にかけての範囲であり、他の場所では少ない。
○近隣県での外来種の動向と県内への侵入の可能性について
・ホシミスジ近畿低地型亜種
東京都や埼玉県で確認されている。江戸川沿いの植栽伝いに東葛飾地域へ侵入する可能性は十分考えられる。
・ムシャクロツバメシジミ
神奈川県に侵入したものは、名古屋で採集された個体群と同じ特徴を有している。マンネングサ類は野生から園芸種まで様々なものがあるため、千葉県に侵入した場合、ほぼ間違いなく定着すると思われる。
・クロマダラソテツシジミ
成虫の移動能力はかなり高いようで、県内への侵入と発生状況を注視したい。一方で越冬場所に関する知見はないため、今後解明したい。
○千葉県内での生息状況が注目されるチョウたち
・クモガタヒョウモン
県内からはしばらく確認されておらず、絶滅した可能性が高いと思われる。
・ウラギンヒョウモン
千葉県で採集されている個体は、所謂サトウラギンに該当するものなのか、それともヤマウラギンに該当するものなのか、標本や過去の記録を精査する必要がある。
・オオムラサキ
房総丘陵南部での生息状況をはじめ、県内から確認されている2系統の個体群の現状について、調査する必要がある。
・ウラキンシジミ
房総丘陵に生息地があるが、近年の生息の有無について、確認する必要がある。
・ホソバセセリ
千葉県における生息状況を再確認。
・オオチャバネセセリ
千葉県からは絶滅したとされているが、ツマグロキチョウ同様に復活の兆候がある。※訂正
千葉県からは絶滅したとされているツマグロキチョウ同様に復活の兆候がある。記録を再度収集し、検討する必要が考えられる。
第111回例会報告(2023.12.17)
第111回例会、2023年度総会を2023年12月17日(日)に中央博物館の会議室にて実施しました。参加者は33名でした。代表幹事から挨拶後に総会が行われ、2023 年度会計報告、2024 年度の例会スケジュールと予算案についての報告がありました。
演題 1:タイワンウチワヤンマの生態と千葉への侵入(互井 賢二氏)
近年千葉県に分布を拡大させている南方系昆虫の一種であるタイワンウチワヤンマについて、互井氏の緻密な分析結果のお話を伺わせていただきました。本種の本県への侵入ルートの仮説(神奈川や東京方面からの侵入)や、在来種であるウチワヤンマとは腹部先端のいわゆる「ウチワ」の形状や色彩が異なることなどを発表いただきました。また、両種の成虫と幼虫との棲み分け等に関する相違点などを詳しくご紹介していただきました。講演後の質疑応答では、大塚市郎さんから、蝶でクロマダラソテツシジミの千葉県への侵入経路とほとんど同じルートなのではないかとのご指摘がありました。
演題2:虫屋のためのタマムシ講座 (小田切 健氏)
千葉県で採集できるタマムシ各種について、種ごとの採集方法や、千葉県内での珍しさを★の数で示されました。アオタマムシ、クロタマムシは★の数が多いこと、トゲフタオタマムシが千葉県以外では比較的採集が難しいことなどが紹介されました。また、長竿を用いての野外採集中の自撮り写真なども見られ面白かったです。その写真を見ているととても体力に自信のない方には厳しそうな印象を持ちました。小田切さんご本人も2日続けたら3日目からは筋肉痛で採集に支障をきたされたそうです(笑)。案の定、講演後の質疑応答では「いつまでそんな長竿で採られるのか?」との質問に対し、小田切氏は「体力の続く限り!」と豪語されておられました(笑)。
第110回例会報告(2023.10.22)
第 110 回例会を 2023 年 10 月 22 日(日)に中央博物館会議室にて実施しました。前回まではコロナ禍の影響を鑑みて大講堂で実施していましたが、今回以降は従来通りの会議室で行っていく予定です。参加者は 28 名でした。代表幹事から挨拶後、以下の発表が行われました。
演題 1:世界のアゲハチョウ図説と珍アゲハのエピソード(中江 信)
足掛け 22 年間をかけて作成された「世界のアゲハチョウ図説」について、演者が大きな影響を受けた中村哲、北杜夫などの人物にまつわるエピソードと共に発表されました。また、日本オマーンクラブ理事としてオマーン国立博物館へ7000 頭の標本を寄贈したことなど、オマーンでの昆虫採集について併せて発表されました。最後にパプアニューギニアの大珍品 Chilasa moerneri を、現地の採り子
が高木上に登って見事仕留め、皆で喜びに湧く瞬間の動画を紹介されました。
演題 2:千葉県蛾類目録 2022 を作ってみて (斉藤 修)
先日発刊された千葉県蛾類目録 2022 の作成について発表されました。データ(雌雄頭数、採集場所、年月日、採集者、保管者)の完備している紙媒体の文献を主な目録への掲載条件とし、基本的には一次資料のみを扱っておられました。近年記録のない種が炙り出されたり、1 例しか記録のない種を再検討したら誤同定が判明したりと、目録を作ったことによる副次的な効果もあったそうです。目
録が出ることで該当地域の特徴を把握することができ、目録が使われることでその精度が上がっていくとのことでした。
演題 3:セダカコブヤハズカミキリの累代飼育 (伊藤敏仁)
演者が行なっているセダカコブヤハズカミキリの累代飼育について発表されました。産卵木にはヤナギにオオヒラタケの菌糸をふりかけたものを主に使用し、このほかには菌糸カップやシルクメイトで飼育することがあるそうです。後者では人工蛹室を作成する必要があり、鉛筆、紙、濡れティッシュで作成可能だそうです。いずれにしても、「気合い」を入れて飼育するのが成功の秘訣であるとのことでした。
今回の演題 1 の中江 信さんは会員外の方で、中江さんは前代表幹事の木勢さんの飲み友達ということで、今回友情出演されました。このように会員外の方でも「何か話がしたい!」方がおられれば、会員とのつながりさえあればどなたでもお引き受けいたします。千葉昆はそんな了見の狭い会ではありません(笑)。演題 2 の斉藤 修さんは、前回までの本会事務局を担っておられた方で、ご存じの方も多いかと思われます。2020 年に鈴木 勝・斉藤明子の両氏により、千葉県甲虫目録 2020 が発行されたのを契機に(?)今回蛾類目録を作られたのかは定かではありませんが、これはとても手間暇がかかる作業であることは間違いありません。県内の過去の膨大な蛾類のデータを調べるのには大変利便性に優れており、蛾類に興味のおありの方は是非お手元に置いておきたい 1 冊です。
ここまでの 2 つの演題が終わった後、いったん 10 分の休憩をとりました。この間に、持ち寄られた標本を皆さん眺めておられました。中江さんが持参された大型ドイツ箱1箱には、世界の珍品アゲハチョウの標本がズラリと並べられ、その1箱で 500 万円相当すると言われておられ、思わず持ち帰りたくなる衝動にかられたのは私達だけでしょうか(笑)。海外にも視野が広がるいい機会になったかと思われます。鈴木智史さんは、大型ドイツ箱 2 箱を持参され、日本の奄美・沖縄のナガサキアゲハ♀の有尾個体(野外採集個体と飼育個体)やハイブリッド(ナガサキアゲハ×モンキアゲハの野外採集品)などを展示していました。斉藤修さんは、大型ドイツ箱 1 箱を持参され、小櫃川で発見された小蛾類の新種等が詰まった、とても貴重な箱を持参され展示されました。標本を持参され会を盛り上げていた
だいた皆様には厚く御礼申し上げます。12 月の例会では忘年会も控えているため、標本を持参される方は少ないかと思われますが、飲みに行かれない方には是非ご自慢の標本を持ち寄っていただき、目の保養をお願いいたします。2 月の例会時には、また色々な標本が見られるかと思います。
10 分の休憩が終了後、後半が再開されました。演題 3 の伊藤敏仁さんは千葉県のカミキリ屋さんの中でも、丸 諭さんとともに神とか首領(ドン)とか噂されておられる方で(笑)、この日はセダカコブヤハズカミキリの累代飼育について、ゴッドハンドテクニックのお話を伺いました。昨今鱗翅目を志す若者が少なく、甲虫屋が増えているせいか、この手の甲虫ネタは受けがよろしかったようでした。
そして、そのまま一人一話に突入し、各人の自己紹介がてら興味のある虫の話とか近況などを伺うことができました。とても有意義なひとときを過ごすことができ、定刻の5時丁度に終了しました。ご多忙中にもかかわらず、お時間をとられてご出席していただいた皆様には幹事より厚く御礼申し上げます。12 月の例会にも是非ふるってお越しくださいね。 (樽 宗一朗・鈴木智史・中村 涼)
第109 回例会報告の補足
本来であれば 134 号(前号)に載せる予定でしたが、うかつにもすっかり忘れてしまい、今号になってしまいました。ニュースレター133 号の例会報告の補足をさせていただきたいと思います。
2 月の例会では、伴さんからの演題発表の後、時間的にもかなりの余裕ができたため、急遽私が持参した大型ドイツ箱 2 箱(1 箱は奄美大島産のフタオチョウの飼育個体と、もう 1 箱は千葉県産ルーミスシジミの飼育個体)を用いて質疑応答を兼ねながら簡単に解説させていただきました。フタオチョウの夏季の飼育の難しさとか、ルーミスシジミの採卵の難しさ等を話したように記憶しております。
私は今年から久しぶりに代表を引き継いだばかりでしたので、例会の準備というか根回しというか…すっかり怠ってしまいました。そのような意味では伴さんからの発表はありがたかったです。
しかしながら、例会では毎度のことですが、予め演題者の発表が無くても、当日に持ち込まれるといったケースも決して珍しくはありません。また空いた時間で標本からも語られることも多々あり、演題が無いからと言っても決して油断は禁物ですぞ(笑)。ただし標本で語る場合は大講堂では不向きですね。ここしばらくはコロナ禍の関係で致し方なく大講堂で行っておりましたが、第 110 回例会からは再び従来通り会議室で行うため、こちらでしたら標本からも語ることは十分に可能です。昨今少子高齢化が進み、小学生や中学生などの参加が少なくなってきております。そのような方々には、是非一度お越しいただき、初めての虫を見つけたり、採ったりしたときの感動等を、お気軽に語っていただけたらと思っております。
ここでいったん中休みを少し取ったのち、一人一話をゆっくりと時間をかけて行うことができました。私はこの一人一話をとても重要視しております。とくに初めて参加された方が、どのような種類に興味がおありだとか、その人の人間性とかを垣間見ることができて、とても有意義だと思っております。しかし、これも演題が多い場合には、自己紹介だけで終わってしまうことが、これまでにもしばしばありました。そんなときは次にお越しいただいたときにでも改めて語っていただきたく存じます。尚、私以外にも標本を持参された方が何名かいらっしゃいました。標本の取り扱いに気を配りながら持参するといった行為はとても慎重
にならざるを得ません。持参され会を少しでも盛り上げてやろうとの気概が強く感じられ、改めて厚く御礼申し上げます。これでおひらきとなりました。以上補足でした。
なお、これが出た時には既に 10 月の例会は終わっているはずです。引き続き 12 月と 2 月の例会での演題を募集いたしておりますので、是非お気軽にご協力のほどよろしくお願い申し上げます。 (鈴木智史)
第109 回例会報告(2023.2.26)
第 109 回例会を 2023 年 2 月 26 日(日)に中央博物館講堂にて実施した。参加者は 21 名であった。代表幹事から挨拶後、以下の発表が行われた。(伴 光哲)
伴 光哲 「千葉県に最近侵入した外来種のカメムシ目 2 種について」
千葉県からはこれまで 23 種の外来種のカメムシ目が知られている。その中で最も直近になって確認された Pochazia shantungensis というアミガサハゴロモによく似た外来種のハゴロモについて、姿形、寄主植物、生活サイクルを紹介し、定するとどのような影響が起こり得るかを解説した。また、2020 年に浦安市、市川市から食跡が見つかったのを皮切りに、現在県内の 13 市町村から記録されているクスベニヒラタカスミカメについて、県内での確認地域や拡散の傾向を考察した。
最後に、外来種の侵入や分布拡大の調査を把握するためには、1. 存在を認識すること、2. 採集し、標本化して残すことが基本であること 3. 寄主植物や採集状況の情報とともに記録を報告すること の 3 点が重要であることを解説した。
第108 回例会報告(2022.12.24)
第 108 例会、2022 年度総会を 2022 年 12 月 24 日(土)に中央博物館講堂にて実施した。総会は 3 年ぶりの実施となり、22名の参加があった。代表幹事から挨拶後、以下の発表が行われた。(樽 宗一朗)
松田 卓巳:日本産コテングサシガメ属 Abelocephala の分類学的研究
コテングサシガメ属 Abelocephala はサシガメ科に属し,アジアから 9 種が知られる(Forthman, 2021)。そのうち 6 種が日本から知られ、いずれも奄美大島以南に分布する。生息環境としては、林床の落葉層から採集される(Ishikawa et al., 2015)が、環境や餌の選好性をはじめとした生態面の基礎情報は分かっていない。また、既知の分布北限より北に位置する屋久島(A.sp. 1)と大隅半島(A. sp. 2)から、近年未同定種が発見された。こうした背景のもと、演者は日本における本属の種多様性と生態解明を目指し、研究を行った。
その結果、未同定種の 2 種について、既知全種と外部形態を比較した結果、いずれも未記載種であると判断した。また、A.sp. 1 の雌では、本属種では初となる短翅型が出現することを発見した。採集方法としては、イエローパントラップの入り口を地面と同じ高さに合わせて設置することで、より効率的に採集できる可能性が示唆された。
第107回例会報告(2022.10.16)
第107回例会を2022年10月16日(日)に中央博物館講堂にて実施した。新型コロナウイルス感染症拡大のため中止されていた対面の例会は3年ぶりの実施となり、22名の参加があった。
代表幹事から挨拶後、以下の発表が行われた。発表後に1人1話が行われ、久しぶりの対面での会員交流の機会となった。(樽 宗一朗)
伴 光哲:清澄山周辺で発見された正体不明のヒョウタンナガカメムシについて
2020年秋に発表者が、清澄山周辺で採集された正体不明のヒョウタンナガカメムシ科の一種について、同定依頼を受けた。形態形質を検討した結果、胸部の長毛、翅の長さや点刻の状態などから、「日本未記録属であるHumilocoris属の未記載種」という結論となった。
本種はこれまで清澄山を中心とした6地点から確認されており、湿潤な林内を通過する林道沿いの斜面に生育する、ミヤマカンスゲという植物の根際から採集された。また、成虫の出現期としては、3〜6月の春から初夏と、8〜10月の晩夏から秋にかけて確認されている。
このほか、斉藤明子会員が今年県内で見た昆虫について写真のスライドショー形式で発表を行った。
リモート例会報告(2022.2.20)
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、通常通り例会を運営できないことから、2022年2月20日(日)にzoomミーティングを用いてリモート例会が行われた。昨年のリモート例会と同程度の30人弱が参加し、最近入会された方の姿も見られた。
代表幹事からの挨拶の後、以下2題の研究発表が行われた。千葉だけでなく、さまざまな地域を対象とした発表であった。発表後には1人1話と歓談会(任意参加)が行われ、コロナ禍の中、久しぶりの会員交流の機会となった。(樽 宗一朗)
1.川畑春佳・川畑雅代 「久米島のキオビエダシャクとケブカコフキコガネについて」
2021年3月に久米島に移住したので、当地で身近に観察できる昆虫2種について発表した。
【キオビエダシャク】
本種はシャクガ科の蛾の1種である。沖縄では幼虫がマキ(方言名チャーギ)を食害するので「チャーギ虫」と呼ばれている。年3~4化とされ、久米島では3月から11月にかけて多く発生する。私が通っている久米島高校のイヌマキも被害を受け、昨年の5月頃はほとんどの葉がなくなっていた。本種の幼虫は、食草のイヌマキ由来の毒性物質を体内に蓄積している。昨年、高校の敷地で成虫を捕食しようと口にくわえたイソヒヨドリが、すぐに吐き出したのを目撃した。
近年、生息域が南九州に拡大しており、街路樹や庭木などへの食害が問題になっている。マキは千葉県の県木であり県内に多く見られるため、本種が千葉県に移入した場合は大きな被害が懸念される。
現在、本種の駆除は幼虫への薬剤散布が中心である。薬剤散布は人体や環境への影響が考えられるため、私は、産卵そのものを抑止する方法で被害を抑えられないかと考えた。そのひとつが、成虫を一斉捕獲する装置「キオビエダシャクホイホイ」である。まだ想像の域を超えないが、今後の観察を通じて取り組んでいきたいテーマである。
【ケブカコフキコガネ】
本種は沖縄諸島・奄美群島に分布するコガネムシの1種で、2年に1度、冬に出現する。今季はいわゆる裏年に当たるが、2022年1月~2月に灯火に飛来した個体を観察した。
飛来した個体は♂ばかりだが、サイズや体色などの個体変異の幅が広い。文献の写真で見る限りでは、沖縄本島や奄美から得られた個体とは違う印象を受けた。また、♂同士で交尾行動が見られる、昼間はあまり飛ばない(得意ではない?)など、興味深い生態が観察できた。今季2回の発生ピークを確認しており、来季の発生についても調査を継続していきたい。(川畑春佳・川畑雅代)
2.樽 宗一朗「アリヅカムシを探そう!」
2021年4月から中央博に就職した発表者が、自己紹介を兼ねて専門であるアリヅカムシについて紹介した。
A)アリヅカムシとは?
アリヅカムシはハネカクシ科に属する1亜科で、世界から約10,000種、日本から約350種が確認されている。ハネカクシ科の他亜科と比較すると、腹部が融合して動かないなどの特徴がある。多くの種は森林の土壌に生息しているが、アリの巣、湿地や海岸に生息する種も知られ、生息環境は多様である。
B)千葉県のアリヅカムシについて
千葉県甲虫目録(鈴木・斉藤,2021)によると、県内からは31属55種が知られている。近隣都県(東京都・神奈川県・埼玉県)と比較すると40種ほど少ない。標高が低いことを加味しても、まだ調査が進んでないと考えられる。
千葉県では固有種が一種知られている。1998年に千葉市柏井市民の森で採集された標本をもとに記載されたイシイツチアリヅカムシMayetia ishiianaである。当時アジア初記録属として報告されたが、20年以上経った今でも本種以外、ツチアリヅカムシ属のアジアからの記録はない。私がすぐにでも採集したいアリヅカムシの一つである。
C)採集方法
シフティングが基本的な採集方法であり、森林土壌や海岸などさまざまな環境で使うことができる。アリヅカムシ採集において、篩は一人一つ持つべき必須アイテムである。樹皮下に生息する種はスプレーイングも良い。
トラップも有用である。ライトトラップに飛来し、設置式のライトトラップでも多数の個体を得られることもある。特に湿地や河口などのオープンランドな環境で効果を発揮する。衝突板トラップでは土壌に生息する種とは別の種類を採集することができ、ぜひ行いたい採集方法の一つである。
上述のとおり県内の記録はやや少なく、これから県内のアリヅカムシの解明に向けて調査を進めていきたい。(樽 宗一朗)
リモート例会報告(2021.2.21)
新型コロナウイルス感染拡大のため通常通りの例会運営ができないことから、2021年2月21日(日)にzoomミーティングを用いてのリモート例会が行われた。参加者は27名であり、中には初参加や遠隔地でなかなか会場に足を運べない参加者の顔も見られた。
まず代表幹事から、リモート例会の開催の主旨について発表があった。その後、以下2題の研究発表が行われた。コロナ禍でなかなか調査などに出づらい状況下ではあるものの、そのような中で行われた地道な調査・観察結果に裏付けされた内容であり、示唆に富むもので聞き応えがあった。
発表の後には、1人1話と歓談会(任意参加)が行われ、久しぶりの会員交流の機会となった。(伴 光哲)
1.斉藤 修 「2020年(私的)千葉県蛾類五大ニュース」
2020年は、春先からコロナ禍で外出が制限されて採集に行くこともままならず、会食も不可で、ムシ談義で酒を飲むこともできなかった。そこでせめて千葉県の蛾類十大ニュースを挙げてみようとしたが、五つしか思いつかず、表記の標題になった。
- クロメンガタスズメの累代飼育完成
クロメンガタスズメは、千葉県では2007年に初めて記録され、その後、毎年、採れている。蛹での越冬が可能で、千葉県に定着したと思われる。成虫は特殊な採餌方法で、ミツバチの巣から盗蜜する。飼育では成虫への給餌が難しく、羽化後2週間で卵巣が発育して交尾、産卵できるようになる。越冬した蛹からの成虫を野外で網掛けして放飼し、次世代の卵を得て幼虫を飼育し、成虫を得、サイクルを繋ぐことができた。
- 千葉県の海岸の蛾ブーム
これまでも特別な環境に固有な蛾のブームが何度かあり、高山蛾、昼蛾など本も出版されている。海岸の蛾も一時、ブームになったが、北日本の日本海側が中心で長続きしなかった。最近、千葉県の海岸部から、日本の南岸沿いに分布するビャクシンハモグリガやビンガタホソメイガが記録され、県内では密かなブームとなっており、さらなる調査が行われている。
- 交尾器検鏡による蛾類同定の新局面を迎える
蛾類標準図鑑の発行後、地域の蛾相調査が活発化し、表徴だけでは十分に同定できない種類がでてきた。会では交尾器検鏡ワークショップを開催し、会員10名が参加した。また、年少会員による、入れ歯洗浄剤を用いた蛾類交尾器の観察が話題になった。このような経緯もあり、「房総の昆虫」に成虫標本とともに交尾器の写真を付けた報告が載るようになった。
- 日本初記録種2種を記録、1種が再記載される
「房総のむら」、「こんぶくろ池」の昆虫相調査で、日本初記録種2種、ヒシモンカバマルハキバガ、和名未定種(ギンチビキバガ近縁種)が見出された。また、記載後、長いこと記録のなかったニッポンシロシンクイが採れ、雌は初めての記録となり再記載された。
- 千葉県産の蛾種数が2,500種を越える
千葉県産の蛾種数は、千葉県動物誌(1999)で1,211種、千葉県産動物総目録(2003)で1,840種、WEB版千葉県産蛾類リスト暫定版(2019)で2,457種であったが、今回の集計で2,511種となった。 (斉藤 修)
2.中村 涼 「千葉県産アオゴミムシ族について」
アオゴミムシ族は日本から40種が知られ、ゴミムシの中でも美麗種が多く人気のある一群である。多くの種が湿地性であり、湿地の多い千葉県には24種ものアオゴミムシが分布している。本州産アオゴミムシ族28種の大半が分布していることになり、県別種数としても全国で有数である。
本発表では、まずアオゴミムシ族の採集法(夜間のルッキングが特にオススメ)や同定資料が紹介された後、千葉県産全種について標本写真を示しつつ、簡単な解説と主観的な珍品度評価が行なわれた。千葉県に生息するアオゴミムシ族のうち、特に千葉県が多産地として知られるオオサカアオゴミムシやツヤキベリアオゴミムシ、近年の記録が全くないクビナガキベリアオゴミムシ、珍品として知られており昨年数十年ぶりに採集されたアオヘリアオゴミムシ、千葉県から日本初記録されたがその後ほとんど採集例がないクマガイクロアオゴミムシなどが特に注目される。
アオゴミムシ族はゴミムシの中では種同定が容易な方であるが、同定が難しい種やしばしば混同される種(コガシラアオゴミムシ・ニセコガシラアオゴミムシ・ムナビロアオゴミムシの3種、キボシアオゴミムシとアトボシアオゴミムシ、アトワアオゴミムシとコアトワアオゴミムシ、スジアオゴミムシとアオヘリアオゴミムシ、ヒメキベリアオゴミムシとクビナガキベリアオゴミムシ)も存在する。本発表では、豊富な比較画像によりそれらの区別点が詳細に解説された。特に、一般に普通種とされるコガシラアオゴミムシが演者の手元の多数の標本の中に見出されなかったことが報告され、過去の記録・標本の見直しも含めて県内のコガシラアオゴミムシとその近似種の分布状況を調べる必要があることが指摘された。また、稀な種であるアオヘリアオゴミムシやクビナガキベリアオゴミムシが近似の普通種と混同されている可能性があり、過去の記録を再検討する必要がある。
最後に、千葉県で今後新たに見つかる可能性のあるアオゴミムシ族の種が紹介されると共に、千葉県では近年アオゴミムシ族をはじめとするゴミムシ類の包括的な記録が少なく、記録の集積の必要であると締めくくられた。 (中村 涼)
千葉県のアオゴミムシリストと珍品度評価
1.オオサカアオゴミムシ★★★
2.スジアオゴミムシ★
3.オオキベリアオゴミムシ★★
4.チビアオゴミムシ★★★★
5.クロヒゲアオゴミムシ★★★
6.コガシラアオゴミムシ★★?
7.ニセコガシラアオゴミムシ★★?
8.ムナビロアオゴミムシ★★
9.オオアトボシアオゴミムシ★
10.アオヘリアオゴミムシ★★★★★
11.コキベリアオゴミムシ★★
12.ツヤキベリアオゴミムシ★★★★
13.アオゴミムシ★
14.アカガネアオゴミムシ★★★
15.アトワアゴミムシ★★
16.コアトワアオゴミムシ★★★
17.ムナビロアトボシアオゴミムシ★★
18.アトボシアオゴミムシ★★
19.キボシアオゴミムシ★
20.キベリアオゴミムシ★★★
21.ヒメキベリアオゴミムシ★
22.クビナガキベリアオゴミムシ★★★★★★
23.クマガイクロアオゴミムシ★★★★★★
24.ノグチアオゴミムシ★★
第104回例会報告
第104回例会は、2020年2月9日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は32名。
まず代表幹事から、今年度も採集会の実施やインセクトフェア(9/23秋分の日)・自然誌フェスタ(11/3文化の日)への出展を予定していること、定点調査は休止することなどが発表された。その後、以下の3題の研究発表が行われた。どの発表も入念な観察に裏付けされ、示唆に富んだ内容のもので、大変聞き応えがあった。
1.土井学 「続・謎のマルバネクワガタを追う 台湾中部編」
発表者はここ数年、台湾の友人たちと台湾各地のドロマルバネクワガタの変異を調査している。2017年の例会発表では台湾東部における調査の模様を報告したが、今回は続編として2019年に中部山地を訪ねた様子を発表した。ドロマルバネクワガタの仲間は山脈によって複雑に分化しており、各地の変異を調べるだけでも面白い存在だが、近似種アカマルバネクワガタとの関係についても謎が多い。両種は形態も生態も明らかに別種と思えるほど異なっているものの、中間的な個体が見つかる地域もあり、これらを追いかける調査は難解なジグソーパズルに向き合っているような魅力がある。今回は両種の特徴を生態写真や動画で紹介すると共に、台湾の美しい自然や道中で出会った食べ物など旅の情報も伝えた。(土井 学)
2.日暮卓志 「普通種のコフキコガネをめぐる謎」
普通種のコフキコガネに隠蔽種がいる!というセンセーショナルな発表。静岡県の富士川以東〜山梨県道志村〜神奈川県全域〜東京都の多摩川以西〜南房総にかけて、雄交尾器の形態が異なるコフキコガネの隠蔽種が分布していること、また隠蔽種の分布の外側に当たる千葉県鴨川市〜袖ケ浦市、東京都の多摩川以北や静岡県富士市などには中間的な形質を持つ個体が分布する移行帯があることが報告された。
この隠蔽種の正体は、雄交尾器の形態から新島・木下(1923)で新亜種として記載され、その後コフキコガネM. japonica Burmeister, 1855のシノニムとされた「ゴテンバコフキコガネ Melolontha japonica gotenbaensis Niijima & Kinoshita, 1923」であると考えられた。しかし、両者は異所的に分布すること、狭い地域に中間的な形質を持つ個体群が分布すること、M. japonicaのタイプ産地は”Japon”としか書かれておらず、時代背景を考慮すると現在真のコフキコガネとされる種の分布域外で採集された個体が基となっている可能性があり、タイプ標本の再検討が必要であること、東北、中国地方からさらなる不明種の存在が示唆されるなど、コフキコガネは普通種にも関わらず分類学的に非常に混沌とした状況にある。まずは精度を高めるため、各地の標本を集積しているとのこと。皆様もコンビニの灯りなどでコフキコガネを見た際は気を付けて頂ければと思う。(伴 光哲)
3.斉藤 修 「ミノウスバの卵保護類似行動」
生垣のマサキなどを寄主植物とするマダラガ科のミノウスバPryeria sinica Mooreが産卵後、数日に渡って卵を保護するような行動を見せるという報告。蛾類学会で発表済みの内容ではあるが、千葉県内での生態観察の結果であるため、今回ご講演頂いた。
交尾あるいは産卵を行なった雌についてマーキングをし、行動や天敵の有無について観察を行なった結果、飛翔に適した気象条件になっても卵塊上に留まっている雌個体に手で触れるなど刺激を与えても飛び去らない、産卵後1週間以上にわたり卵塊上に留まるなどの卵保護をうかがわせる行動が観察された。一方で、威嚇行動や匂いを出すなどの外見上防御行動と考えられるような反応を示さない、天敵と考えられるような卵寄生蜂やアリ等は周辺に見られない、卵を保護することで孵化率・生存率が上昇するのか、そもそもこの行動はどのようにして獲得された形質なのかなど、多くの謎が残されている。チョウ目でもカメムシやハサミムシで見られるような卵保護に似た行動が見られるというのは、私としては想像がつかなかったことなので、これらの謎が解き明かされることを期待している。(伴 光哲)
2019年度総会&第103回例会報告
2019年度総会及び第103回例会は、2019年12月15日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者46名、年少会員の参加も多く、過去最多の参加者数となった。
Ⅰ 2019年度総会
代表幹事から、会務報告、今年度事業報告、来年度事業計画案が提示された。
・会誌「房総の昆虫」:65号は会員名簿「房総の昆虫人2019年版」と併せ、昨日発送を完了した。編集長が交代するが、来年度も今のところこれまで通り2回の発行を予定している。
・定点調査:2018年から実施してきた柏市「こんぶくろ池自然博物公園」の調査が終了、来年度以降は実施も含め未定である。
・県内採集会:昨年に続き、6月8・9日に市原市大福山周辺で、8月24・25日に東大演習林で実施した。来年度は札郷作業所が年度末で廃止となるため、東大演習林は2回を予定している。それ以外の採集会の候補地は、2月例会までに連絡頂きたい。
・イベント:大手町インセクトフェア(9月26日)、自然誌フェスタ(11月3日)に出展し、それぞれ複数名の新入会員を獲得することができた。来年度も参加する予定である。
事務局からは、会員数の報告ののち、今年度決算報告と来年度予算案が示され、監査報告と併せて、拍手をもって承認された。
続いて議案として、前回例会で予告した会費の改訂について、近年の会誌経費が高止まり傾向であり、数年内に会財政が破綻する可能性が高いことから、年会費を一般会員、年少会員共に1,000円ずつ値上げするための会則改正案が示され、その経過措置として、2020年度分は、2020年3月末までに納入された場合に限り、従前の額(一般3,000円、年少1,000円)とすることが、代表幹事から発議された。これに対し、いくつかの運用面での質問があったが、内容に関する異議はなく、拍手をもって承認された。
また、12月末で今期の幹事会の任期が終わるため、現幹事の退任報告と新幹事選任が行われ、拍手による承認のあと、新幹事から挨拶があった。
Ⅱ 第103回例会
総会に引き続き、例会が開催された。当日は以下の3題の報告があった。
1.土井 学
「千葉にもある分布境界線・本州南岸線のススメ」
千葉に動物地理区の分布境界線「本州南岸線」が認められる、という発表。日本では、ブラキストン線、渡瀬線、対馬線、蜂須賀線、三宅線、八田線などさまざまな分布境界線が設けられている。千葉県内にも「本州南岸線」が引けることを、海岸線に生息するいくつかの昆虫を例に挙げて説明された。本州南岸線は年最低気温の平均が−3.5℃の等温線とされる「ハマオモト線」とほぼ同義とのこと。勝浦で初めて記録されたハチジョウウスアヤカミキリは、幼虫がアズマネザサ、ハチジョウススキの茎の中を食べるカミキリムシだが、海岸線を探索し大原漁港にも分布していることがわかったとのこと。南房総の海岸で見つかるシロヘリハンミョウは銚子ではいくら探しても見つからないこと、富津岬で打ち上がったアマモを食べるハマベゾウムシが幕張の埋立地の海岸でも見つかることなど、興味深いお話しを聞くことが出来た。また、「本州南岸線は北上しているのか?」を調べるには、居たか居ないかだけではなく生息密度も重要なのでは、との問題提起もなされた。(斉藤明子)
2.斎木健一
「高等学校の生物室に残されている昆虫標本について」
昔は授業で昆虫標本をつくったものだが、今の学校では全くやらなくなった。高校の教科書から「採集の仕方」「標本のつくり方」という文字が消えて久しい今、学校の生物室にあった標本はどうなっているのか、その現状を調査した結果について報告があった。県立高校、千葉県総合教育センターなどの生物室を訪れたところ、さまざまな標本が残されていたようである。昆虫標本はきれいに残っている場合もあるが、当然、虫食いにより針とラベルだけという惨状も。標本に興味の無い今の先生方にとって、標本は場所塞ぎでしかなく捨てられる運命が待っているのだが、その前にお宝を見つけようという試みである。絶滅種の標本が見つかることを願っている。(斉藤明子)
3.中尾健一郎
「Trus Madiで採集した興味あるムシとABS規制」
令和元年11月に行ったマレーシア・Trus Madiの様子について報告があった。ボルネオ島サバ州の州都コタキナバルから南東約70キロ、Trus Madi山の山中まで車を乗り継ぎ、3食付きライトトラップ完備の宿泊施設で蛾類を中心とする昆虫の写真撮影を行ったとのこと。毎晩、見晴らしの良い尾根道に10基も仕掛けられたライトトラップをめぐり、オオヤママユ、オオツバメガなどの大型蛾類やさまざまな美しい蛾類に加え、バイオリンムシ、コノハムシ、奇抜なスタイルの種々のカマキリ、アトラスとモーレンカンプオオカブト、美しい赤紋をもつシロスジカミキリ(標本にすると一か月ほどでただの白紋になってしまう)などの生態写真をふんだんに見せていただいた。それにしても熱帯には美しい蛾がいるものだ。(斉藤明子)
今回の例会では、3本とも報告内容が盛りだくさんで予想以上に時間がかかったため、発表が終わった時点で時計を見ると、忘年会の開始まで残りあと1時間半。恒例の「一人一話」は、やむなく初参加の方のほか、若者や高齢者のみに限定せざるを得なかった。
その後、多くの会員がいつもの「升や」に移動し、大忘年会が開催された。乾杯後、しばらくの間はみな静かに虫談義のときを過ごしていたが、今年は例年より参加者が多く、しかも昨年は不作のため出品されなかった「自家製ハチミツ」が満を持して出品されたためか、7時過ぎから始まった恒例のオークションでは、老若男女入り乱れての大騒ぎであった。そのほかにも標本や生き虫、文献やグッズなど、いつものごとく種々雑多な品が出品され、みな思い思いに競り落としていたようだ。その後しばら歓談し、「ごきげんよう」の発声で無事散会となった。
第102回例会報告
第102回例会は、2019年10月20日(日)午後1時半より千葉県立中央博物館会議室で開催された。参加者29名。
Ⅰ 会務報告
現在会員数190名、会誌65号は12月中旬発行予定、66号は来年6月予定、原稿は3月1日〜受付。2018年1月より実施してきた柏市「こんぶくろ池自然博物公園」定点調査は12月で終了、来年度の定点調査は未定。県内採集会は、6月8・9日に市原市大福山と梅ヶ瀬渓谷で、8月24・25日に清澄東大演習林で実施した。来年の候補地があれば2月例会までに連絡を。清澄の調査は来年も実施予定。イベントとして、インセクトフェア(9月23日)で2名の新入会があり、自然誌フェスタ(11月3日)にも出展予定。会員名簿「房総の昆虫人」の編集中。幹事の任期が12月までなので次期幹事を募集中。来年度以降の会費見直しを検討中。(斉藤明子)
Ⅱ 研究発表会
1.伴 光哲「ナガカメムシ入門〜採り方と調べ方〜」
演者が研究対象とする「ナガカメムシ」は、半翅目カメムシ亜目ナガカメムシ下目ナガカメムシ上科に属するカメムシの一群である。熱帯を中心に約4,000種、国内からは11科83属165種が記録されているものの、未記載種が数多く知られるなど、多くの分類学的な問題点を抱えている。また、千葉県からは9科60種が記録されているものの、それらは過去に大規模な昆虫相調査が行われた場所からのものであり、「どこに、どんな種が分布しているのか」という基礎的な知見はほとんどの地域で不明である。
ナガカメムシはどのような分類群から構成されているのか、それらがどのような姿形をしているのかについて紹介を行い、続いてナガカメムシが耕作放棄地や河川敷の草地で多く見られる一方、イチジク科やカバノキ科の樹木、種によっては林床のリターやコケの下にも生息することや、食性に関する知見について説明を行った。続いて、ナガカメムシを採集する上で有効な採集方法としてのスウィーピング、ビーティングを中心に、草が蔓延るような環境下で有効とされる地表に這いつくばってのルッキングやエンジンブロワーを用いた動力吸引法、リター内に生息する種に有効とされる土篩いを用いてのシフティング、ライトトラップを始めとした有用な各種トラップについて紹介した。そして、標本作成法や科・属・種の同定を行う上での分類形質の紹介、雌雄の識別法、タッパーや調理用のホットプレートを用いての交尾器の処理法や観察法について紹介し、最後に千葉県内におけるナガカメムシ研究のトピックについて、演者が着任後に見出した複数の知見について述べた。(伴 光哲)
2.川畑春佳「入れ歯洗浄剤を用いた蛾類の交尾器の観察(2)」
昨年の発表後の進展について報告があった。今年の研究では、ヨーグルトメーカーを用いて40℃に加温することで、課題だった処理時間を大幅に短縮することに成功した。使用する薬品もセスキ炭酸ソーダ、重曹、排水パイプ用洗浄剤などさらに広く市販品を試し、市販薬品でも水酸化カリウム(KOH)による処理と同様に交尾器の観察ができることを見事に証明した。この研究が交尾器観察の普及に役立つのはまちがいない。(斉藤明子)
3.斉藤 修「千葉県のホソガ」
ホソガは、前脚で立ち上がってとまる姿が特徴の開張1㎝以下の小蛾類で、全国に255種、千葉県からは60種の記録があり、スウィーピング、ライトトラップで採れるそうである。すべて交尾器を見ないと同定が出来ないほど分類が難しいグループとのことで、展示された美しい展翅標本も合わせ、小蛾類の奥の深さの一端を覗かせていただいた。(斉藤明子)
4.尾崎煙雄「千葉県で発生したナラ枯れについて」
ナラ枯れは、ナラ菌Raffaelea quercivoraという菌類がブナ科樹木の材に感染することにより引き起こされる樹病であり、この菌を媒介するのが甲虫の一種カシノナガキクイムシである。1980年代以降、本州日本海側を中心にほぼ全国的な広がりを見せているが、群馬県の一部と伊豆諸島を除いた関東では未確認であった。しかし清澄山の昆虫相に関する県立中央博物館と東大千葉演習林の共同研究の過程で、2017年8月に演習林内において千葉県で初めてのナラ枯れを確認した。ほぼ同時期に神奈川県でも見つかり、2019年には埼玉県でも発生が確認されている。県内のナラ枯れ発生地は2017年は南房総に限られ、被害樹種はほぼマテバシイだけであった。しかし、その後被害地域は拡大し2019年には千葉市や船橋市でも確認されている。また、被害樹種もコナラ、クヌギ、スダジイ、カシ類などと多様化している。演者らはナラ枯れの研究の一環として、カシノナガキクイムシの発生消長を調べるため東大千葉演習林内で羽化トラップ調査を行い、新成虫の羽化のピークが6月後半~7月であることや、本種が被害木内で確実に増殖していることを明らかにした。また調査の過程で、ナラ枯れと関係が深いいくつかの生物を発見した。昆虫では、カシノナガキクイムシの天敵と考えられているキンケツツヒメゾウムシやルイスホソカタムシ(後者は島嶼を除く関東地方で初記録)、ナラ枯れ被害木周辺でよく発生し、「触るだけでも危険」と言われる菌類、カエンタケも確認した。(尾崎煙雄)
第101回例会
第101 回例会は、2019 年2月17日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は25 名。例会に先立ち、午前中の幹事会で検討された今年度の会誌やニュースレターの発行スケジュール、県内採集会や東大演習林での採集会の予定、開催中の房総のむらでの昆虫展示、柏市こんぶくろ池自然博物公園での昆虫相調査などについて報告があった。
例会報告
1.宮野伸也『スリランカの養蜂』
JICA のシニアボランティアとしてスリランカに養蜂指導を目的に1年弱行ってきた。スリランカでは在来種のインドミツバチを用いた養蜂が行われている。インドミツバチはニホンミツバチと同種の別亜種である。自然状態では巣は木のウロや石垣の隙間などに作られるが、養蜂では四角い木製の箱と移動式巣枠を用いる。幼虫を育てる箱は縦×横×高さがそれぞれ230 ㎜×230 ㎜×150 ㎜で巣枠が8 枚入る。この上に高さが半分の蜜箱が重ねられ、ここに蜜が貯められる。その他の養蜂道具としては燻煙器、ナイフ、遠心分離器などが使われている。なお、スリランカでは蜂刺されを防ぐための面布や手袋は使われていない。時々刺されることがあるが、あまり気にしていないようである。また、人工的な女王バチの育成も行われている。蜂蜜が生産できる時期(採蜜期)は地方により異なり、ユーカリを蜜源植物とする中央高地では7月から8月、ゴムを蜜源植物とする中央西部低地では3月から4月である。なお、花の少ない季節の代替え花粉として、乾燥イーストによるものを作成し、その効果を検証したが効果ありとの結果は得られなかった。
2.斉藤明子『中央博物館の昆虫コレクション-30 年間で何を収集したか-』
これまで、博物館で標本を残していくことを中心に仕事をしてきた中で、現在どのような昆虫のコレクションが当館に蓄積されているのかを紹介した。
●当館の調査で収集された標本、海外調査
○小笠原、北マリアナの昆虫調査(1989~1992)
○カムチャツカ、北千島の昆虫調査(1996・1997)
○重点研究課題.東京大学千葉演習林(清澄山系)の昆虫相調査(2012~2015):14 目2,812 種,新種2 種,県初記録300 種,同定済み登録標本23,000 個体
○その他、地域研究課題・普遍研究課題など
●自治体などによる調査の証拠標本
○「佐倉市自然環境調査報告書」(2000)
○「船橋市内環境調査報告書(2002)
○「我孫子市の昆虫」(2010)
●専門家からの受け入れ標本
○春田俊郎氏によるネパール産のガ類標本
○加納六郎氏によるハエ類標本
○大澤省三氏による甲虫類標本
○山﨑秀雄氏による甲虫類標本
●当会会員からの受け入れ
○会で実施した採集会や定点調査で採集された証拠標本
○県内のチョウ類標本など
●その他
○タイプ標本群、展示用購入標本、個人コレクション
なお、2018 年10 月末日現在の登録点数は、183,716 点である。
(斉藤明子)
第100回例会
第100 回例会は、2018 年12 月16 日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。例会に先立ち午前中の幹事会で検討された来年度の会誌及びニュースレターの発行スケジュール、県内採集会や東大演習林での採集会の予定、また昨年1年間の予定であった柏市こんぶくろ池自然博物公園での昆虫相調査を来年12月まで期間延長することなどのほか、2名の幹事が退任したことが報告された。引き続き、2018 年度総会が開催され、今年度会計・事業報告及び来年度事業計画及び予算案が満場の拍手を以て承認された。
その後の例会は、第100 回の記念としていつもと趣向を変え、各自自慢の標本や思い出の標本を持ち寄って、『拡大版一人一話』を行った。会場レイアウトは中央にいくつかテーブルを置く立食パーティー方式とした。テーブルには数多くの「自慢の標本」が置かれたほか、動画や写真などを持参した方もいた。一人一人にそれらを片手に近況や昔話など語っていただいたが、いつもと違って各会員のお話をゆっくり聞くことができ、顔の見える良い記念の例会となった。
その後、場所を富士見町の磯料理桝やに移し、恒例の大忘年会が開催された。鍋をつつき、ビール(もちろん年少組はジュース)でのどを潤しながら、あちこちで虫談義に花が咲いていた。なお、今年のオークションでは、近年恒例の目玉商品となっていた「自家製蜂蜜」が事情により出品されなかった。誠に残念ではあったが、標本やグッズ、文献などさまざまな品物が出品され、時にレアものや掘り出し物もあり、大いに盛り上がっていた。(斉藤明子)
第99回例会
2018年10月21日(日)午後1時半より千葉県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。3名の会員から話題提供があった。発表の後、一人一話が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) テントロールの開発など最近の話題(清水敏夫)
成田西陵高校で生徒の運営する昆虫館を指導され、現在は県立農業大学校で活躍されている。例会では農業大学校での研究の紹介と最近のトピックスをお話しいただいた。ほ場でアブラムシ防除のために開発された飛翔制御したテントウムシを生物農薬「テントロール」として実用化したこと、これは農薬で死滅していた土着天敵を利用するため、遺伝子汚染の心配や殺処分の必要がなく学校教材にもなる、という利点があるとのこと。さらにコナジラミ対策の微生物殺虫剤「マイコタール」を付着させた“対コナジラミ武装テントウムシ”を開発したこと、ペットボトルを活用した昆虫飼育ハウスを特許出願中であることなどについてお話しいただいた。また、単為繁殖に成功し新聞記事にもなったピンクのクビキリギスの実物(生)が展示され、皆、美しい色に見入っていた。
2) チョウの動画(田久保豊一)
広島県のヒョウモンモドキ、石垣島のオオシロモンセセリ、オオゴマダラ、ツマムラサキマダラ、ミカドアゲハ、長崎県福江島のタイワンツバメシジミの産卵、吸水の様子などを美しい動画でご紹介いただいた。
3) 入れ歯洗浄剤を用いた蛾類の交尾器の観察(川畑春佳)
ガ類の交尾器を観察する際、筋肉の溶解に通常は水酸化カリウム(KOH)を使用するが、入手が難しいため市販されている入れ歯洗浄剤を使用してみたところ、時間はかかるものの充分に観察が可能となるとのことであった。だれでも交尾器の観察ができることが分かったので、ぜひお試しいただきたい。この発表は、報告者(中1)の夏休みの自由研究であり、会誌63号に掲載される。
第98回例会
2018年2月18日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は22 名。3名の会員から話題提供があった。内容はベルギー、石垣島、中南米に関する話題で、これまで以上にグローバルかつディープなお話しを伺えた。その後、恒例の一人一話が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) ムラサキトビケラのタイプ標本をつきとめる-欧米の自然誌博物館事情-(倉西良一)
ムラサキトビケラの分類学的な問題を解決するために訪れた、ベルギー自然史博物館での標本調査の様子のお話である。ベルギー自然史博物館はバリバリの形態屋が多いため、とても雰囲気が良く居心地が良かったそうである。標本はアナログのカード式で整理され、すぐに目的の標本にたどり着いたこと、さらに現地で交尾器の観察までスムーズに行う事ができたとのこと。日本の博物館事情とは大違いの様子を、興味深く、うらやましくうかがった。加えて、民泊サービスを利用した海外旅行節約術の紹介もあった。
2) 石垣島の昆虫館と出逢えた蝶たち(大塚市郎)
2016 年11月から昨年にかけて4度訪れた南西諸島でのチョウ類の採集観察結果と、採集の合間に立ち寄った地元の昆虫館の情報をご紹介いただいた。
・蝶館カビラ(石垣市川平):館長は千葉から石垣島に移住した方で、自らガイドも行っている。世界の蝶、石垣島や南西諸島の蝶が展示されており、飼育館も併設されている。飼育館ではオオゴマダラ、シロオビアゲハの他、10種ほどの生体展示が見られるとのこと。
・世界の昆虫館(石垣市バンナ公園):2011 年に開館した昆虫館で、地元の蝶と世界の蝶、大型甲虫などを展示している。オオゴマダラの羽化の展示、アサヒナキマダラセセリの標本と解説があった。標本収蔵室には展示標本の倍位の標本があり、甲虫なども含まれていた。
・蝶園(石垣市バンナ公園):石垣市営で、蝶の生体を展示している。オオゴマダラ、ツマムラサキマダラなどが見られる。
・石垣島で出逢えた蝶たち
石垣島では140種(土着63種・半土着3種・迷蝶74種)が知られ、千葉県と種数(土着種)はあまり変わらない。ヤエヤマカラスアゲハ、日本最小のホリイコシジミ、ウスアオオナガウラナミシジミ、コノハチョウ、コウトウシロシタセセリなど、多数の生態写真とともに出逢った蝶の紹介があった。さらに4回の調査による石垣島11 カ所の蝶類記録表も作成され、これによると土着種51/64 種、半土着種2/3 種、迷蝶11/74 種、合計64/140 種を採集(撮影含む)されたそうだ。
3) 2017年中南米採集紀行 ブラジル・コスタリカ・ペルー-いも・虫やショーベが行く!-2017年2月~6月(木勢庄平)
何度も中南米を訪れている木勢さんだが、モルフォチョウの中で未だに採れないMorpho hercules を求め昨年訪れた中南米、その採集旅行の顛末を楽しく伺った。まずは、ブラジルのモルフォチョウ各種に始まり、岩山Morro dos Perdidosの頂上の花に来る昼蛾や、五色のセセリチョウなどについて、美しい写真で紹介された。ペルーでは、Quince Mil で採集されたモルフォチョウ他の標本写真、モンテネグロから大型トラクターの荷台に荷物と共に乗り込み、20㎞を6時間かかってキャンプ地へ向かった際の想像を絶する悪路走破の様子は迫力満点だった。中米コスタリカではマフィア(?)の別荘地にご招待を受け優雅な採集を楽しまれたご様子であった。
第97回例会
2017年12月17日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は49名。総会の後、3名の会員より話題提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。例会終了後、場所を移して大忘年会が開催された。(倉西良一)
●例会報告
1) モンゴルの春夜蛾2-2つの蛾相-(工藤広悦)
モンゴルの5月の蛾採集は、寒さと悪天候のため難しい。ゆえに、採集標本及び採集データは希少で重要である。2015年と2017年の5月にTereljで採集を行い、新たな種類と個体数を得た。前回(春夜蛾1)との蛾相が大きく異なり、その種類や構成数は違った。Nukht, Terelj共に、ウランバートルから数十キロと離れていない。寒冷期の蛾の飛翔域は狭く春のキリガ類は、誘蛾灯の真上の樹から落ちてくると言われている。近くの食樹や隠遁・生息場所からのみの光源に飛来しているのであろう。Nukhtで多く採れる蛾は、シベチャキリガ、ムラサキウスモンヤガそして、Orthosia askolensis。一方、Tereljでは、ミヤマゴマキリガとHaula collettiが多い。Nukhtでは、ミヤマゴマキリガは全く採れていない。2017年の蛾は、6月の蛾もふくまれており、発生が例年に比べ早い。温暖化の影響であろうか。シベチャキリガは、小川沿いのブッシュのホザキシモツケ(バラ科)を食する。Tereljの目玉種ミヤマゴマキリガは、中高木のカラマツなどの葉を食する。Nukhtは、潅木帯、Tereljは、カラマツ林。ゆえに、それぞれの身近にある食餌植物を含む小環境で蛾が採れたのではないだろうか。春の樹木とその周辺を飛翔する蛾のイメージ図を描いてみた。
2) 謎のマルバネクワガタを追う-台湾の山脈と生物地理-(土井 学)
日本国内では相次ぐ規制により合法的な採集がほとんどできなくなったマルバネクワガタ属。残念ながらアマチュア虫屋が自由に野外調査を楽しむ機会が絶たれてしまったが、お隣の台湾に目を向けると生態面はもちろん、分類学的位置付けも謎に包まれた種が多く、彼らを追って山をめぐる調査には魅力が尽きない。演者は台湾の友人と共に台湾産マルバネクワガタの調査を楽しんでいるが、台湾の山脈に通えば通うほど、その分布や変異が複雑であることに気付かされている。その様相はさしずめ日本のルリクワガタやコブヤハズカミキリに似ており、まだまだ数多くの新発見が眠っていそうである。今回の発表では既知種の生態写真や動画を紹介すると共に、台湾東部の山脈に謎のマルバネクワガタを追った旅の模様を報告した。
3) ニュージーランドの自然と昆虫(日暮卓志)
2017年3月中旬に、大学のニュージーランド(以下、NZ)調査に同行する機会があり、公式の採集許可を得て、昆虫調査をすることができた。NZは南半球にあるため、3月とはいえ、季節は秋である。調査地域は、北島のオークランド地方で、その北西にあるワイタケレ地域公園と南東にあるフヌア地域公園であった。これらの公園は、水源保護林となっており、外来種天国とも言われるNZにおいて、在来の植生が非常によく保存されている地域である。植物の多くは、初めて見るものばかりで、種類がわからないものばかりであった。筆者は、主にコガネムシ上科甲虫を中心に探索したが、コガネムシ・クワガタムシ以外にも、目についたゾウムシやゴミムシ、カミキリムシ、あるいはセミ、バッタなども採集した。驚いたことに、この島では、多くの甲虫がその下翅が退化して、肩が丸くなった形態となっていたことである。また、甲虫ではホソカタムシの仲間が異様に多様化してたり、ウェタ(NZ固有のカマドウマの仲間)が多くの種類がいるなど、繁栄している昆虫が日本とは大きく異なっていることも印象的であった。今回、観察することができたクワガタは、マダラクワガタに似たMitophyllus属の種で、触覚先端が長く伸びているなど、一見するとクワガタに見えない種類が度々採集された。コガネムシはビロウドコガネを大きくしたようなコガネ(Odontria属)が、NZでは異様に多様化しているが、今回はそのうちの2種程度を観察できた。そして、NZ固有の食糞性コガネは、Canthonに属する2属(Saphobius属とSphobiamorpha属)をあわせて約20種(これらもすべて飛べない種である)が確認されていて、北島と南島にそれぞれの種が狭い範囲に分布しているのだが、今回はそのうちのSaphobius属3種を観察することができた。発表では、NZの自然環境と観察した昆虫、そして、NZ Arthropod Collection (Auckland) に保管されているコガネムシ上科昆虫標本を中心に調査風景を動画を含めて紹介した。
第96回例会
2017年10月15日の午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は40名。3名の会員から話題提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(倉西良一)
Ⅱ.例会(研究発表・採集旅行報告)
1) 宮崎県都井岬のオオセンチコガネ(川畑春佳)
オオセンチコガネに興味を持ち宮崎県都井岬で、冬と夏に採集を行った。都井岬でオオセンチコガネを採集するにあたり、体色、夏と冬で体にどのような違いがあるのか、なぜ冬でも成虫が活動しているのかについて調べた。また、オオセンチコガネ以外に、馬糞にどのような糞虫がいるのかを記録した。2015年の冬に行った採集では、オオセンチコガネは馬糞と地面の間や、馬糞に穴をあけて潜っていることがわかった採集したオオセンチコガネは合計165匹で、赤色系156匹(95%)、緑色系9匹(5%)だった。2016年には夏に採集を行い、採集したオオセンチコガネは合計134匹で、赤色系123匹(92%)、緑色系11匹(8%)だった。このほかに馬糞付近で、ゴホンダイコクコガネ、カドマルエンマコガネ、オビマグソコガネ、ヒメフチケマグソコガネ、セマダラコガネ、ヒメコエンマコガネ、ヤマトエンマムシ、ゴモクムシダマシ、コアオハナムグリを採集した。ここまでの観察の結果、都井岬のオオセンチコガネは圧倒的に赤色系が多く、緑色系は少なく、冬に活動するオオセンチコガネは黒っぽく(擦れている?)、前肢のとげがすり減っていることがわかった。都井岬は冬でも温暖で、野生馬の良質な馬糞に恵まれているので、オオセンチコガネは冬眠せずに活動を続けるのではないかと考えられる。また、確認できたオオセンチコガネ以外の糞虫は、夏は6種類だった。
2) 蝶を求めて、あちこちへ(田久保豊一)
デジタルビデオを駆使して日本各地で蝶の姿を撮影された映像が撮影旅行のエピソードをまじえて紹介された。
小笠原(東京都)、3月13日~16日:オガサワラシジミ、オガサワラセセリ
与那国島(沖縄県)、3月29日~4月2日:シロミスジ、ヤエヤマカラスアゲハ
里見が丘公園(北海道)、5月18日~19日:ミヤマセセリ、チャマダラセセリ
恩原高原(岡山県)、7月3日:ウスイロヒョウモンモドキ
層雲峡(北海道)、8月10日:ミヤマカラスアゲハなど
3) 蛾の同定のための強力アイテム、交尾器-観察の手順とその応用-(斉藤 修)
蛾は種類数が多いが、最近は良い図鑑が出て同定が容易になってきている。蛾の同定には外部形態として、翅の斑紋が最も重要で、その他、触角や脚の形態をみれば9割以上の同定が可能と思われる。しかし、得られるのが新鮮な完全個体ばかりではないこと、すれや欠けがあり個体変異があること、また、図鑑の解説が近似種との比較が主体で、1頭だけでは判別不能な場合もある。そこで、内部形態としての交尾器の形態が重要になる。交尾器は種の存続にとって基本的な器官で変異も少ない。しかし、同定に有効なのはわかっているが、道具がない、手順が面倒などで実施しにくいと感じている人が多い。ここでは、この程度の道具で交尾器の観察ができるという紹介をして、交尾器観察のハードルを下げたい。また、交尾器を観察してどんなことができるのか、実例を示した。
交尾器観察の手順として、標本に標識ラベルを付ける→腹部を切り離す→苛性カリで柔らかくする→実体顕微鏡下で解剖する→交尾器を取り出して観察する→後処理をする、がある。これらについて実際の手順を写真で紹介した。また、必要な道具やあると便利なものも示した。
このような手段で、外見での識別が難しいウンモンクチバとニセウンモンクチバを同定し、採集数の多いウンモンクチバの化性を判定し、出現時期による大きさに差がないことを示した。また、ウンモンクチバとニセウンモンクチバは大きさだけでは区別できないことを示した。
第95回例会
2017年2月12日(日)午後1時半より千葉県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。尾崎煙雄・斉藤明子・斉藤 修の3名の会員により1題の話題提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) 東京大学千葉演習林昆虫調査報告(尾崎煙雄・斉藤明子・斉藤 修)
清澄山系の昆虫相の解明度をさらに高めることを目的とし、演習林において新たに昆虫相調査を行った。この調査では、過去の調査以上の結果を得るため、季節を選ばず年間を通じてできるだけ回数を多く現地調査を実施するとともに、多種多様なトラップを多様な環境に設置するなどの努力をした。また、可能な限り多くの分類群を網羅するように調査を行った。
房総丘陵は最高標高408mの低標高ではあるが、千葉県内唯一の山地であり、また県内最大の連続した森林地帯でもある。中でも清澄山系は房総丘陵の中でも最も良好な天然林が残された地域である。東京大学千葉演習林は1894年に設立された日本最古の大学演習林で、清澄山系のほぼ全域にまたがる2,226haの面積を有している。植生は大半が森林で、モミ、ツガ等の針葉樹とスダジイ、カシ類等を主体とする天然林が63%を占めており、渓谷沿いにはフサザクラ等の落葉広葉樹林が成立している。この他にスギ、ヒノキなどの人工林がある。標高は約50m~377mの範囲だが、地形は非常に急峻である。演習林の北部は東京湾に注ぐ小櫃川の源流域に相当し、南部は二タ間川流域である。地質はおもに新第三紀の海成堆積岩で泥岩、砂岩、凝灰岩、礫岩から形成されている。演習林内の標高300mにある清澄観測所における2000年~2009年の月平均気温に基づく温量指数は108.0℃・月である。この温量指数は植生帯分布とよく対応することが知られており、現在の気候条件では清澄山系全域が暖温帯常緑広葉樹林帯に属している。しかし、年平均気温が3℃低ければ標高300mでも温量指数が85℃・月以下となり、約2万年前の最終氷期最盛期には清澄山系の少なくとも稜線部は冷温帯落葉広葉樹林帯に含まれていたと考えられる。このことは、現在の清澄山系に分布する冷温帯落葉広葉樹林(いわゆる山地性)の昆虫が氷期の遺存分布であることを示す。
調査の内容:2012年4月〜2014年11月の期間、真冬も含めて月1回~3回現地調査を行った。さらに2015年3月~8月に月1回程度の補足調査を行った。
調査方法:任意採集法では、見つけ採り、ビーティング(叩き網採集法)、スウィーピング、土篩い。石・朽ち木起こし、朽ち木崩し、ブラッシング、たも網採集、スプレーイング。トラップ調査では、ベイトピットフォールトラップ、フライトインターセプトトラップ、ライトトラップ、照明付き吊り下げ式衝突板トラップ、アカネコールを用いた衝突板トラップ、マダラコールを用いた衝突板トラップ、イエローパントラップ、羽毛トラップ、地中トラップ、半地中トラップなどを行った。
結果と考察
今回の報告では合わせて14目2,766種の昆虫を記録した。この内、1種が新種とされ、少なくとも282種が千葉県からこれまで記録が無かった種と確認された。以下、目毎の結果を示す。
ハサミムシ目:千葉県初記録の1科1種を記録した。
カワゲラ目:3科10種を記録した。
バッタ目:14科51種を記録した。
ナナフシ目:1科2種を記録した。
カマキリ目:2科4種を記録した。
ゴキブリ目(シロアリ類を含む):4科4種を記録した。
カメムシ目:得られた標本の内、整理が済んだものだけで43科195種を記録した。内訳は頸吻亜目が14科44種、異翅亜目が29科151種であった。これらの内、少なくとも22種が千葉県初記録であった。鈴木(2011)は近年の記録がない等の理由で5種のカメムシ目昆虫を「X:消息不明・絶滅生物」と評価している。本調査により、この内ヤスマツアメンボ、ベニモンマキバサシガメ、アダチアカサシガメの3種の再発見に成功した。
ハチ目:20科155種を記録した。
コウチュウ目:本調査で90科1,283種を記録し、内192種が千葉県初記録種、1種が新種(Hishina & Hayashi, 2016)であった。最も種数の多かったのはハネカクシ科の154種で、オサムシ科142種、ゾウムシ科132種、カミキリムシ科109種、ハムシ科93種が続く。千葉県での既知種数と比較して本調査による記録種数の割合が高い分類群、あるいは千葉県初記録種の多かった分類群として、タマキノコムシ科、ハネカクシ科、ゾウムシ科キクイムシ亜科などがあげられる。
アミメカゲロウ目:4科9種を記録し、内2種が千葉県初記録であった。
ヘビトンボ目:2科3種を記録した。
ラクダムシ目:1科1種を記録した。
トビケラ目:16科31種を記録し、内4種が千葉県初記録であった。
チョウ目:チョウ目ガ類の調査は、全体調査より短く2012年4月から2014年7月までの2年3ヶ月に実施した。また、2015年6月に1回の調査を追加した。調査は大半をメタルハライドランプ3灯を用いたカーテン法によったが、一部、日中に見つけ採り法で採集を行った。その結果、同定できた標本、1,017種、7,130頭を得た。今回の調査で、千葉県初記録となる種は20科60種あった。
(なお、以上の内容は2017年3月に印刷となった次の論文の内容の一部を改変したものとさせていただいた。斉藤明子・尾崎煙雄・宮野伸也・鈴木 勝・斉藤 修・村川功雄・倉西良一(2017) 東京大学千葉演習林(千葉県南部清澄山系)の昆虫相.千葉中央博自然史研究報告特別号(10):61-232, vii-xvi(pls.1-10).
第94回例会
2016 年12月18日午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者47名。総会に続いて、3名の会員による話題提供があった。その後、各会員の活動紹介(一人一話)が行われ、会員の採集動向などについての話題提供があった。例会終了後、場所を移して大忘年会が開催された。なお、要旨には未発表データも含むので、断りなく引用する事はご遠慮願いたい。(倉西良一)
●例会報告
1) .アカマダラセンチコガネの食性とムネアカセンチコガネの幼虫生態(日暮卓志)
・アカマダラセンチコガネの食性
世界的に稀に採集される程度であるため、その生態情報が非常に乏しいアカマダラセンチコガネ科の生態解明を目指し、日本産アカマダラセンチコガネの生息地を探索の上、生態観察を野外と飼育条件下で行った。その観察の結果、里山的な環境にも生息していること、日中から日没後にかけて散発的に活動すること、土盛りのある坑道に生息すること、腸内容物の解析から、アーバスキュラー菌根菌(AM 菌)の胞子果を食べること、などが明らかとなった。さらに、野外で行動観察を行ったところ、胞子果を大顎で加えて、後退しながら運搬し、新たに坑道を掘ってそこに持ち込み胞子果を食べるという行動が観察された。また、秋に得られた新成虫を飼育した結果、AM菌胞子果を与えることで、越冬を経て翌夏まで飼育することができることから、年1化と推定された。今後は、産卵生態や幼虫の生態についても追求する予定である。
・ムネアカセンチコガネの幼虫生態
ごく最近、豪州産ムネアカセンチコガネ数種について、母虫体積の60%を占める巨大卵を産み、幼虫はほぼ何も摂食せずに短期間で成虫になるという驚異的な生態をもつことが報告された。それに対し、日本産の幼生期は全く知られていない。そこで、手がかりを得るために日本産メス個体を解剖したところ、コガネムシ類の卵としては異様に大きいことが判明したが、豪州産と比してはるかに小さいことから、幼虫の摂食の可能性が強く予想された。さらに、ムネアカセンチコガネの産卵用坑道と予想される深い坑道を掘り進めた結果、平均80㎝ の深さから卵から前蛹までの各段階を掘り出すことに成功した。その結果、ムネアカセンチコガネ幼虫が排便すること、そして幼虫室から大量の糞が見つかったことから、何かを摂食していることが強く示唆された。また、従来、年1化で成虫越冬と推定されていたが、晩秋に掘った産卵用坑道から、卵から前蛹までの各段階が見られたため、過去の推定とは異なる生活史であることが強く疑われた。今後は、引き続き、幼虫食性や幼虫期間、化性について詳細に調べていく予定である。
2) 千葉県のキノコヒモミノガの生態-前回の発表からわかったこと-(工藤広悦)
前回の発表では、藤平氏採集の千葉県清澄山産を中心とする1♂2♀の成虫を同定し、千葉県から初めてキノコヒモミノガを記録した。本成虫は、開張が10~15㎜ ほどの小さな蛾で、♂、♀共に翅がある。ヒモミノガは2種知られていて、特にその生活史は他のミノムシと大きく異なる。ミノは、細長いチューブ状で、その中に幼虫がいる。長さは幼虫の6~10倍もあり、極めて長い。模様があり異なる色が交互に出て、縞模様となっている(杉本, 2010)。ヒモミノガの幼虫は、鎌倉市妙本寺や横須賀市衣笠山で得ていたが、キノコヒモミノガの幼虫は入手できず、その生活史は調査できていなかった。今回、6月に鴨川市清澄・東大演習林宿舎周辺を調査し、本種ミノと幼虫を発見した。ミノは、やや朽ちたサクラの樹皮に多数着いており、ウメノキゴケ類の苔と模様が同化していた。そこで、採取・飼育後羽化した成虫と共に幼虫を検鏡し、その形態を観察したのでその結果を報告した。ミノは、緑がかった灰白色と暗褐色の帯が交互に出る模様で、ヒモミノガと比べてコントラストは鮮やかである。その素材は、明るい苔と暗い樹皮からなると思われる。ミノから取り出した両種の幼虫は、区別が容易である。キノコヒモミノガは、全体が黒・暗褐色で、ヒモミノガは、ややくすんだ乳白色の地に褐色の斑紋が目立つ。羽化成虫は、前翅斑紋で区別ができるが、雄の場合、交尾器が極めて有効である。今後は、両種の幼虫・蛹の形態を詳しく検鏡し、中村(1977)を参考に、その区別点を明らかにしていきたい。
3) 伊豆諸島八丈島における国内外来種ニホンイタチの昆虫食(土井 学)
伊豆諸島八丈島では、1959年~1963 年にネズミ駆除を目的にニホンイタチが導入された。導入により、それまで島の農業に打撃を与えていたネズミ害を低減させることができたが、ニホンイタチの捕食対象はネズミだけにとどまらず、オカダトカゲなどの在来種の激減を招くことにもなった。1980 年代のイタチの糞内容物調査から、当時既に絶滅寸前にまで個体数が落ち込んだトカゲから昆虫類へと捕食対象が変化したことが知られるが、八丈島には地表徘徊性のハチジョウノコギリクワガタが生息しており、その影響が懸念されるところだった。そこで演者は2013 年1月~12月に八丈島のニホンイタチの糞を収集・分析し、どのような昆虫類が捕食対象となっているのかを調べた。その結果、ニホンイタチはハチジョウノコギリクワガタを捕食しているほか、1970~1980 年代に新たに島に侵入した国内外来種の昆虫類を盛んに利用し、高密度の生息を維持していることが分かった。外来種を取り巻く問題については、上位捕食者として在来種を駆逐するケースが注目されることが多いが、餌資源となり得る昆虫が定着した場合も、地域の生態系に影響を及ぼす可能性が考えられた。昨今、様々な昆虫が外来種として分布を拡大している。直接的な食害などの影響が軽微であっても、それらの動向を継続的に観察することで、思いがけない変化に気づくかもしれない。
第93回例会
2016年10月16日(日)午後1 時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者36名。総会に続いて、3名の会員による話題提供があった。その後、各会員の活動紹介(一人一話)が行われ、会員の採集動向や蝶や蛾、カミキリ、トンボ、蜂、などについてのお話があった。(倉西良一)
●例会報告
1) .楽に撮れる高山蝶3種(田久保豊一)
楽に撮れる(=撮影し易い・体が楽である)田久保さんおすすめの撮影ポイントが紹介された。おすすめの場所の条件としては、第一に歩く時間が短い、第二に待っていれば飛んでくる、第三に採集禁止で採集者がいないため、人がいても観察者のみ(ただし撮影者・シャッター音多数)、第四に食草・食樹も近くにあり、近くにある吸密植物などにとまる、第五に足場が良く安全、である。
・クモマツマキチョウ(撮影日2016年5月15日 場所:長野県大町市平)扇沢駅から徒歩20 分位の舗装道路の脇(普通の山道は5分、舗装道路15 分位)
・ミヤマシロチョウ(撮影日2016年7月18日 場所:長野県東御市・群馬県妻恋村との県境、湯の丸山 コンコン平付近)湯の丸山の無料駐車場から、徒歩40 分位(普通の歩きやすい山道)。有料リフトの稼働日ならば、リフト(@500)5 分の後、徒歩20 分位
・ミヤマモンキチョウ(撮影日2014年7月21日 場所:長野県東御市 湯の丸山 池の平湿原(放開口))池の平湿原の有料駐車場(@500)から放開口まで徒歩15 分位の木道付近(普通の歩きやすい山道)
以上、チョウの撮影や観察を志す方々にお勧めしたいとの事。この中で、ミヤマモンキチョウの行動が、近年のモンキチョウの侵入で変化しつつあるという注目すべき指摘があった。詳細な観察とモニタリングが望まれる。
2) 「パラグアイ-アルゼンチン」「コスタリカ」「ペルー」の採集記-いも・虫や・ショーベが行く-(木勢庄平)
精力的に中南米に調査に出かけておられる。今回の例会にも昨日ペルーより戻った足で参加されたらしい。秋のペルー遠征は毎年の恒例になっているとのこと。パラグアイは台地が大規模に開発されていて好採集地へのアクセスは極めて困難だという。川を渡ったアルゼンチンは植生が良く残っていて成果があがったもよう。各地に根付いて働く日系移民の方々と素晴しいシュラスコ料理が印象的だった。アルゼンチンのSalto Piedras Blanca(白岩キャンプ場)は渓相が素晴しく見えた。是非一度行ってみたい所だ。コスタリカ、ペルー、行く先々で紹介される野性的で美味しそうな食事やビールに時間を忘れる思いであった。最寄りの空港から夜行バスで10 時間以上揺られて採集地に入るようすや、質素な宿泊施設での山盛りの食事は魅力的だった。モルフォチョウのポイントは渓流沿いであり、私は美しい南米の渓流の景観に釘付けとなった。グアピレスのグアシモ橋には是非一度行って灯火採集をしてみたいものだ。南米の渓流に生息するトビケラはどんな顔をしているだろうか?海外調査にはつねに危険がつきまとう(これは国内でも同じではあるが)、木勢さんは今回のペルーでの調査旅行の帰路で起こった驚くべきアクシデントを紹介された。採集地のキンセ・ミルからクスコに向かうバスが峠で故障して標高4,500mを超える所で停まってしまったという。数時間バスの車中に震える状態で待たされたあげく、結局修理ができないので通りがかった車にバスの乗客すべてがギュウギュウのすし詰めとなって移動をされたという。乗用車に荷物込みで11人も乗ったというので驚くしかない。まさに命がけの旅行である。生還おめでとうございます。木勢さんはこんなの何でもないよと、いたって涼しげな雰囲気であるのに重ねて驚く。強い!木勢さんの採集にかける情熱と環境適応力には敬服に値する。
3) 琥珀に封入された昆虫(倉西良一)
今回は少し趣向を変え、昆虫(主にトビケラ目昆虫)が封入された琥珀を紹介した。ミャンマーに通うようになって、調
査活動の合間に昆虫が封入されたミャンマー琥珀を探している。ミャンマー琥珀は通称Burmite と呼ばれる。琥珀はミャンマーで産出する種々の宝石類の中では最も安価なものの一つであり、山岳地帯では少数民族の方々がアクセサリーにつけていたりする。その琥珀の中には(ごく少数ではあるが)昆虫を含んだものがある。ミャンマー琥珀の場合、昆虫を含んだ琥珀はバルト海琥珀に較べて極端に少ない。ミャンマー琥珀はその成立年代が白亜紀後期(9000万年から1億年前)であることから(バルト海琥珀より数千万年古い)、昆虫の系統分類(進化)を考える上で重要な情報を提供する可能性があり注目されている。今回の例会ではヤンゴンの市場におけるミャンマー琥珀探索の様子を紹介した。これまでもヤンゴン市内の宝石を扱う店を覗く事はあっても琥珀を見つける事はなかった。大きな通りに面した大店には高価な宝石しか置いておらず、どうやら探す場所が悪かったようだ。 人づてに聞くと、市場の一番奥にミャンマー琥珀を扱う店があった。 琥珀の産地では政策により大規模な採掘が行われなくなり入荷は少なくなっていると聞いた。また現地でも昆虫を含む琥珀が珍重されることはよく知られており、かなり強気の料金設定であった。いろいろな障壁があるが、これからも機会があればミャンマーの昆虫入り琥珀を探してみたい。
第92回例会
2016年2月14日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で行われた。参加者は34名。3名の会員から話題の提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(倉西良一)
●例会報告
1) 千葉県産甲虫が3,000種を超えた(鈴木 勝・斉藤明子)
千葉県産甲虫類の記録の総括に関する大きなプロジェクトが立ち上がったことが鈴木さんと斉藤さんから紹介された。この仕事ではこれまで文献収集とその整理を精力的に進め独自のデータベースを作成されたという。「千葉県動物誌」にある千葉県産甲虫は2,258種だった。文献と並行して鈴木さんをはじめとするコウチュウ目昆虫研究グループの皆様のたゆまぬ努力の結果、多くの千葉県初記録種が見出され2016年2月の段階で3,015種が記録された。晴れて3,000種の大台を突破したとのこと。おめでとうございます! 解明度が高い事に合わせ高尾山や奥多摩地域などの山地を含む東京都(本土)の甲虫の種数が3,400種ということと比較しても大きな到達点だといえるだろう。タマキノコムシ科のようにこれまで16種しか知られていなかった科が専門家の詳細な検討の結果、3倍近くの46種になったという例もあり、今後の検討(健闘)次第でまだまだ種数の増加が考えられる。この千葉県産甲虫目録は、3年後の出版を目指していることから会員の皆さんの今後のさらなる活躍を期待したい。千葉県産甲虫の研究に不可欠なデータベースを充実させるという話があった。充実させる内容としては、既知種の漏れの確認、学名・和名の確認、疑問種の検討などが行われるもよう。データベースと並行して採れそうでいて採れていない種を標的にした調査活動も企画されるという。新しい調査だけではなく、この機会に会員諸氏のタトウの脱脂綿に眠っている千葉県産微小甲虫類が発掘され、千葉県昆虫相の解明に貢献されることを願っている。
2) ここまでわかってきたクロメンガタスズメの生態(斉藤 修)
クロメンガタスズメは大きな蛾である。その胸部の特異な斑紋は映画のポスターのモチーフにもなるほどの超有名な昆虫だといえる。しかし姿形が有名でもその生態には多くの謎が残されている。斉藤さんは数人の会員諸氏と『髑髏蛾連合』というグループを結成し、クロメンガタスズメの生態解明に奔走されてきた。クロメンガタスズメは成虫がミツバチの巣に侵入してその中の蜜を舐める(正確には口吻を巣壁に突き刺して貯蔵してある蜜を吸う:盗蜜)という、蛾ではちょっと考えられない驚くべきことを平然とやってのける。どのようにしてミツバチの巣を見つけるのであろうか?それだけでも不思議である。斉藤さんらは未知の部分が多いクロメンガタスズメの幼虫期や成虫の寿命についても精力的に調べておられ新しい知見がぞくぞく集まっている。若い会員からも『髑髏蛾連合』への参加表明もあった。今後ますますの活躍を期待したい。
3) ドイツの博物館で考えたこと(倉西良一)
2016年1月ベルリンにあるMuseum für Naturkunde, Berlin(ベルリン自然史博物館) を訪問する機会があった(自費)。今回の旅行の主な目的は、ムラサキトビケラ属昆虫のタイプ標本の検討である。私は世界のムラサキトビケラを新たな分類形質を使ってその分類体系を組み替える必要がありどうしてもタイプ標本の再検討が必要であった。ドイツの昆虫学者は大戦前よりアジアの昆虫相への関心が深く、大規模な遠征を繰り返し、数多くの標本を持ち帰り標本化してきた。多くの昆虫はすでに研究され新種として記載されている。しかし未検討標本もまだ数多くあり、収蔵庫はまさに宝の山であることが分かった。ベルリン自然史博物館は、戦後東ドイツ(共産圏)の統治下にあり相当に辛い時代があったが、1980 年以降急速な復興を成し遂げた。驚くのは東ドイツ統治下時代でも現在の千葉県教育庁の統治する博物館よりも研究面は機能していた点である。ベルリン自然史博物館は、国立の自然史博物館なので過去の資料の内容と量から較べても比較にすらならないのではあるが。創設者のフンボルトらの探検(先駆者)精神が現在にも脈々と受け継がれているには、感動を通り越して畏敬の念を感じた。私の友人の研究者のWolfram Mayさんは微小蛾とトビケラ目昆虫の研究者であり、多くの日本人の蛾の研究者が訪問されると言っておられたのが印象的だった。フンボルト大学の居心地のいいゲストハウス、研究に集中できる収蔵庫でドイツのドイツ式標本箱に囲まれ至福の時間を過ごした。来年の正月もまたベルリンで過ごしたいと思っている。
第91 回例会報告
例会担当幹事 宮野伸也
2015年12月20日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は40名。総会の後、4名の会員から話題の提供があった。この後は一人一話が行われた。この後場所を移し、恒例の大忘年会が行われた。忘年会参加者は28 名。(宮野伸也)
●例会報告
1) 千葉葉県の蛾に追加されるヒモミノガ類(ミノガ科)(工藤広悦)
ヒモミノガとは、幼虫が体長の3~4倍もの長さの蓑を作ることから名付けられたものとのこと。キノコヒモミノガは開張が雄で10㎜ほど、雌で15 ㎜ほどの蛾で幼虫はキノコを食べる。清澄山で藤平氏が採集したものがあり、千葉県初記録と思われる。また、ヒモミノガは幼虫が地衣類を食べる。両種とも交尾器による同定が必要である。現在、蛹殻で同定できないか検討している。資料が決定的に不足しているで、会員の協力を求めたいとのこと。
2) 台湾のマルバネクワガタ事始め(土井 学)
マルバネクワガタは東洋区に56種が知られ、日本産は琉球に4種が知られている。台湾には6種が知られるが、解明の程度がほどほどであること、採集規制がほとんどないこと、マラリアなどの感染症がないことなどから台湾のマルバネクワガタの研究はお勧めである。台湾ではマルバネクワガタはタイワンシオジ=シマトネリコの樹液に集まる、また竹林の林床にいたり、林道を歩いていたりする。新種を求め台湾の離島である緑島にも行ったが、残念ながら新種は発見できず! 台湾本島東部の海岸山脈は、マルバネクワガタの新種発見の可能性ありとのこと。
3) アカマダラセンチコガネの食性について(日暮卓志・棚橋薫彦)
アカマダラセンチコガネは日中や夕刻にムネアカセンチコガネとともに林縁で採集されるが、生態に関しては知見が極めてとぼしい。植木生産圃場での調査により、以下のことが判った。FIT(Flight Intercept Trap)で採集される、春秋に多く採集される、坑道の2~5㎝に潜む、アーバスキュラー菌根菌の子実体であるキノコを大顎で加えて運搬し、坑道に詰め込む、このキノコのみで長期の飼育が可能である。現在生活史は年1化で、秋に羽化し越冬後春に産卵するものと考えている。なお、用意された動画がうまく再生できなかったのが残念であった。
4) 茨城県牛久市で採集された雌雄モザイク型ノコギリクワガタほか(清水敏夫)
牛久市で教え子が採集したノコギリクワガタの雌雄モザイク型は頭部が雄、胴部が雌の珍しいもので、テレビ東京やTBSの番組でも取り上げられた。成田西陵高校の生徒による飛べないテントウムシによるアブラムシ防除の研究は、グルーガンにより上翅を固定して飛べなくするというユニークなもの。グルーガンの処理時には、篩の中の虫を掃除機で吸引して動きを止める。上翅を固定された虫はひっくり返ると起き上がれなくなるが、地面に稲藁を薄く撒くことでこの問題を解決した。アブラムシの除去には十分効果があることが実証された。グルーガンによる固定は1~2ヶ月ではずれるため、虫を殺すことはない。なお、清水さんは西陵高校での長年の昆虫を題材とした実践教育と地域交流活動により、「第64 回読売教育賞 地域社会教育活動」を受賞された。
第90回例会
2015年10月18日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は24名。3名の会員から話題の提供があった。その後、一人一話が行われた。(宮野伸也)
●例会報告
1) ゴイシツバメシジミ等4種のビデオ(田久保豊一)
ゴイシツバメシジミ(天然記念物)は2014年7月に熊本県市房山にて撮影。撮影場所はなんとロッジの駐車場。落葉の表面でさかんに口吻を伸ばし吸汁するとともに、腹端から茶色い液体を排出するようすが、画面いっぱいに写っていた。カメラは手持ちで5〜10㎝で撮影とのこと。食草はシシンラン。ムシャクロツバメシジミ(外来種)は2014年10月に愛知県名古屋市西区、新川の河川敷にて撮影。食草のツルマンネングサに止まる個体のほか、生息地の土手の様子も紹介。カラフトルリシジミ(天然記念物)は2015年7月に北海道河東群鹿追町東ヌプカウシヌプリ山頂付近(標高1,252m)にて撮影。岩場にまず出て来たのはナキウサギ。耳が小さく、ネズミといった感じだ。その後フウロソウの花などに止まる姿を紹介。食草はガンコウラン。オオイチモンジは北海道置戸町の常呂本流林道にて
2015年7月に撮影。まずは層雲峡の宿(山の上ロッジ)や絶景を紹介。宿で購入の「リンゴトラップ」なるものを林道沿いの植物の葉上に噴霧して待つことしばし、サトキマダラヒカゲやクロヒカゲが飛来、そして大御所オオイチモンジの登場。いずれも盛んに口吻を伸ばし、「リンゴトラップ」を吸っている。なお、「リンゴトラップ」は1ℓで3,000円となかなか高価。
2) ジャコウアゲハの異常産卵(大塚市郎)
2015年7月4日に自宅庭で観察した、食草ではないオシロイバナに産卵するジャコウアゲハを紹介。ジャコウアゲハは、これまでにもヒメカンアオイ、ニンジン、キツネノマゴなど、食草にならない多くの植物に産卵することが知られている。なお、観察した個体はその後、猫に食われて昇天したとのこと。きっと子孫は残せなかったのだろう。
3) インドネシア ミソール島採集記(斉藤明子)
2015年のゴールデンウィークに出かけた、ミソール島での採集の様子を紹介。そもそもミソール島とはどこ? ニューギニア島の西、ラジャアンパット諸島にある島で、最近はダイビングスポットとして有名になりつつある島とのこと。島に関する情報はラトビア人研究者からメールで得たという。国際線、国内線、フェリーを乗り継いで、日本を出て4日目の朝に到着。まずは村長さんに挨拶。木材伐採地などでカミキリムシ80種などを採集。頭部が長大なミツギリゾウムシ、飛べないキノボリハンミョウ、パプアカミキリ、三角錐形のミノガのミノなどを写真で紹介。帰りはフェリーが欠航となり、スピードボートを20万円(!!)でチャーターしての大出費。採集標本の単価は一体いくらになるのであろうか?
第89回例会
2015年2月15日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は31名。4名の会員から話題の提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(宮野伸也)
●例会報告
1) 「謎のチョウの正体は?(藤塚 弘)
2011年7月3日に北海道上川郡上川町層雲峡で撮影された蝶の正体を突き止めた経緯を紹介された。この蝶は、色彩や斑紋から「サカハチチョウ」のように見えた。しかし、この写真を画像処理技術を駆使して、色彩や斑紋を無くしたり、これらの色や形、大きさなどを変化させて「サカハチチョウ」および「アカマダラ」と比較検討したところ、これは「アカマダラの春型と夏型の中間型」であるとの結論に達した。まさにデジタル写真技術の素晴らしい成果であった。
2) 我が家のバタフライガーデン(美ノ谷憲久)
2011年8月から取り組んだバタフライガーデン作りを紹介された。場所は横浜市金沢区のマンションに付属する庭。約300mの位置にある米軍基地の跡地には、手付かずの森や谷戸地があり、ここから蝶を呼び込むことが期待された。各種の花の咲く植物を植栽し、四季を通じて多くの蝶が飛来した。お勧めの植物はサンジャクバーベナ、ランタナ、ミゾハギ、トウコマツナギなど。植物の選定に当たっては花の咲く高さも重要とのこと。
3) ミャンマー蛾採集紀行-特別編(斉藤 修)
2014年4月17日から26日までミャンマーで行った蛾類採集について紹介された。主な採集地はチン州ビクトリア山の近く。ドーム型蚊帳を利用した灯火採集用具は組み立て、撤収が迅速にできて使い勝手が良いものであった。小蛾は携帯用の展翅板を持参し、その日のうちに展翅を行った。多数の蛾(ドイツ箱6箱半)が採集されたが、中には開張が4㎝もある巨大なメイガもあった。
4) 2014年海外採集紀行-エルサルバドル・ペルー・ミャンマー(木勢庄平)
昨年の3回の海外調査の様子を紹介された。まずはエルサルバドル(6月29日から7月11日)。採集した蝶として紹介されたガラマスアゲハは超美麗種。調査中に転んで顎を強打、血に染まったタオルは印象的であった。次にペルー(9月25 日から10月13日)。最大の成果はMorpho telemachusの♂4頭とのこと。汗の染み込んだリュックに集まるPanacea proba。汚物トラップに群がる蝶は異様。最後はミャンマー(9月1日から13日)。期間中にシボリアゲハを10数頭採集とのこと。その他にサザナミワモンなどが採集された。天候には恵まれず、昼間からビールを飲むことも多く、いざ晴れ間が出ても採集に立ち上がれない虫友もいたとか。ちなみにミャンマーのビールはたいへん安く(200円程度)美味しいとのこと。
第88回例会
2014年12月21日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は35名。総会の後、3名の会員から話題の提供があった。この後は一人一話、またこの後場所を移し、恒例の大忘年会が行われた。(宮野伸也)
●例会報告
1) ムネアカセンチコガネはキノコがお好き-長らく謎であった食性の解明-(日暮卓志・棚橋薫彦)
ムネアカセンチコガネは糞に集まらない糞虫として知られ、食性が不明であった。千葉県では準絶滅危惧種である。植木生産圃場、公園、草地など一見共通性のない場所で穴の中に潜むものが見つかり、また日没後に活発な飛翔行動が見られる。日没後の活動を観察したところ、地中のキノコを掘り出し、これを運搬して坑道内に運び、食べていることが明らかとなった。餌となっているキノコはアーバスキュラー菌根菌の子実体である。キノコ運搬の様子、キノコを奪い合う様子の動画は、その愛くるしい姿が印象的であった。
2) 千葉県を含む東日本産ミノムシ類の採集と生態観察(工藤広悦)
千葉県産ミノムシ8種(日本産は33種)を紹介された。同定には交尾器を見ることが必要であるが、蛹の脱皮殻にも特徴があり、蓑と蛹の脱皮殻で同定できる。神社や寺の石垣などでも採集できるとのことであった。
3) 北海道採集紀行特選編(大塚市郎)
今年3回におよぶ北海道での蝶類採集調査の様子とその成果を紹介された。
第1回(5月11日~13日)。朝日町岩尾内、下川町奥名寄林道、足寄町里見が丘。ヒメギフチョウ狙い。ヒメギフチョウは青色に惹かれてよって来るので、青色のネット、青色のズボンとシャツを着用するのがお勧めとのこと。他にはチャマダラセセリ、シータテハなどが採集された。
第2回(6月26日~29日)。日高町パンケヌーシ林道、置戸町おけと湖、中札内村札内川園地。ヒメウスバシロチョウ、エソシロチョウ、ヒメシジミなどを採集。大きな糞(熊の糞?)の中にきらびやかな甲虫の翅を多数発見。
第3回(7月16日~18日)。小樽市銭函、北見市留辺蘂町シケレベツ林道、札幌市手稲区手稲。キタアカシジミ、ウラジロミドリシジミ、ウラミスジシジミ、オオイチモンジ、ヒメシジミなどを採集。
3回の調査はいずれも同行者の方が、たくさんの蝶を採集したとのことで、発表者の愚痴が多いのが印象に残った発表であった。
第87回例会
2014年10月19日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。3名の会員から話題の提供があった。その後一人一話が行われた。(宮野伸也)
●例会報告
1) クロメンガタスズメのニホンミツバチ巣への飛来状況(伊藤文子)
クロメンガタスズメは短く太い口吻をもつこと、ミツバチの巣内で死体が発見されたり、巣箱外側に飛来することから、ミツバチの巣内で蜂蜜を餌としていると思われる。今年7月9日から9月9日の間にスズメバチ防御用のネットを設置したニホンミツバチの巣にのべ13個体が飛来した(最大重複カウントは3個体)。雌雄の確認できた10個体は雄5、雌5であった。捕獲時の行動などからクロメンガタスズメはかなり簡単に巣に出入りしているものと思われた。また、7月25日には巣近くのミニトマトで終齢幼虫4頭が見つかった。今後、クロメンガタスズメの巣内での行動とそれに対するハチの行動の観察などを行いたい。
2) クロメンガタスズメ交尾と採卵の試み(斉藤 修)
クロメンガタスズメ研究のため千葉県髑髏蛾連合が結成された。クロメンガタスズメは国内で急速に分布を拡大している。千葉県では2006年に初記録され、現在は東北地方でも記録されている。実証的な研究は少なく累代飼育が可能となればクロメンガタスズメの生態解明が可能になる。成虫は小容器を被ったラップに開けた小孔に口吻を導くことで80%の蜂蜜を摂食した。飼育による寿命は雄雌ともに25日程度であった。野外ケージ(吹き流し)で交尾・産卵が可能であった。ただし得られた受精卵は少なかった。今後は改良を進めたい。
3) クロメンガタスズメ幼虫の齢による色彩の変化(長澤洋子)
5年の試行錯誤を経て今年卵からの飼育に成功した。餌としてなすの葉を与えた。4頭が5齢、1頭が6齢を経て蛹化した。幼虫の色彩は4齢まではほぼ同じであったが、5齢になると4つの色彩型が生じた。同一の雌が産んだ卵から4つの色彩型が生じたことは極めて興味深い。
第86回例会
2014年2月16日(日)午後1時半より県立中央博物館会議室で開催された。参加者は22名。3名の会員から話題の提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(宮野伸也)
●例会報告
1) 小蛾の楽しみ方(斉藤 修)
小蛾は大蛾と対をなす分類群であり、サイズの小さいものが多いが、中にはサイズの大きなものもあるとのこと。最近は良い図鑑が出版され同定がやりやすくなったこと、採集の仕方、微針と専用の展翅板を用いた標本の作製法、撮影台とカメラによる拡大とPCへのとりこみとプリントの方法など、小蛾を楽しむためのテクニックが紹介された。
2) 積極的に吸汁するミドリシジミの観察について(大塚市郎)
ミドリシジミ成虫はクリ、ヒメジョオン、ネムなどの花やアリマキの甘露などを吸蜜することが知られている。昨年6月に千葉市若葉区多部田町の休耕田周辺でヒメコウゾの果実
から活発に吸汁する様子を多数の画像で紹介された。吸汁は雄、雌ともに見られたが、交尾行動は観察されなかった。珍しいとされるAB型の斑紋を持つものが見られた。また、アヅチグモによる捕食も見られたとのこと。
3) 2013年海外採集紀行(木勢庄平)
チョウを求めて南米エクアドル、ペルー、そしてベトナムで行った採集の様子を紹介された。採集されたチョウのほか、現地の様子(ワニがいる川辺、穴だらけの吊り橋等)も紹介され、虫屋の根性が偲ばれた。併せて、珍しい昆虫切手も紹介された。切手は奥様への手紙に貼付されていて、これにより奥様の名前がMarikoであることが判明した。
第85回例会
2013年12月22日午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は35名。総会のあと、3名の会員から話題の提供があった。その後、各会員の一人一話でそれぞれの活動報告があった。例会終了後は場所を移して大忘年会が開催された。(斉藤明子)
●例会報告
1) ラオス・タイ自然探訪の旅(松田邦雄)
6月5日~17日に訪れたラオス、タイの昆虫について風土の様子も交えながらスライドで紹介していただいた。雨期にもかかわらず晴れの日に恵まれて、多くの昆虫を見ることができたそうだ。紹介していただいた種は次の通りである。オナシアゲハ、ミカドアゲハ、オナガタイマイ、マネシアゲハ、ツマベニチョウ、シロイシガケチョウ、ルリボシタテハモドキ、シロオビアゲハ、キミスジ、チビフタオ、スミナガシ、シロオビヒカゲの一種、エグリアゲハ、ヒメアサギマダラ、ナガサキアゲハ、ウラベニシロチョウ、タテハチョウの一種の幼虫・蛹、ルイーサワモン、アオスソビキアゲハ、ベニシロチョウ、タスキシジミ、キシタアゲハ、ルリオビワモン、オオイナヅマ、ホソチョウ、オナガアカシジミ、ヘレナキシタアゲハ、ウラフチベニシジミ、ヒメオナガシジミ、ムラサキイチモンジ、フタオチョウ、コモンアサギマダラ、ムナビロカマキリ、ハンミョウの一種、ゴキブリの一種、カミキリムシの一種、スカラベの糞転がし、アゲハ・シロチョウ類の吸水集団。
2) ソーラー式LEDライトを使用したライトトラップの成果について:予報(斉藤明子)
たまたまテレビで見かけたソーラー式LEDライトがライトトラップに使えないかと、中央博物館が清澄東大演習林で実施中の調査の中で使用してみた。使用したのは「lumin AID」で、7時間の充電で8時間点灯するというもの。本体はとても軽く、小さくたたんで持ち歩くことが出来るので、海外での電気も無い場所で使用するのに良いと思って購入してみた。単3電池4本が必要なブラックライト「2Wayブラックライト」を取り付けた簡易衝突板式ライトトラップ5基、ソーラー式LED を1基を使い、7月から9月の4回の調査で得られた甲虫類の個体数を簡単に比較してみた。各回調査地の環境や条件が異なるため、確実な結論とはほど遠いものだが、7月のコガネムシ、クワガタムシ類はLED、ブラックライト共に良く入るが、8月以降はLEDにはめっきり入らなくなり、コメツキムシ類はLED にはあまり入らない傾向があった。ただ、LEDに蛾類はほとんど入らず、入った甲虫に鱗粉が付かないので後の処理がとても楽であった。LEDのブラックライトも出てきたようであり、LEDの今後に期待大である。
3) 成田西陵高校での取り組み(清水敏夫)
清水敏夫教諭と成田西陵高校地域生物研究部による最近の活動について、NHK ニュースなどの動画を交えて紹介していただいた。自然に優しい生物農薬とはいえ、外来種を用いた場合の問題を解決するため、地元の昆虫を使った生物農薬としてテントウムシに着目して、試行錯誤の結果、大きな成果を上げたとのことである。それは、テントウムシのはねをグルーガンで固定、一時的に飛べなくしてほ場に放し、害虫のアブラムシを防除するという画期的なもの。掃除機の吸気口に細かい網を張った漏斗を装着しテントウムシを固定、個体を傷つけることなく、1分間に30匹の飛翔不能テントウムシを作ることに成功。農家の協力を得て見事ハウスのイチゴ栽培でアブラムシ0という効果を発揮したとのことである。この活動は、「全国高校生みんなDE笑顔プロジェクト」(全国農業協同組合中央会主催、全国から160チームが参加)で全国優勝、環境に優しい農業を実現できると世界的にも注目を集めており、タヒチで技術指導も行ったそうです。この技術で現在特許を出願中とのこと。この活躍は新聞やテレビでも話題になっていたので、清水先生から直接お話を伺うことができ、皆たいへん誇らしい気持ちになったようであった。
第84回例会
2013年10月20日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。3名の会員から話題の提供があった。その後、一人一話が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) キタアカシジミなどの観察(田久保豊一)
北海道石狩海岸のカシワ天然海岸林でこの夏に観察されたキタアカシジミを中心とするシジミチョウの観察記録を、ビデオ映像でご紹介いただいた。中でも、キタアカシジミが群飛する様子は圧巻であった。また、目の前で撮影されたカシワ葉上の「キタアカシジミのお相撲」(場所取りのケンカ?)の映像では、可愛らしいシジミチョウの意外な姿に皆驚かされていたようである。キタアカシジミ以外にも、ハヤシミドリシジミ、ウスイロオナガシジミ、ウラジロミドリシジミ、ダイセン(ウラミスジ)シジミも観察されたとのことで、シジミチョウの豊富な北海道のカシワ林の様子を実感できるお話しであった。
2) 千葉県の昆虫相解明の歴史-前編-(山﨑秀雄)
千葉県の昆虫相についての報告書類の発行は、同定用図鑑類の刊行とリンクして行われてきたことについて、図鑑類と千葉県での報告書類発行についての19世紀末から現代までの年表を示されて説明いただいた。重要な図鑑類の実物も展示していただきました。また、県内同好会の活動と千葉県関係の記録のある雑誌、市町村誌についてもご紹介いただいた。スライドにはご自身の活動に関わる写真も交えてあり、著名な研究者のお若い頃の様子をうかがい知ることが出来た。「昆虫相調査は住民台帳を作るのと同じであり、種の存在、不在の判断の基準になる重要な事柄」ということを、改めて実感させていただいた。後編は2014年2月の例会でご講演いただく予定で、その後、内容について会誌に投稿していただけるとのこと。乞うご期待である。(2018年12月現在未報告)
3) 昆虫少年と楽しんだ自然探訪(松田邦雄)
この夏から初秋に、館山在住の昆虫少年と共に観察した昆虫を中心とする様々な生きものについてご紹介いただいた。北の丸公園のベニイトトンボ、館山野鳥の森公園のギンヤンマ連結産卵、内浦県民の森のヤブヤンマ産卵、館山でのネアカヨシヤンマとカトリヤンマのヤゴ発見、内浦県民の森で聞いたヒメハルゼミの鳴き声とニイニイゼミの羽化の目撃、少年の家の周りで見つけたいろいろな虫のこと、南房総市のクロイワツクツク、館山市で発見したクロコノマの幼虫・前蛹・蛹、ハグロトンボのハートマーク交尾、ダイサギの集団、大きなヒキガエルを飲み込む1m以上もあろうかというヤマカガシの様子など、昆虫少年との虫をとおした暖かい触れあいについてお話しいただいた。
第83回例会
2013年2月17日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は22名。3名の会員から話題の提供があった。その後、一人一話が行われた。この日の一人一話は、時間に余裕があったためか、放蝶問題や昆虫食の話題を中心に、熱心に情報交換が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) 千葉県産蛾類データベース(斉藤 修)
千葉県産昆虫総目録が発行されてから10年以上が経過し、その後、相当量の記録が公表されているので、それらを参照するには大変な労力が必要となる。千葉県に蛾類が今いったい何種記録があるのか、自分で採った種が採れてあたりまえなのか、あるいは珍しい種なのか、そんな疑問にすぐ答えられるようにと、斉藤さんがご自身で作成された蛾類データベースをご紹介いただいた。併せて、他地域のデータベースの構成を紹介され、大蛾類と小蛾類それぞれの種数を明記して近隣県との種数の比較もされていた。ご自身が使い易いと思うデータベースを目指して試行錯誤中であること、その過程でわかってきたデータ整理の問題点、データベースの問題点、どのように公開していくか、などの問題提起もあった。
2) ボリビア・ペルー 虫を求めて貧乏紀行(木勢庄平)
ボリビアとペルーへの採集旅行の様子が紹介された。期間は2011 年11月18日から12 月6日。ペルーのリマから路線バスで28 時間も掛かって到着した標高3,800mのボリビア、ラパスのさらに奥のタイピプラヤでの様子、さらにボリビアから再びペルーに戻り、クスコの奥チャンタチャカ、マヌーでの採集の様子など、多数の写真を使ってご紹介いただいた。写真以外に、モルフォチョウをはじめとする日本人には馴染みの薄い南米のチョウの標本多数の展示もしていただいた。訳あって真夜中にボリビアの山中から脱出したというお話しは皆、興味津々であった。次回の旅のご報告が楽しみである。
3) 汽水域のヨシに寄生する小蛾類の幼虫について(工藤広悦)
木更津市畦戸のヨシには2種の小蛾類の幼虫が寄生しており、そのうちの一種はこの地でしか見つからないとのこと。その種の幼虫を飼育したところ羽化させることが出来たとのことで、この種の成虫外観、翅脈、幼虫頭部、幼虫棘毛配列、成虫交尾器、蛹について検討した結果を報告いただいた。カザリバガ科のマダラトガリホソガの仲間と思われること、近縁種のマダラトガリホソガとは交尾器が異なるとのことである。
第82回例会
2012年12月16日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は33名。総会の後、5名の会員から話題の提供があった。その後、一人一話が行われ、夜は場所を移し大忘年会とオークションで盛り上がった。(斉藤明子)
●例会報告
1) 千葉県のマイマイカブリ相の特異性(武田卓明)
千葉県産マイマイカブリの膨大な標本に基づいて、色彩や形態の変異について調べた成果についてお話しいただいた。房総南部のマイマイカブリは通称「ボウソウマイマイ」といわれ、県北部に比べ大型で黒化し、♂の上翅端部棘状突起が長いことなど顕著な特徴があり、関東地方の他県では認められないような同一県内での顕著な緯度的変異があるのが、千葉県の本種の特異性であるとのこと。この特異性をふまえて、千葉県のマイマイカブリのルーツについて、県北部と南房総の「移行的地域」があること、県内での変異状況のまとめをお話しいただいた。壮大な内容を短い発表時間の中でお話しいただくこととなり、武田さんにはたいへん失礼なことだったと例会担当幹事として反省している。なお、「房総の昆虫」37~39・41・43・49号に報告があるので、内容の詳細についてはそちらを参照されたい。
2)アポロとの出会い(松田邦雄)
1986~1988 年にドイツを訪問した時のアポロウスバシロチョウとの出会いについて、同時にヨーロッパ各地で見た多くの他のチョウの生態写真の紹介を交えてお話しいただいた。見られる蝶は日本と似ているが樺太南部と同緯度なので、日本では高山蝶とされている種が普通に見られるとのこと。いつものように蝶への愛情あふれるご発表であった。
3) マエジロツトガの千葉県小櫃川&夷隅川河口汽水域からの発見(工藤広悦・藤平 暁)
木更津市畔戸小櫃川河口と夷隅市日在夷隅川河口の汽水域で発見された、千葉県初記録のマエジロツトガについて報告があった。本種の既産地は佐賀県、愛知県、三重県であり、千葉県からは初記録であること、ヨシの生える汽水域が生息地の環境であること、交尾器の写真などが紹介され、本種の食餌植物と幼生期の解明が期待されるとのことである。
4) 湿地棲ヤガ・ボーラー幼虫の「水泳」能力-Archanara resolutaハガタウスキヨトウにその能力はあるのか?(工藤広悦)
旧北区に4種が知られるArchanara属の内、ヨーロッパに産する2種は水泳能力があることが知られているとのこと。日本産ハガタウスキヨトウ A. resolutaの幼虫の水泳能力の有無を知るために試みた実験の報告と、合わせて本種の生活史
の紹介があった。アルミ水槽に水を張り、ダンボール製の浮島に終齢幼虫を乗せて、その後水面でどのような動きをする
かを観察した結果、ハガタウスキヨトウ終齢幼虫に水泳能力はないとのことだった。ヨーロッパの種がどのように泳ぐのか、見てみたいものである。
5) オオムラサキの天敵(丸 諭)
長柄町某ゴルフ場で3年にわたり観察を続け、オオムラサキの天敵を明らかにした。天敵は次の4つとのこと。ヨコヅナサシガメ、芝生掃除、強風、マニア(演者)。中でも、外来種ヨコヅナサシガメ幼虫の赤黒軍団が、次々と可愛いオオムラサキの幼虫に口吻を突き立てている写真が多数紹介された。ヨコヅナサシガメの幼虫は外来ギャングといった感じでひどく憎たらしいこと、芝生掃除で持ち去られた落ち葉に付いていた幼虫の行く末を思うと悲しいこと、など、いろいろ感じさせられる発表であった。
第81回例会
2012 年10月21日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は24名。3名の会員から話題提供があった。その後、一人一話が行われた。6名の方による標本展示もあり、一人一話の中でそれらの標本についても解説していただいた。(斉藤明子)
●例会報告
1) ミヤマチャバネセセリの生息状況について(大塚市郎)
2007 年に千葉市からミヤマチャバネセセリが初めて観察されて以来、本種の千葉市における分布状況を積極的に調査されており、その中で2009 年から行っている都川本流と支流都川での調査の結果を中心に、生息地の多数の写真スライドを用いてお話しいただいた。大宮町の放棄水田が草原化してギンイチモンジセセリや本種などのセセリチョウ類が増加しているようだが、大草より上流にはミヤマチャバネは見られず、水田が整備され農薬が使用されているのが原因かもしれないとのこと。さらに、千葉では温暖化の影響か、本種は確実に年3化であり、広い範囲で分布を拡げている可能性があるとのこと。人間の営みにより数を減らす昆虫もあれば、増える昆虫もあること、そして、身近な場所にも興味深いことがたくさんあること、その実態を知るためには地道な調査が必要であることなどを実感できたお話しであった。
2) 千葉県産ナガサキアゲハの色彩について(鈴木智史)
秋に見られるナガサキアゲハのメスは白っぽい個体が多いようで、年3回目の個体は9月に出現するとのこと。幼虫はミカン以外食べないが、千葉のミカンは9月以降新葉を出すことは稀なので、9月に出現した個体は、交尾して産卵したとしても蛹にまで成長するのは難しいのではないか、とのことでした。ドイツ箱にびっちり入った千葉県産の標本(飼育個体を多く含む)を使ってのお話しはたいへん説得力のあるお話しであった。
3) 被災標本を救え-陸前高田市立博物館の被災標本救済プロジェクト-(斉藤明子)
昨年3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた岩手県陸前高田市立博物館の収蔵標本。泥と海水にまみれた標本の救済が、岩手県立博物館を中心に全国の博物館の協力で行われた。県立中央博物館では昆虫約1,500点、植物600点を受け入れた。その後、多数のボランティアの方々の参加を得て救済作業が進められた。送られてきた昆虫の標本箱の中には、海水と砂・泥等が侵入し、標本は泥をかぶりかなりのダメージを受けているようであった。
甲虫類の洗浄作業
ラベルと台紙を針から抜いて、洗浄液(5%エタノール+少量の洗剤)に半日程度漬けて塩分を抜く。ラベルの記述が消えそうな場合は、内容を別紙に書き留めた。次に洗浄液から引き上げて水を張ったシャーレに入れ、筆で虫とラベルに付いた泥をきれいに落とす。最後に70%エタノールですすいで、乾いたら新しい台紙に虫を貼り付けて針を刺し、ラベルも刺して完成。
チョウ・ガ類の洗浄作業
中には翅の表面にべっとりと泥が付いた標本もあった。翅を筆でこすると鱗粉も取れてしまう。スズメガのように体のしっかりした標本は洗浄液をスプレーで吹きかけると、翅を傷めずにある程度泥を流すことができた。他はキッチンペーパーを乗せた発砲スチロール台に翅を当ててエタノールを含ませた筆で無理をせずに剝がれる泥を落とす程度とした。翅が下がった標本は、泥の洗浄が終わった後、展翅板に乗せて乾燥させた。腹部にカビが見られる場合はエタノールを含ませた筆でカビを拭き取った。
第80 回例会報告
2012 年2月19日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。3名の会員から話題の提供があった。その後、恒例の一人一話、この日は久しぶりにこのコーナーにたっぷり時間を取ることができ、「一人2分まで・・時間厳守」などというお願いをせずに、参加者には思う存分(ではないかもしれないが)、この一年の成果や次のシーズンの目標などをお話しいただいた。小学生会員、中学生会員の参加もあり、それぞれやりたいことを述べられて、頼もしい限りであった。(斉藤明子)
●例会報告
1) ハネナガブドウスズメAcosmeryx nagaは3種に分かれる?-雄交尾器の特性-(中尾健一郎・工藤広悦)
ハネナガブドウスズメは、日本、朝鮮半島、中国、台湾、マレー半島、インドなどに分布するスズメガ科の種である。中国Yunnan 産のハネナガブドウスズメ1雄標本は、表徴、交尾器が通常と相違することから新種であるとのこと。また、ハネナガブドウスズメの雄交尾器には明らかに違う2タイプの形質(嘴構造があるタイプと無いタイプ)が見られるが、雄交尾器のaedeagus の先端部の骨片を取ると、尖っていないタイプに似ること、雌交尾器Corpus bursae中に骨片が観察されていることなどから、交尾の際にその先端部が取れて、形状が変化したものと考えられる。この現象はAcosmeryx属に広く認められることから、本属の交尾器による分類の見直しが必要になる。形態観察には多数の個体を用いる必要性を感じた。ハネナガブドウスズメは極めて広域に分布し、産地により表徴にかなりの差が認められ、将来、タイプ標本も含めた各地の標本について、交尾器の詳細観察、DNA解析が必要になる。また、A. nagaのシノニムとされている横浜から報告されたA. metanagaのタイプ標本についても将来、再検討がなされる。さらに、奄美大島産のハネナガブドウスズメ、ブドウスズメは他産地のものに比べて明らかに翅型が異なり、追加標本での確認が必要とのこと。中央博物館所蔵のネパール産標本を用いて交尾器の比較を行っており、博物館標本を有効に活用していただいて良かった。
2) ハガタウスキヨトウの幼生期はミステリアス(工藤広悦)
入会してすぐの発表である。これまで沼地の蛾を調べてきており、千葉県は沼沢地が多いので、是非、一緒に生態解明調査を行いたいとのことである。ハガタウスキヨトウは湿地性のヤガで、幼生期は不明なことが多い。湿地だけではなく山地でも採集されるので、食草はススキかヨシを想定していたが、どこにでもある植物なので食草の絞り込みが難しかった。その後、ヨシから蛹を発見し、また最近、幼虫も発見したが、幼虫は生育中に2度、春の食入時と蛹化時に引っ越しをすると思われる。食草の色と幼虫の色彩の違いやヨシの株間を移動するときに泳ぐのかどうかなど、生態的に未解明な点があって興味深い。また、これまで同属とされてきたキスジウスキヨトウはヨシの茎中で蛹化する時に上向きになるが、ハガタウスキヨトウは下向きに蛹化する。最近、これらは成虫の特徴から別属に分類されたが、蛹の向きの形態分類上の価値や生態的な意味を解明したいとのこと。
3) オオムラサキの発生状況(大塚市郎)
最近、全国的に数を増やしているというオオムラサキの千葉県での最新の分布状況を、県内各地の生息状況について地図で示しながら紹介いただいた。千葉市金親町では成虫は畑の林縁のクヌギに見られ、6月下旬から出はじめると思われる。佐倉市西御門では、千葉県では珍しい、翅の裏面に白色の部分が多い個体が結構見られることから、放蝶の可能性もあるようである。千葉市内の観察では、越冬幼虫の数が増加しており、今年は成虫も数が多いかもしれないとのことで、千葉市に限らず、数の推移に注意したい。また、すでに千葉県に侵入してきた外来種アカボシゴマダラの分布拡大が危惧されるとのことである。
第79回例会
2011 年12月18日(日)午後1 時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者45名。総会に続いて、4名の会員から話題の提供があった。その後、各会員の研究・採集等の活動紹介(一人一話)が行われた。例会終了後、場所を移して大忘年会が盛大に行われた。本来、午後6時半からの予定であったが、参加者のほとんどが6時前に到着し、また6時開始と勘違いして見切り発車してしまった。このためいつもより長めに楽しむことができた。参加者は26 名(内、学生1名)。前半は虫談義に花が咲き、恒例の藤塚さんの蝶カレンダー配布があった。後半は文献、グッズ、用具、蜂蜜、標本のオークションで盛り上がり、来年のムシ運を祈念して閉会した。(倉西良一・斉藤 修)
●例会報告
1) カブトムシの糞を利用した資材化研究/世界初!オサムシによる生物農薬作出法を開発(清水敏夫・成田青陵高校地域生物研究部)
清水敏夫教諭は、高校に昆虫館(蝶の生態館)を造って運営されるなど非常にユニークな活動をされていることで有名であるが、今回は応用昆虫学の最前線ともいえる独創的な研究成果を生徒さんの講演で発表された。話をしてくれた生徒さんは地域生物研究部2年の小泉萠さん、尾形恭子さん、熊谷万里歩さんの三名。最初の話は、椎茸の原木栽培で使った『ほだ木』の再利用の話。そのままでは産業廃棄物となる廃ほだ木をカブトムシの幼虫に食べさせ、糞を大量に得る。糞に液肥を吸着させて肥料化するというもの。廃ほだ木は、カブトムシの幼虫の餌として最適であることは知ってはいたが、多くの農家が産業廃棄物にしていたとは知らなかった。糞の物理的な構造への着目は素晴しい。液肥をしみ込ませた糞粒に小松菜の根が巻き付いている写真は完全に目から鱗であった。廃ほだ木から得た糞粒は、肥料の圃場外への流出防止など応用的側面からも非常に注目されると思われる。
次の話は、『エゾカタビロオサムシを天敵として使った生物防除法』の話であった。ハクサイを食べ荒らす『ヨトウムシ(夜盗虫)』の被害を(薬品を使わないで)なんとかできないだろうかという農家の方の声をうけて研究に着手し、鱗翅目幼虫の専門捕食者エゾカタビロオサムシを放逐してこれを殲滅せんとするものである。飛翔力のあるエゾカタビロオサムシの上翅を瞬間接着剤で留める技も完全に目から鱗。本当におどろいた。清水さんらの研究は、エゾカタビロオサムシといった大型の捕食性昆虫を天敵として露地(屋外)で利用するという画期的なもので、ほとんど前例がないのではないだろうか。エゾカタビロオサムシを放流した実験区で育った立派な白菜が印象的だった。実験に協力された農家の方がすぐにでも使いたいと言っておられたのもうなずける。エゾカタビロオサムシの飼育技術の確立から取り組んで、成果を上がられた姿勢には感服するしかない。生物農薬は、多くの場合天敵として活躍する昆虫が外来種であり、この昆虫の野外への逃亡とそのことによる生態系の撹乱が大きな問題になっているが、これらの点も解消されているのが画期的である。今後の研究の進展そして実際の利用と夢が広がる話であった。
2) ミャンマーの蝶と自然(緒方政次)
海外遠征の速報であった。ミャンマー(旧ビルマ)は、軍事政権下にあり、調査には多大な困難を伴う。このミャンマーのさらに奥地の秘境とも言える山域にゼフィルスの卵を探して遠征された様子が紹介された。調査に入られたのは国際空港のあるヤンゴンから北に1,000 ㎞ も行ったカチン州で、小型飛行機による国内線、チャーターした自動車や徒歩で移動されたらしい。カチン州は、ヒマラヤ山脈の麓に位置し、奥には険しく美しい山岳地帯が控えている。集落には微笑みをうかべた村人がいてとても感じがいい。川の感じも大変よく、水生昆虫の調査で是非一度行ってみたい所である。山岳地帯に入るとそこはまさに秘境。着生植物がびっしりついた木本が高層ビルのようにそびえている。まだにこんな風景があったのかと、地球の奥深さに驚いた。今回の調査では、目標としたゼフィルスの卵は見つからなかったということではあるが、さまざまな美しい蝶に出会われた様子が紹介された。毒ビンに入れて殺されたヤマビルの数にも驚いた。清澄と良い勝負である。私は、写真で紹介された山岳地帯の渓流に是非入ってみたい。新種のトビケラがビシビシいそうである。脱脂綿の上で展足された昆虫類の写真が紹介されたが、カマキリ、シリアゲムシ、大きなマドボタル、ベニボシカミキリの仲間やカマキリモドキが圧巻であった。
3) 「ハリヌケール」について(斉藤 修)
蝶や蛾の標本で針に刺さった位置を上下に移動させたり、一旦針から抜いて裏展翅をする際に有効な方法を紹介された。出典は小路嘉明さんの『蝶を楽しむ』で、装置の原理と作製法も解説された。ハリヌケールは、修正に必要な時間は短いものの、処理時間の設定が特に難しく、油断をすると針の周辺が焦げてしまうこと、体の太い蛾や古い標本での適用は困難なことを指摘された。
4) 安曇野探訪記(松田邦雄)
日本産蝶類全種の生態写真を撮影された松田さんが、最近撮影された成果を紹介された。四季の安曇野とそこに暮らす蝶、本当に素晴しい。キハダで見つけたミヤマカラスアゲハやコムラサキの給水集団をみた若手会員から羨望の声が上がっていた。また石垣島でこの11月に撮影されたばかりのイワサキタテハモドキが紹介された。
第78回例会・公開講演会
2011年10月16日午後1時から県立中央博物館講堂で開催された。参加者は39名。今回は通常の話題提供ではなく、当会会員でもある神奈川県立生命の星・地球博物館の高桑正敏さんによる公開講演会を開催した。公開講演会は当会として初めての試みであり、千葉県生物多様性センターにも広報面でご協力いただいたが、やはり広報不足からか会員外の参加はわずかであった。しかし、会場には小学生、中学生会員の顔も見られ、講演に刺激を受けたようだった。例会の後、高桑さんを
囲んでの懇親会も行われ、大御所カミキリ屋の高桑さんのお話しは、200 種を記録した千葉県のカミキリ相のさらなる解明に向けて、会員へ大きな刺激になったようである。(斉藤明子)
●例会報告
1) 自然史研究における外来種や偶産種の扱い方は?(高桑正敏:神奈川県立生命の星・地球博物館)
『(中国からの外来種)キベリハムシは日本では兵庫県特産種』あるいは『(南九州からの国内外来種)ケブカトラカミキリは千葉県を東限とする』と記述することは、生物地理を考えるうえで明らかな誤りである。これは、自然史(誌)研究に関わるデータに人為の産物(所業)を含めてしまうことに基づく。また地域の目録調査においても、外来種・偶産種の取り扱い方によっては、自然史研究に混乱を来たしてしまう。上記のような視点から、外来種の定義を改めて次のように説明した。すなわち、外来種とは、人為的に自然分布域外へ(国内⇒国内も含める)と運ばれた生物のこと。また、いろいろな最近の外来種事例、とくにアカボシゴマダラや、石川県に定着したシタベニハゴロモとスジアカクマゼミ、三重県のフェモラータオオモモブトハムシ、南関東のリュウキュウベニイトトンボ(国内外来種)を紹介した。一方、昆虫界でしばしば使われる「偶産種」とは何かを定義した。すなわち、偶産種とは学術用語でないが、自力または自然の働きで、その自然分布域外へ(国内⇒国内も含める)と運ばれた生物のこと。例えば、渡り鳥に付着して運ばれてしまった個体、台風や季節風に乗って飛来した個体(迷蝶など)、海流で流されてしまった個体などを指す。ただし、到達した地点で一時的に発生しても、死滅してしまった個体群は偶産と見なされる。学術用語としては、「分散」を用いるべきである、と。また、「千葉県産動物総目録」を基に、千葉県で記載時に定着していない蝶13種以上を指摘するとともに、それらが外来種であるか偶産種であるかを示した。さらに、クロマダラソテツシジミが千葉県で発生できた。背景には、人為的な所業(寄主植物ソテツの移植)があったゆえであることから、最初の飛来個体が分散個体であったとしても発生個体は外来種と見なすべき考え方を提示した。
最後に、千葉県には千葉県がたどってきた独自の自然史がある一方で、外来種も偶産種(=分散個体)も存在する事実をはっきりと認識するべきだし、地域昆虫相の記述(目録作成など)には、自然分布種と偶産種(分散)、人為分布種(外来種)をわけて考えるべき(それらの区別はしばしば難しいが)で、さもないと誤った分布相を提示してしまい、自然史研究に混乱を起してしまうこと、いたずらに県産種数を無理に増やすのはやめよう、分布していないことも自然史の結果である、という点を強調した。
第77回例会
2011年2月13日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は18名。6名の会員による5題の話題の提供があった。その後は恒例の一人一話が行われた。(倉西良一)
●例会報告
1) ニホンミツバチの巣に侵入したクロメンガタスズメ-2010年の状況-(伊藤文子・斉藤 修)
クロメンガタスズメは、背中にドクロ模様のある、怖い雰囲気をもったスズメガである。伊藤さんの自宅は谷津田を見下ろす高台にあり、庭でニホンミツバチを飼育されている。そこにクロメンガタスズメが出現し、ミツバチの巣箱から蜜を盗んでいるところを押さえられた。夕刻にニホンミツバチが怒っているので気がついたという話には感銘を受けた。クロメンガタスズメは、巣箱に入り込んだものの、スズメバチ侵入防止用の網にひっかかり、死んだ個体が少なからず見出された。死んだクロメンガタスズメの腹部には、蜂蜜がぎっしり詰まっているのには驚きだった。この濃すぎる餌を上手く消化できるのだろうか? クロメンガタスズメは、もともと南方系の生き物で、これまで千葉からは記録されていなかった生物である。分布拡大の過程を含め、その存在は注目に値する。後日、館山の知り合いの養蜂家に聞いた所、館山にはクロメンガタスズメはまだ現れていないという話であった。
2) 遊歩道で発生するアオカミキリ(小田切 健)
アオカミキリは美しいカミキリである。そんな美しいカミキリを簡単に探すことができる方法をビデオの映像なども含めて紹介された。アオカミキリの食樹はイロハモミジである。5月の中旬までに樹液が出ているような出糞孔を見つけておき、ビニールテープを使って孔に合わせた栓を作って差し込んでおくらしい。6月に栓をあけるとアオカミキリの成虫が急いで出てくるらしい。まことに簡単な採集法である。自宅のそばの遊歩道のカエデにあった出糞孔からもいくつも成虫を採集されたらしい。
3) 清澄山調査で採集したカミキリムシ(西 泰弘)
清澄計画の西隊長の話であった。メールで連絡があったとき清澄のカミキリの話をちょっとしようかなという話であったが、例会ではカミキリ超大盛の話となり、清澄で採集されたカミキリすべての種類が網羅され写真とともに解説された。これらのデータは、おって印刷される清澄特集号に掲載される。これから房総で虫を採集する方々にとって大いに参考になるだろう。私が印象に残ったのは、探したけども採れなかったカミキリという話である。ヒラヤマコブハナカミキリは房総にもいるのだろうか?
4) ヒゲナガカワトビケラ属の分子系統と生物地理(倉西良一)
信州大学理学部で行っているトビケラの遺伝子解析(共同研究)の話を紹介した。ヒゲナガカワトビケラは、日本の渓流にはもっとも普通に生息している種類である。このトビケラの遺伝子解析をすすめたところ思わぬ種類が長野県の山岳地帯で見つかった。新しく見つかった種は、ヒゲナガカワトビケラに近縁であるが、交尾器だけでなく体表の炭化水素の組成などにも違いがあり、体表の炭化水素の違いが生殖的隔離機構に役立っている可能性が示唆された。
5) 2011年正月のカミキリ紀行-インドネシア-(斉藤明子)
毎年正月と5月の大型連休には必ずインドネシアにカミキリの調査に出かけている。どのような所でどんな採集をしているのか聞いてみたかったので話をお願いした。この正月に行かれたのは、ワカトビ諸島という所でスラウェシ島の東南端に位置する。現地に着くまで3日もかかるが、かのウオーレスをも悩ませた生物地理区の接点に近く、多くの生物地理学上の問題が残されている所らしい。世界でも有数の珊瑚礁の美しい所らしいがビーチリゾートの話は全く出なかった。現地での移動手段は、小型の船舶しかなく大変な旅行だという印象だ。相当の勘と運の持ち主でなければ危ないかもしれない。写真に写っている現地の方々は、目元もやさしくとてもいい感じであり治安は大きな問題がないような気がした(これは斉藤さんに人徳によるかもしれない)インドネシアの島々もかなり伐採が進んでいて、良い森林に出会うのがかなり難しいようだ。一度、熱帯アジアの生物多様性を実感してみたいと思う。
第76回例会
2010年12月19日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者35名。総会に続き、2名の会員から話題の提供があった。その後、各会員の研究・採集等の活動紹介(一人一話)が行われ、蝶や蛾、カミキリ、トンボ、蜂、昆虫生活、昆虫を捕まえる猫、ライトトラップなどについての話題提供があった。例会終了後、場所を移して大忘年会が盛大に行われた。参加者は32名(内、学生2名)。前半は虫談義に花が咲き、恒例になった藤塚さんの蝶カレンダー配布があった。後半は文献、グッズ、用具、蜂蜜、標本のオークションで盛り上がり、2011年のムシ運を祈念して閉会した。(倉西良一・斉藤 修)
●例会報告
1) ミイロの閃光・アグリアス エクアドル2010年4月/珠玉のエスメラルダス エクアドル2010年10月(木勢庄平)
2010年に行われた二度のエクアドル遠征の概要が紹介された。4月の滞在は、20日から28日の9日間Puyo(プヨ)周辺での採集。初日には垂涎の的アグリアス ベアータを採集、しかし腹痛に悩まされかなり御苦労された様子。強烈な匂いのするトラップ(古尿と魚の内臓)を使っての美しい蝶や蛾の採集。私はスカシジャノメの仲間が本当に美しいと感じた。ぜひともいつか飛翔する実物を見たいものだ。また氏は、自らの誕生日に閃光のように飛んできたアグリアス クラウディーナを一撃で仕留めることに成功したとのこと。手のひらの上のアグリアスの写真の横には氏の恍惚とした表情。納得です。標高3,300m周辺の採集地は高山という解説があったが、写真で見る雰囲気はどうみても高木もまじる灌木主体の植生で日本のような風衝地域の高標高地域とは大分違うという気がした。現地での食事は、地鶏のグリルが主体で体調が良くなった氏は連日ビールと焼き鳥三昧であったらしい。まことにうらやましい。プヨのホテルは1人14ドル、往復の航空券は合衆国経由で14万円だそうだ。
10月の滞在では、7日から16日の約10日間San Lorenzeo(サンローレン)周辺での採集。この地はコロンビアとの国境に近く、治安が大変悪い地域ではあるが美人の産地でもあるようだ。トンボマダラという美しい蝶や名蝶として名高いキプリスモルフォの採集の様子。宿泊したロッジの灯火に飛来する様々な昆虫。プラチナコガネも飛来するとのこと。行きたくなった人も多いのではないだろうか。後半、美人と手を組む氏の姿が紹介される。私はさらに行きたくなった。氏の講演を聴いて感じたのは、長時間のフライトや幾多の困難にもめげない不屈の精神力。現地のガイドとの関係が大変良く、南米の採集についてベテランの同行者がいること。現地での採集や採集物はすべて遵法手続きのもとにあり、これらは範たる行動であると思う。来年の1月にはリベンジに行かれるそうである。結果を期待したい。個人的にトビケラもついでに採集してきてほしいと思った。
2) 夢の日本産蝶類255種 生態写真撮影成就(松田邦雄)
日本産全種の蝶類の生態写真を撮影すべく日本全土を廻ってこられ、このたび『満願成就』すべての種をファインダーに入れることに成功された。これはいかに大変なことか、想像することもできないぐらいだ。今回の講演では、200種を超えてから満願に到達する過程を思い出詰まる蝶の写真とともに紹介してもらった。 『かつて採集に行った時はいくらでもいたのに、写真を撮りにいったときはいなくて苦労した』という蝶が少なからずいた。自然環境の劣化はやはり確実に進行しているようだ。採集圧も原因となっているのであろうか? 2005年には腰を痛められ手術をされたのに、翌年には見事に復活され珍蝶、名蝶の写真を次々と撮影された。本当にすごい。『いくら探しても見つからないのであきらめかけた時、虫友に助けられよくやく見つけることができた』という話、撮影談の随所に同行、協力した虫友に対する感謝の気持ちがちりばめられており氏の人徳、お人柄を強く感じた。大きな仕事は決して一人では出来ないものだと思った。氏はこれらの写真を『夢追蝶』という写真集にまとめられ近く刊行される。どうかこれからも美しい蝶の写真、そして変わりゆく日本の自然を撮り続けていただきたい。
第75回例会
2010 年10月17日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は24 名。4名の会員から話題の提供があった。その後、恒例の一人一話が行われた。(斉藤明子)
●例会報告
1) 外来種アカボシゴマダラの生態系攪乱(松井安俊)
人為的な持ち込みとゲリラ放蝶に起因するとされるアカボシゴマダラの拡散、在来種ゴマダラチョウへの脅威となる繁殖、優勢化について、一定のルートセンサスによる個体数追跡から問題提起した「月刊むし」2010 年9月号の自身の論説を、最新の追加調査結果を含めて紹介した。それによると、アカボシゴマダラの幼虫は葉上でゴマダラチョウと同様の位置取りをする(棲み場所が重なる)ため食餌をめぐって競合し、結果として、ゴマダラチョウ棲息域に侵入したアカボシゴマダラは3年で優勢化したという。加えて、半野外での交雑も記録されていることから、遺伝的攪乱のおそれも強く、外来生物法では「要注意外来生物」とされているが、もはやそのレベルを逸脱し、危機的状況となりつつあると警告した。
2) 千葉県で採集されたクロメンガタスズメの高い雌比-その後-(斉藤 修)
クロメンガタスズメは最近、本州各地で採集例が急増しており、分布拡大している種とみなされる。千葉県では2006年に初めて成虫が記録され、2008 年には成虫と幼虫が、2009 年には卵、幼虫、成虫が採集された。これまでの採集記録では雌雄の判別が行われていない場合が多いので、蛹、成虫の腹端、触角、翅刺での雌雄の区別点を明確にした。これを基に、千葉県内の記録を整理したところ、2007年から2009 年までの成虫記録と幼虫からの飼育で12♀2♂が得られており、雌比は86%と非常に高かった。同様に全国の記録を整理すると、雌雄ほぼ同数であった。県内での雌が多い原因を推測したが、2010 年にはこれまで、このような現象は知られていない。
3) 2010 年7月から現在にかけて千葉市若葉区下田町で観察および飼育(第2化)したオオムラサキについて(鈴木智史)
7月18 日、採卵のため採集、8月14日(死亡前日)までに生まれた卵(推定500〜600 卵)の内、30~40 卵を飼育した。最多産卵日は母蝶採集後3日目の50 卵以上。産卵後、2~3日で孵化。8月10 日頃まではほぼ100%の孵化率だが、それ以降産卵率はわずかに低下、母蝶死亡直前の14 日に生まれた卵からは全く孵化せず。1齢幼虫は4日間は体部は乳白色、その後緑色に変わり5日から1週間。2齢幼虫は頭部に2本の角が生え、10日~14日前後。3齢幼虫は約2週間、4齢幼虫(前蛹)は2〜3週間。幼虫静止から蛹に脱皮するまでに要する時間は24時間以内から3日。蛹期間は11 日から13 日。成虫は大きさが小さいだけで色彩、斑紋等全く変わるところは無かった。
4) 千葉市の鱗翅類数種について(矢野幸夫)
・千葉市で10 日から1週間前にクロメンガタスズメの幼虫をサルビアで発見し、現在飼育中である。黒い斑点があることから寄生されていると思われる。
・キシタバを花見川区内の町中で発見した。
・みちくさ会の人からリュウキュウムラサキ(♀)の写真が届いた。9月7日(台風の前の日)千葉市若葉区の谷津田で撮影されたもの。
第74回例会
2010年2月14日の午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。 参加者は18名。2名の会員から話題提供があったほか、千葉県生物多様性センター柴田るり子さんに『生命のにぎわい調査団』に関してその活動の紹介などをしていただいた。その後、各会員の研究・採集等の活動紹介(一人一話)が行われ、蝶や蛾、カミキリ、オサムシなどの昆虫についての興味深い話に聞き入った。会員が持参した珍しい昆虫の標本も展示され、参加者の羨望の的となっていた。(倉西良一)
●例会報告
1) 私がこれまで出会った昆虫とトビケラ目昆虫の研究で最近分かったこと(倉西良一)
最初に、しばらく談話会の活動から遠ざかっていたので、自己紹介をかねてこれまで出会った虫の話をした。母に聞いたところ、私の人生には「ダンゴムシ」が多大な貢献をしているようだ。2歳の頃の私は日がな一日ダンゴムシと遊んでいたらしい。ダンゴムシが温厚な生き物でなかったら、私の人生は変わっていたかもしれない。はじめての展翅は「キイロスズメ」で小学校2年生のときであった。標本作製の手ほどきは、近所の井上さんのお兄ちゃん(当時高校生だったと思われる)で、顕微鏡や標本を見せてもらうために通ったのを覚えている。ギフチョウやゼフィルスの思い出を里山の情景やお世話になった方々とのエピソードを交えて話した。次に、研究対象としているトビケラという昆虫の話をした。「ムラサキトビケラ」は、とても大きく目立つ昆虫で、おそらくトビケラ目昆虫では最も有名であり、かつ標本にされている種類だろう。日本からはもう1種、オオムラサキトビケラという種が1915 年に記載されており、これまで京都産の雌1個体だけが知られていた。オオムラサキトビケラは、ほぼ1世紀の間、手がかりがないまま放置されていて絶滅の可能性も示唆されていた。私は2007 年秋、四国のトビケラ目の調査でこのオオムラサキトビケラを再発見した。全国の各地の昆虫研究者や博物館の協力のもと標本を精査したところ、サハリンから東海地方にかけてムラサキトビケラが分布し、近畿、四国、中国地方にはオオムラサキトビケラが広く分布、九州に分布する種は未記載種であった。ムラサキトビケラ1種だと思われていた中に3種が混じっていたことになる。オオムラサキトビケラの四国産の雌には前翅長が48㎜に達する個体がおり、トビケラ目の世界最大種であろう。
2) チョウ目蛹の雌雄の見分け方(斉藤 修)
蝶は情報量が多いので、成虫での雌雄判別は比較的簡単だが、蛾では情報量が少なく判別が難しいことがある。蛹は成虫よりも単純な形態をしているので、雌雄の区別点が少なく判別が難しい。チョウ目蛹の雌雄の違いは、中村正直(1987)によると、「雄の生殖孔は第9腹節に、雌の生殖孔は第8腹節にある」ことと「雌の第8と第9、第9と第10腹節の節間線は腹面で生殖孔に向かって収斂(しゅうれん)する」の2点である。これらの点と岡野磨瑳郎(1951)の蛾類蛹のスケッチを参考に、手持ちのエビガラスズメ、キアゲハ、ウスイロコノマチョウの生蛹、羽化後の蛹(蛹殻)を比較したところ雌雄の判別が可能であった。しかし、ヤクシマルリシジミでは第9腹節腹面が完全に体内に陥没しているので判別できなかった。上述の中村によると、シジミチョウ科とウラギンシジミ科では第9腹節腹面が体内に陥没するとのこと。さらに、千葉県内で発生したクロメンガタスズメの雌雄を、蛹を含めて判別したところ、雌の比率が高かった。
3) 生命のにぎわい調査団の活動について(柴田るり子:千葉県生物多様性センター)
「生命のにぎわい調査団」は、県民参加型の生物モニタリングを意味している。生き物の調査を通じて、県内の自然の状態を知り、生き物とそのすみかをどうやって守っていくかを考えるために2008年の夏に発足した。2010 年2 月で、登録メンバーは477 名、調査対象57 種(季節・発見報告)の他にも希少生物の発見報告もあり調査活動は徐々に活発になってきた。昆虫については、ヤマトタマムシとミノムシ類、ナガサキアゲハ、クマゼミに関して発見報告、ヒグラシ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシのそれぞれ初鳴の記録を集めている。昆虫に関してはまだ対象種も少なく、始まったばかりといった様子である。談話会ですすめていた「身近な昆虫調査」もタイアップできれば大きな展開が期待できるかもしれない。自然の変化をとらえるためには『稀種』よりもかえって『普通種』の消長が大事であり、普段見過ごしているような昆虫のデータもみんなで集めれば新しい結果が見出される可能性があるだろう。よりよい自然環境を次世代に残すためにも、少しでも貢献できればと感じた。
第73回例会
2009年12月20日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者37名。総会に続いて、4名の会員による話題の提供があった。総会に続いて、会員4名の研究発表・調査報告・採集旅行報告が下記の通り行われた。その後、各会員の研究・採集等の活動紹介(一人一話)が行われ、蛾や蝶やカミキリやトンボなどの昆虫の採集についての興味深い話を、参加会員全員が熱心に聞き入っていた。例会終了後、場所を移して大忘年会が開催された。参加者は31名であった。酒をくみかわしながら、虫談義に花を咲かせ、楽しいひとときを過ごした。最後に恒例のオークションが催され、駆け引きをしながら、標本、昆虫グッズ、昆虫関連書籍、中央博物館製蜂蜜、大昆虫展の時の昆虫ハガキなどをおとしていた。(直海俊一郎・内藤準哉)
●例会報告
1) フタモンアシナガバチの幼虫を人工給餌で育てる(宮野伸也)
フタモンアシナガバチの親蜂が春先に巣作り初期に育てる最初の子蜂(つまり、働き蜂)の発育に関して知られていることは、その幼虫期間が、同じ親蜂が後に育てる子蜂の幼虫期間と比べ短く、その体は後者と比べ小さいということである。 親蜂が育てる最初の子蜂の幼虫期間が短いという現象は、巣を守り拡大する手助けとなる働きバチを親蜂がより早い時期に得ることができるという点で、親蜂にとって好都合なことである。 よって、親蜂が子の発育を操作している可能性が考えられる。 そこで、演者は、親蜂が子育ての初期段階で子蜂を早く成虫にするために何らかの操作をしていないかを実験的に検証するために、予備的な実験を行った。 今回は5齢幼虫を対象に、レバーの粉末とハチノスツヅリガの幼虫を餌として、人工飼育を行った。 実験の結果としてわかったこととは、幼虫は与えた餌をよく食べたが、正常に成虫まで成長した子蜂の個体の割合は、約20%と低かったことと、羽化した個体の大きさは通常の最初の働きハチとほぼ同じか、やや小さかったこと、幼虫期間が大変長かったことである。 うまく育てなかった理由として、①幼虫に与えた餌の絶対量が足りなかった、②幼虫にとって餌の質が不適当であった、などが考えられる。 今回の実験では、目的の仮説を検証することができなかったが、さらなる実験を積み重ね、親蜂が子育ての初期段階で子蜂を早く成虫にするために何らかの操作をしていないかどうかを確かめたい。
2) 千葉市美浜区の人工海浜に生息する昆虫(嶋本習介)
千葉市美浜区の人工海浜の砂浜・海岸草地・海岸林の3つの環境において、春から初夏(2009年4月~7月)にかけて出現する昆虫の個体数や種類数は、どのように変化するのか、また、環境によって昆虫相はどのように違っているのかなどについて調べた結果、以下のことがわかった。
・砂浜と海岸草地では、5月に最も多くの種数の昆虫が記録され、夏にかけて記録された昆虫の種数が減った。その理由として、海岸地域の砂浜や近隣の草地で、夏に昆虫の生息が困難になるほど温度が著しく高くなることが考えられる。
・海岸林では、5月から初夏にかけて発見される昆虫の種数が減少するという傾向は認められなかった。その理由として、他の環境と比べ、昆虫の生息が困難になるような夏の温度上昇が、日陰を作る海岸林においてないということが考えられた。
・海岸草地には多様な環境があることから、そこからは、3つの環境のなかでも最も多くの10目117種の昆虫が記録できた。砂浜からは76種、環境が比較的単純な海岸林からは46種の昆虫が記録された。
・昆虫の生息地としての海岸の特異性の1つとして、浜辺に魚の死体や海草などがよく打ちあげられていることがあげられる。実際これらが甲虫の住処となっていることから、3つの環境のなかで砂浜において最も多くの種類の甲虫が記録された。なお、今回の調査において、3つの環境すべてから記録された昆虫は、10目62科196種におよび、その中にはハマベツチカメムシやフイリカツオボシムシといった千葉県初記録の種を含め、多くの珍しい種が含まれていた。
3) 南大東島にハマヤマトシジミを求めて(松田邦雄)
日本産全種の蝶類の生態写真を自ら撮影すべく、これまで日本国内を北は北海道から南は沖縄・与那国島まで採集旅行を行ってこられた。今回は、2009年11月に訪れた南大東島で幸運にも撮影できた珍種ハマヤマトシジミの写真を紹介された。南大東島に行けば「ハマヤマトシジミはいくらでも飛んでいますよ」との風説とは裏腹に、島内あちこちを採集しまわっても、なかなかこの蝶にお目にかかることができなかったという。飛んでいるのはヤマトシジミばかりである。しかし、旅行日程の最終日に、幸運にも食草に産卵中のハマヤマトシジミの成虫を写真撮影することができたとのこと。ハマヤマトシジミは、ヤマトシジミに比べ一回り小型で、翅の色彩が若干濃いなどの点で区別できる。この蝶以外でも、日本各地で撮影したゴイシツバメシジミやツシマウラボシシジミなどの珍しい蝶の生態写真が松田氏によって紹介された。
4) ギニア三国、モルフォ蝶採集の旅(木勢庄平)
2009年10月~11月にかけて2週間程度のモルフォ蝶採集の旅のため、南米ギニア三国を訪れられた。レテノールモルフォや太陽蝶に代表されるモルフォ蝶といえば、昆虫ファンであれば誰もが一度は採集したいと考えるであろう夢幻の蝶である。私も子供のころ保育社の図鑑で見たこのモルフォ蝶を採集してみたいと思ったものである。氏は、この瑠璃色の翅をもつモルフォ蝶を今回のスライド講演であますことなく紹介された。エウギニアモルフォという蝶は、早朝においてのみ活動するといわれる珍種の1つである。氏はこの蝶を、セント・ローレンから南に20㎞離れた地域で、1頭採集することができたとのこと。また、フロレマゾン・キャンプでは、レテノールモルフォ、アドニスモルフォ、ペレイデスモルフォなどを、ベルグエンダールからブロンスワーグの間の小道では、ペレイデスモルフォやメネラウスモルフォなどを採集されたとのこと。今年の10月例会では、斉藤明子氏による南米ギアナのフロレマゾン・キャンプにおける大型のカブトムシやカミキリムシの採集光景が紹介さればかりであるが、そのすぐ後での同地ギアナの有名昆虫採集地でのモルフォ蝶採集の旅のスライドを見て、多くの会員は、遠い南国の蝶採集に思いをはせていたようである
第72回例会
2009年10月18日(日)の午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者23名。6名の会員から話題の提供があった。その後、各会員の活動紹介(一人一話)が行われ、蛾や蝶などの採集についての興味深い話に全員熱心に聞き入っていた。(直海俊一郎)
●例会報告
1) 千葉県におけるクロマダラソテツシジミの発生初期の生息域(斉藤明子)
2009年8月26日に中央博物館宛に、南房総でソテツの大害虫であるクロマダラソテツシジミが生息しているという知らせを受けて、9月初旬に館山市の64ヶ所においてソテツが植栽されている場所を調べた。その結果、館山市の極限られた5地域においてのみ、クロマダラソテツシジミの成虫・幼虫が生息していることが確認された。
2) .2009 年に観察した千葉県内のチョウ2種について(大塚市郎)
・9月に館山市藤原においてクロマダラソテツシジミを調査し、生態を観察した。観察地では、腹部末端部から甘い蜜を出/幼虫が、アリにガードされている様子などがみられた。クロマダラソテツシジミは、その後三芳、鋸南、富津などにも分布を広げている。
・千葉市の花見川区、若葉区、中央区を流れる川の河川敷や川の近くの草地において、ススキを食草とするミヤマチャバネセセリを観察した。
3)2009 年に私が見聞きした千葉県内における興味ある虫の情報(鈴木智史)
シルビアシジミ(鴨川市)、ミヤマチャバネセセリ(千葉市・佐倉市)、ウラゴマダラシジミ(我孫子市)、ルーミスシジミ(君津市・鴨川市)、アサマイチモンジ(白子町・長生村・一宮町・岬町)、ミスジチョウ・オオムラサキ(千葉市)、クロマダラソテツシジミ(館山市)、ツマグロヒョウモン・メスグロヒョウモン・ミドリヒョウモン(四街道市)、ウラギンヒョウモン・ミヤマカラスアゲハ(我孫子市)、キミャクヨトウ(香取市)、エゾヨツメ(四街道町)、ウスアカヤガ(君津市)、クロメンガタスズメ(茂原市・佐倉市)、エゾシモフリスズメ・オビグロスズメ・カラフトゴマケンモン・ギンモンスズメモドキ(君津市)、スギカミキリ(旭市・香取市・君津市)、アオマダラタマムシ・アオカミキリ・ルリカミキリ・マツダクロホシタマムシ・フタオビミドリトラカミキリ・トラフカミキリ(千葉市)、オオイチモンジシマゲンゴロウ(東金市)、ネブトクワガタ(君津市・鴨川市)、アオタマムシ・ミヤマクワガタ・ニセノコギリカミキリ・タケウチホソハナカミキリ・ムラサキツヤハナムグリ・オオトラカミキリ(君津市)、コゲチャサビカミキリ・ヒラタクワガタ(館山市)、ヨコヅナツチカメムシ(君津市)、オオキンカメムシ(鴨川市・大多喜町)、ノコギリカメムシ(千葉市)
4) フレンチ・ギアナの昆虫を求めて(斉藤明子)
フレンチ・ギアナのフロレマゾンキャンプ周辺およびカカオ方面において、土地が乾燥してはいたが、貯木場の見回り採集や夜光採集等で、ナンベイオオアオタマムシ・アオカミキリ類・インカツノコガネ・ヒカリコメツキ類・ゾウカブトムシ類などの甲虫を採集・観察できた。
5) 2009 年の清澄山の昆虫調査についての知見(小田切健)
春から夏にかけて、ドウイロチビタマムシ・ヤノナミガタチビタマムシ・シラホシキクスイカミキリ(ケヤキ)、ニセシラホシカミキリ(ヤブツバキ)などの甲虫を採集した。また、清澄山で採集したアオタマムシ成虫を自宅に持ち帰り、ケヤキの葉を与えて飼育した。結果として、アオタマムシの成虫はそれを食べたことから、野外でもケヤキの葉を食べているらしいことがわかった。
6) ツシマウラボシシジミを対馬に求めて(松田邦雄)
日本産蝶類全種についての生態を写真で取る試みの1ステップとして、今年は対馬にツシマウラボシシジミの成虫の生態写真を取りに行き、小さくも美しいこのシジミチョウの写真の撮影に成功した。
7) ゴマダラチョウと移入種アカボシゴマダラの競合を巡って(松井安俊)
従来からゴマダラチョウ研究のフィールドとしていた東京都小平市の林に、2007年から移入種アカボシゴマダラが見られるようになったことを機会に、エノキを食草とするこれらの同属2種の蝶の生態および競合について調べた。ゴマダラチョウの幼虫は比較的高い場所にある枝に、アカボシゴマダラの幼虫は比較的低い場所にある枝につくと従来からいわれてきた。小平市のフィールドでもその傾向は基本的には認められるものの、両種の幼虫のエノキの高部・低部への‘明瞭な’すみわけは、認められなかった。アカボシゴマダラが当該フィールドに侵入する前も後でも、ゴマダラチョウの幼虫は一貫して小枝の先端部に近い場所の葉を好んで食べることから、アカボシゴマダラとの競合によって、ゴマダラチョウの幼虫が食べる葉の位置を変えたようには思われない。両種とも、幼虫は落ち葉下および樹上枝部にて越冬し、3月10日ぐらいに越冬から覚め、活動を開始する。興味深いことに、ゴマダラチョウの幼虫が越冬から覚める時期は1回であるが、アカボシゴマダラでは、樹上枝部で越冬していた幼虫が先に越冬から覚め、約1週間後に落ち葉の下で越冬していた個体が活動を始める。また、フィールドにおいて目撃・観察されるアカボシゴマダラ越冬世代幼虫個体のゴマダラチョウ越冬世代幼虫個体に対する割合は、2007年以来、明らかに年々高くなってきている。この点から見ると、アカボシゴマダラが当該フィールドにおいてゴマダラチョウより生活上の競合で有利な種であると考えられる。
第71回例会
2009年2月15日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は16名。3名の会員から話題の提供があった。その後小休憩をはさんで、恒例の一人一話が行われ、興味深い話に全員熱心に聞き入っていた。(直海俊一郎・城田義友)
●例会報告
1) メダカハネカクシ属短翅型Hypostenusの受精嚢の機能形態と進化(直海俊一郎)
日本産メダカハネカクシ属甲虫(甲虫目:ハネカクシ科:メダカハネカクシ亜科)は、未記載種を含めると現在約300種からなり、報告者が「短翅型Hypostenus」と呼ぶ群は、これらの種のうちの約150種を占める大きな群である。これらの短翅型Hypostenusにおいて、2つの明瞭に異なった構造と機能をもつ受精嚢が存在することが明らかになった。第1は、S. cephalotes型であり、受精嚢(spermatheca)が受精嚢管(spermathecal duct)と同様に棒状で、この型では、受精嚢と受精嚢管の機能的・構造的分化が不充分である。第2は、S. indubius型であり、受精嚢(第1受精嚢)および受精嚢管末端部(第2受精嚢)がそれぞれ球状あるいは亜球状に大きく膨れ、精包(spermatophore)を貯蔵する場を形成しているので、受精嚢と受精嚢管は機能・構造のいずれの観点からみても明瞭に分化している。つまり、構造的にみれば、受精嚢(つまり、第1受精嚢)と受精嚢管(第2受精嚢+基部受精嚢管)は、強いくびれによって明瞭に区別され、また機能的にみても、受精嚢(つまり、第1・第2受精嚢)と基部受精嚢管は、やはり強いくびれによって明瞭に区別される。詳しい比較研究の結果、受精嚢・受精嚢管の諸構造から、種分類に利用できる多くの良質の形質が得られることがわかった。
2) キカマキリモドキの生活史(小川 洋)
脈翅目カマキリモドキ科(Mantispidae)に属するキカマキリモドキ Eumantispa harmandi Navasは、本州、四国、九州、朝鮮半島に分布し、翅の開張が3~4㎝ぐらいの中型種である。本種の生活史は実にユニークである。つまり、卵から孵った若い幼虫は、タナグモなどのクモ成虫(雌)の体に乗って生活し(寄生し)、当該雌クモが卵のうを形成すると、雌クモから降りて、卵のうの中の卵を食べて成虫になる。
3) 千葉県産大型オサムシ類(特にマイマイカブリ)の越冬場所について(鈴木智史)
千葉県からは、これまでにマイマイカブリを初めとする10種の大型オサムシが記録されている。これらはいずれも成虫で越冬するが、崖の土中、朽木内など、様々な場所で冬を越すことが知られる。その越冬環境は大きく以下の3類型に大別できる。
・崖の土中:大型オサムシ類は、林道脇・農道脇などでよく見られる1.5m~2m程度の高さの崖の土中において越冬するが、それは崖の上部(オーバーハング部)であることが多い。ただし、アオ、アワカズサ、エサキなどは、崖の中間部の土中においても越冬する。また、クロカタビロは、粘土質の崖の最下部の土中を好み、そこに越冬巣を作って越冬する。一般的に言って、大型オサムシ類は、砂の崖、著しくオーバーハングしている崖、岩が多くごつごつしている崖などを、越冬地として選択しない傾向がある。
・倒木や立ち枯れ:マイマイカブリ、クロナガ、トウホククロナガが代表的だが、アカ、アカガネなどもしばしば朽木のなかで越冬することがあるようである。
・河川敷のヤナギ類:江戸川と利根川などの河川敷には、ヤナギ類が多く自生している。そのヤナギの洞にたまった落ち葉や泥の中に、マイマイカブリがよく越冬している。
4) 東京大学千葉演習林・荒樫沢特別自然保護区の蛾類相調査について(岩阪佳和)
房総丘陵の多くの場所では、伐採・植林が長年にわたり行われてきたが、東京大学千葉演習林・荒樫沢特別自然保護区には、いまだ自然状態をよく残したと考えられるモミ・ツガ・広葉樹からなる森が広がっている。この保護区において、特別に許可を得た上で、2008年3月からこれまでに9回にわたって蛾類の夜間調査を行い、780頭の蛾を採集した。そのなかには、マツノゴマダラノメイガ、カラフトゴマケンモン、ケンモンミドリキリガ、タイワンイラガ、アミメキシタバなどといった種が含まれている。
第70回例会
2008年12月21日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者31名。総会に続いて、6名の会員から話題の提供があった。小休憩をはさんで、各会員の活動紹介(一人一話)が行われた。各人が採集、撮影、飼育、実験など実に様々な活動を行っており、興味深い話に皆が聞き入っていた。例会終了後は場所を移しての大忘年会である。参加者は23名。しばし虫談義に花を咲かせたのち、恒例のオークションが開催された。今年も標本や書籍、種々雑多な虫グッズが出品され、大いに盛り上がった。(直海俊一郎・鈴木智史・城田義友)
●例会報告
1) 2008 年の東京都練馬区南西部のチョウ(若菜一郎)
定期的に昆虫の観察に通っている練馬区石神井公園には自然が未だ残り、様々な蝶が生息している。今年は温暖化の影響もあって、ナミアゲハは5回発生した。また、この公園から、アカボシゴマダラ、ムラサキツバメ、ナガサキアゲハ、ツマグロヒョウモンなどの蝶も観察された。これらの種のうち、アカボシゴマダラは近年個体数が増えている。
2) 2008 年11 月下旬の八重山採集記録(木勢庄平)
11月20日~29日に、石垣島、西表島、波照間島、黒島、与那国島、竹富島を巡り、ナミエシロチョウ、ヤエヤマイチモンジ、タイワンキチョウ(以上、石垣島)、タイワンヒメシジミ、マサキウラナミジャノメ、ヒメシルビアシジミ(以上、西表島)、ヒメシルビアシジミ、ネッタイアカセセリ(以上、波照間島)、ルリタテハ、タテハモドキ、クロマダラソテツシジミ(以上、黒島)、クロテンシロチョウ、クロアゲハ、アマミウラナミシジミ(以上、与那国島)、ナミエシロチョウ、ホリイコシジミ(竹富島)などの蝶を採集した。
3) 2008 年に観察した千葉市のツマグロヒョウモン(大塚市郎)
昨年に引き続き、今年も千葉市貝塚の変電施設脇の草地で発生しているツマグロヒョウモンを観察したが、昨年に比べ個体数は少なかった。11月23日・29日の観察では、アザミの花に群がる多数のツマグロヒョウモンを観察できた。
4) インターネット利用による蛾の文献検索と同定(斉藤 修)
手持ちの図鑑・モノグラフなどで、採集した蛾の種の同定ができない場合、インターネットを利用して文献を収集したり、同定を依頼することができる。たとえば、文献集については、国立国会図書館(NDL)からインターネットを通して、比較的低価格で必要文献を入手することができる。また、同定については、同好の研究者・愛好家が立ち上げているインターネットのブログ上に画像を貼り付け同定を依頼すると、比較的適切な同定結果を得ることができる。
5) 日本産の蝶類の生態写真全種撮影の夢(松田邦雄)
迷蝶を含め、日本列島には約260種の蝶が分布するが、4種を除き日本産蝶の全種の生態写真を撮り終える段階に達している。北海道大雪山を訪ね、ウスバキチョウ、アサヒヒョウモンなどの写真を撮影し、小笠原諸島を訪ね、オガサワラシジミの生態写真を運よくとることができた。また、熊本県脊梁産地では、吸水のため地上近くに舞い降りてきたゴイシツバメシジミの写真をとることができた。
6) 東京湾の埋立地・千葉市美浜区の昆虫(嶋本習介)
千葉市美浜区は40年ほど前に、埋め立てによって作られた地域である。したがってそこに分布する昆虫は、すべて近くの地域から移り住んできた種である。昨年秋から今年の夏までの約1年間、美浜区を環境の違いから「住宅地」などと4つに区分けし、昆虫の発生の季節消長を比較し、越冬昆虫の生態について調べた。なお、美浜区からは、オオミノガ、ヨツモンヒメテントウ、コオイムシ、ムラサキシジミ、ツマグロヒョウモンなどの興味深い種を初めとする、13目100 科351種の昆虫を観察・記録することができた。
第69回例会
2008年10月19日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は26名。3名の会員から話題の提供があった。その後、休憩をはさんで、恒例の一人一話。各会員が実にさまざまな活動を行っており、その興味深い話に全員熱心に聞き入っていた。また、報告の合間には、今回持参した各人自慢の写真や標本を回覧し、また、会員相互に不明種の同定を行うなど、報告以外にもさまざまな収穫があったと思う。(直海俊一郎)
●例会報告
1) タカネヒカゲを求めて(松田邦雄)
氏は国内はもとより、世界各地に精力的に出かけ、各地の蝶の生態写真を撮影されているが、今回は中部地方の山岳地帯などに分布するタカネヒカゲを中心に、それ以外に日本産の珍しいチョウ(チャマダラセセリ、タイワンツバメシジミ、オオゴマシジミ、チョウセンアカシジミ)やドイツのチョウ(アポロウスバシロチョウ、クモマツマキチョウ)の生態や行動がスライドを用いて紹介された。年齢を感じさせない行動力には脱帽するばかりである。
2) デジカメ日本の蝶2008 年(大塚市郎)
2008年に関東地方や中部地方において、氏がデジカメで撮影された、テングチョウ、スジグロシロチョウ、ギンイチモンジセセリ、ジャコウアゲハ、ツマグロヒョウモン、ルリシジミ(以上千葉市内)、ルーミスシジミ(大多喜町)、ギフチョウ(新潟県弥彦)、ウスバシロチョウ(山梨県富士吉田)、ミヤマカラスシジミ、ベニモンマダラ(長野県諏訪)など、多くの蝶(一部の蛾も含まれているが・・・)の生態写真が紹介された。氏もチョウを専門とされ、かつては採集中心の活動をされていたが、最近、主な武器をネットからデジカメに持ち替え、国内各地へ精力的に遠征されているそうである。
3) カブトムシの活用方法~昆虫を通した地域との交流(県立成田西陵高校地域生物研究部)
中川真緒さん、中川真理菜さん、天羽百合恵さんから報告があった。カブトムシの幼虫は、一般に広葉樹の腐葉土を餌としているが、シイタケ原木の廃材等も餌になることが知られている。そこで、シイタケの廃材や腐葉土を用いたカブトムシの糞の堆肥化の可能性を調べるため、コマツナを用いた栽培試験を行った。その結果、シイタケ原木の廃材やそれを餌にしたカブトムシの糞には、コマツナが吸収できる栄養素が少なく、コマツナは生育不良となったが、腐葉土を餌としたカブトムシの糞からなる有機質堆肥を用いた場合、コマツナは通常の畑地の土を用いた場合と比べ、明らかにより良く生育したという。なお、この実験後に生育したカブトムシの幼虫を地域の保育園の園児へのプレゼントとしたり、カブトムシ幼虫の飼育方法をテーマとした昆虫教室を地域の施設において開催するなどして、カブトムシの幼虫を地域住民との交流に有効利用することができた、というなかなか興味深い話であった。ぜひ会誌「房総の昆虫」に寄稿していただきたいものである。
第68回例会
2008年2月19日(日)午後1時半から県立中央博物館会議室で開催された。参加者は23名。4名の会員から話題の提供があった。その後の一人一話では、今年の活動の計画や抱負、最近の知見などが紹介された。なお、今回の例会には2名の新入会員の参加があった。特に小学5年生のSS君の入会は会の今後に希望を与えるものである。悪い大人の虫屋の手に墜ちることなく、正しい虫屋として育って欲しいものである。(宮野伸也)
●例会報告
1) 昆虫データのあつかいにおけるパソコンの利用-ラベルの作成からリストの作成まで-(宮野伸也)
データラベルの作成、同定ラベルの作成、データベース作成、リスト作成を有機的に結び付けることにより、同じ情報(文字列)を2度入力しない、形式の整ったラベル・リストを簡単に出力する方法がパソコンを操作しながら具体的に示された。エクセルとワードが使えればこのプログラム(マクロ)を使うことができるので、大いに利用し不備などを指摘してもらいたいとのこと。
2) 小笠原自然探訪記(松田邦雄)
美しいスライドを多用した報告があった。オガサワラシジミ、オガサワラセセリ、ウスイロコノマチョウの3種をカメラに収めることができたとのこと。その他、熊本でのゴイシツバメシジミ、ウラキンシジミ、オオウラギンヒョウモン、沖縄でのタイワンツバメシジミ、ソテツシジミ、シロオビマダラなどがスライドで紹介された。日本産のチョウ250種撮影に向けあと数種とのこと、60年におよぶ虫歴を感じさせた。
3) デジカメ最新情報(矢島嘉和)
デジカメ最新情報として、標準レンズをマクロレンズに変身させるテクニックが紹介された。最前面レンズを外しテレコンバーターを付けることにより、約4倍まで撮影できるそうだ。
Ⅳ.みんなで考える、最近千葉県内で目に見えて増えた昆虫・減った昆虫、そしてその原因について(鈴木智史)
鈴木会員がリストした「増えた昆虫」12種・「減った昆虫」11種に対して、それぞれ11種・1種の追加種が挙げられ、多くの会員の知識・経験を持ち寄ることの効果が実感された。これらの原因は、食草や寄生生物との関係、温暖化などの無機的な環境変化との関係などが想定されるが、個々の生物種に関して詳細に検討する必要がある。