放虫(放蝶)に関する情報収集のお願い (2016年1月31日付 掲載)
昆虫に触れ親しむ私たちは昆虫に対する調査、採集、飼育、写真、芸術・工芸など幅広い分野に跨って多様性に富んだ活動を行っています。それぞれ様々な考え方と意思を持って取り組んでいます。昆虫という生き物を扱うことは生命に対する尊厳を持って接する必要を感じるのですが、中には生命の尊厳から飼育していた昆虫を野外に放す行為が美談としてマスコミなどに取り上げられるケースも少なくありません。生き虫ブームで外国産のクワガタムシがホームセンターなどでも容易に入手できたころには、飼育しきれずに野外に放す行為も散見され、「房総の昆虫」にも外国産のクワガタムシの採集報告が掲載されたこともありました。近年、蝶では個人ばかりではなく自治体の承諾を得た自然保護団体が自治体の管理地で大量飼育による放蝶を実施したり、教育現場では授業の一環としての飼育と羽化後の放蝶が地域での生息を目的に実施されている場合などがあります。長期間行われていながら実施後の生息状況などのモニタリングと情報公開は皆無のようです。
昨年は野外で撮影された蝶の同定依頼が千葉県立中央博物館によせられ、意外な種類の蝶(迷蝶以外)が複数確認された事例や生息が考えられない地域で確認された蝶が自治体の刊行物に千葉県レッドデータブックの掲載種として上げられたりしています。これらの事例は一部の愛好家による放蝶が原因ですが、中には外国産の種類であると思われるケースもあるようです。特に放蝶問題で取り上げられる中国大陸原産のアカボシゴマダラは良く知られた蝶ですが、現在でも分布を拡大中で勢いが止まらない状況です。日本全土で生息可能なことから、やがては日本全国に分布を広げて奄美大島産との交雑により、日本固有亜種(=奄美亜種)が消滅することが懸念されています。
昆虫は環境が良好であれば適応も早く、定着して個体数を増やしていく存在です。しかも人為的に特定の種を大量に導入することにより、安定した定着と周辺地域への分布の拡大も可能である一面を、地域昆虫相の調査で確信するに至っています。
昆虫の野外への放逐は厳に慎むべき行為であると考えていますが、それぞれの意志で行われる行為を止めることは不可能で個別の対応はできません。千葉県内で生息や分布を調べている者にとっては、常に放虫に起因するものではないかとの疑念がつきまとう種もあります。個人、団体にかかわらず放虫(放蝶)に関する情報を寄せていただき、会員の共有する情報として提供することにより、放虫された場所を含む地域などで、生息と分布調査や報文作成の際に一情報として活用できればと考え、会員の皆様のご協力を賜りたいと願うものです。
但し、収集した情報に基づき、関与している個人や団体に対して、千葉県昆虫談話会は特定の意見を提示するものではありません。(大塚市郎)
清水敏夫さんが読売教育賞最優秀賞を受賞 (2015年12月4日付 掲載)
本会会員の県立成田西陵高校教諭、清水敏夫さんは、校内に日本初の高校生が運営する「昆虫館」「蝶の生態館」を設立するなど、地域の生物を研究し、地域交流に積極的に取り組んでこられました。これらの活動を対象として、読売教育賞最優秀賞(題名:「昆虫館設立から地域との交流を深めるまで」)を受賞されました。
清水さんと西陵高校の生徒さん達は、これまでカブトムシの抗菌作用の利用、エゾカタビロオサムシによるヨトウムシの防除、飛べないテントウムシによるアブラムシの防除など、生物機能を利用したエコ農業の技術開発を実践してきました。これらの成果については、本会の例会でも何度か発表されています。今後も、昆虫を通した研究・技術普及・地域交流場面でのご活躍を期待します。(受賞について読売新聞2015年11月7日に紹介されています)
野田市の昆虫採集規制とその後の会の対応について (2015年12月4日付 掲載)
野田市在住の柳澤 勉会員から7月17日に頂いた緊急情報に愕然としました。柳澤会員によれば、野田市では新たな条例が7 月1 日より施行されたとのことでした。条例は「千葉県レッドデータブック」に掲載されている動植物全種の野田市内での捕獲や採取が禁止されたという内容のもので、しかも植物を除き公共地は勿論のこと私有地までも対象に含まれるものでした。野田市では数年前からコウノトリを飼育して放鳥(関東初)することを目指して取り組んで来ました。そして7月23日にはコウノトリの放鳥が実施される運びになっていたことから、放鳥日を念頭に急遽、保護基準を定めた条例が制定されたとの事でした。条例については外部の有識者の意見も聴取せずに決めてしまったようで、原因として野鳥愛好者によるマナー違反が目立ち、市内で営巣する猛禽類への撮影行為が、営巣に悪影響を及ぼすと同市の野鳥同好会からの抗議があったことがきっかけとなったようです。
条例に対して柳澤会員は市内在住の昆虫同好者を中心に「野田昆虫談話会」(以降、野田昆)を7月18日に結成し野田市との交渉を行うことになりました。市との交渉窓口となった野田昆の粘り強い交渉により、野田市より学術調査を目的とした採集許可証に相当する「腕章」の貸与を実現されました。
当会の対応として10月18日の幹事会で会員による野田市での昆虫相の学術的調査の実施が行われる場合に備えて、トラブル回避と野田昆の活動目的等への賛同と支援からも団体会員として野田昆に入会してはどうかと提案し、幹事一同了承のもとに入会する運びとなりました。現在、当会は野田昆の団体会員として登録されています。野田昆は当会の入会に伴い、団体会員としての当会の要望に沿うかたちで交渉され、貸与に限りのある野田市の「腕章」に相当する野田昆虫談話会作成の「腕章」についても採集許可証として市より承認されたことから、今般野田昆虫談話会名の「腕章」が当会へ貸与される運びとなり、受領した次第です。
本案件については柳澤会員(野田昆虫談話会代表幹事)の情報提供や迅速な野田市との採集許可に関する対応など尽力されたことに心より感謝申し上げるものです。なお、柳澤会員は条例に関する問題点などの詳細について「房総の昆虫」56号に発表されます。(大塚市郎)
昨年に引き続きクロメンガタスズメ県内各地で発生 (2010年10月5日付 掲載)
クロメンガタスズメは3年前に県内で初めて記録され、その後、昨年まで急速に記録が増えてきており、今年の発生はどうなるのか注目されていました。昨年から今年の冬は寒く、ツマグロヒョウモンの越冬幼虫は減って、6~7月の成虫はあまり目につきませんでした。クロメンガタスズメも越冬できたかどうか心配されていましたが、6月頃から発生記録が耳に入ってきました。詳しくは採集、観察した方から報告があると思うので、大まかなところをお知らせします。また、第2回の幼虫発生はこれからなので皆様の周りでも発生していないか注意してみて下さい。幼虫はトマト、ナスなどの農作物で見つかることが多いのですが、クサギ、ノウゼンカツラなどの灌木にも発生します。食草として、ゴマ科(ゴマ)、ナス科(ナス、トマト、ジャガイモ、チョウセンアサガオ、タバコ、クコ)、ゴマノハグサ科(キリ)、ノウゼンカズラ科(キササゲ、ノウゼンカツラ)、クマツズラ科(クサギ)、フジウツギ科(ブッドレア)、マメ科(フジマメ)、アサ科(アサ)などが記録されています。幼虫は老熟すると10cm に達し、S 字型でトゲトゲのある特徴的な尾角を持っています(写真)。幼虫には黄色型、褐色型など色変わりの型があります。県立中央博物館ホームページの「房総の山のフィールドミュージアム」で、7~9月に君津市、木更津市、鴨川市での幼虫発生が報じられています。7月と9月に我孫子市で幼虫が見つかりました。7、8月に四街道市で幼虫、茂原市で複数の幼虫、佐倉市でも複数の幼虫が確認されました。7、8月の幼虫は第1回の幼虫と思われます。また、成田市で成虫が確認されています。7月からの連日の猛暑で、8月後半には第2回成虫が発生していると考えられます。千葉市ではミツバチの巣に入り込んだ成虫が採集され、その後も連続して飛来し、巣に侵入しているということです。ほとんどの採集場所、観察場所は昨年も記録のあったところで、観察者が近くにいるということもあると思いますが、地形や風の通りなど、クロメンガタスズメが好む条件が揃っているのかも知れません。クロメンガタスズメはこれまで国内全体でも採集例が少なく、生態がよくわかっていません。現在、千葉県は本種の分布拡大の時期と考えられ、いろいろと面白い現象があると考えられます。採集の記録はもちろん、ちょっとした観察なども会誌に発表して知見を集積すれば、その生態がはっきりしてくると思います。(斉藤 修)
駅蛾採集 (2010年6月13日付 掲載)
2007年の6月に我孫子に引越してきて、成田線新木駅から都内に通勤している。新木駅はエレベーターもエスカレータもなく、ホームも改札周辺しか屋根がない。また、「電車が到着します」とか「発車します」とか、うるさいアナウンスがなくて気に入っている。ちょっとヨーロッパの田舎の駅みたいだ・・・どこが!!。駅の北側は農家の敷地で感じのいい屋敷林が残っている。通勤の行き帰りにホームの陸橋や照明に蛾が付いているのに気がついた。「房総の昆虫」の41号に報告したワモンキシタバは、こんな風に出会った蛾だ。
2009年に、幼虫の写真を撮りたいのでトビイロスズメが発生したら教えてくれという友人からの依頼があった。この蛾はマメ科を食べ、大豆などにも発生するという。家庭菜園の大豆をみていたがいっこうに発生しないので、私が枝豆にして食べてしまった。そうこうする8月のある日、8時頃に駅に降りると照明の周りを大きなスズメガが2頭飛び回っていた。行ってみるとトビイロスズメ。丁度、飛んできたところに手を出して見事キャッチ、お腹のふくれた立派な雌だった。もう1頭はホームに落ちたのでゲット、雄であった。この日は両手にスズメガを持って、定期をみせるのが大変であった。持ち帰った雌はその後、室内のケージで70~80卵を産み、友人を満足させた。今年の5月、孫を送って駅まで行った時にホームをみると、スズメバチくらいの赤茶色の虫が飛んだり止まったりしていた。近くにいたお兄ちゃんは怖がって避けていたので、近くに行ってみるとコウチスズメだった。とりあえず手づかみで採った。お兄ちゃんは気味悪そうにこちらを見ていたが気にしない。孫が「かっこいい」といって欲しがったが(彼も虫好き)、私としても3頭目なので「標本にしておくから」といいくるめた。
最近では、通勤のザックに小さなタッパーと手帳を入れている。ヤガなどはタッパーに取りこみ採集する。手帳は採集しない個体をメモするためのもの。そのうちに報告しようと記録を貯めている。こういうのは「駅蛾」ではなく「鉄蛾」と呼ぶ方がいいのか、大橋君に聞いてみたい。(斉藤 修)
県南部で猛威を振るうクロマダラソテツシジミ (2009年10月4日付 掲載)
8月末(2009年)に県立中央博物館の斉藤明子さんより、館山市でクロマダラソテツシジミが大発生しているとの情報を得て、すぐに富津市の斉藤氏に連絡した。フットワークの軽い氏はすかさず動かれ、あっさりと館山市藤原にある県立館山運動公園にて、多数採集(駆除)してきたという。実はその翌週の9月6日(日)、私(鈴木)はその情報を得る前から、筆者の一人である城田とともに、かねてからの懸案であった県産ヒラタクワガタを狙うついでにクロマダラの探索を行おうと思っていた矢先の出来事であった。タイムリーと言おうか、先を越されたと言おうか・・・ま、どうでもいいけど。そこでせっかくなので「ブレない蝶屋」として著名な大塚氏をお誘いし、3人で出かけることになったのである。館山道を南にひた走り、午前9時前には館山運動公園に到着した。すると、どこかで見たような車が・・・。なんと、現地にはすでに前出の斉藤氏のほか、木勢、田久保の両蝶屋さんがいるではないか。こんな場所に虫屋が6人も集まるのは珍しいので、とりあえず記念撮影。当地は文字通り「運動公園」で、当日は生憎(?)高校生のテニス大会だとかで、多数のギャラリーに囲まれる中、大のオジサン達がソテツに群がってネットを振り回すという異様な光景であった。私(鈴木)はかつて石垣島で京都の某氏とともに200以上の幼虫を採集した経験があるのでほとんどやる気がなく、ネットすら持たずにその場に臨んでいた。ただ、終齢幼虫と蛹のみ、20頭程度を持参したタッパーに入れ、餌となるソテツの新芽を少し採集した。城田も同程度の数の終齢幼虫と蛹をタッパーにいれた。さらにここでは見たことのない焦茶色の地味なカミキリが発生しており、城田のほか、木勢・斉藤の両氏がゲットされたようである。
10時ごろに他の3名と別れ、当初目的のクワガタ探しの後、近くでクロマダラの餌用に新鮮なソテツの新芽を追加しようとタッパーを開けたところ、件の地味なカミキリがタッパーの中を歩いていた。期せずしてゲットしていたことになる。・・・ま、どうでもいいけど。その後は特にやることもないので鴨川方面をぶらぶらしてみたが、その時点では運動公園以外でのクロマダラソテツの発生は見られなかった。「まあ、来年だろうな」、「だけどどこまで北上するのかな」、などど話しながら3人そろってのんびり帰路についた。当日現地で合流した3名のうち、一人(誰かは内緒)は3日連続で当地に通っていたとのこと。一体どれだけとったのであろうか? なお、20程度と思っていたタッパー入りのクロマダラ幼虫&蛹であるが、適当に持ってきたソテツの新芽に若齢幼虫がついていたようで、鈴木・城田共に、それぞれ50以上もの蛹ができてしまった。「これじゃ増えるわけだわ。(鈴木談)」、「展翅板が足りない!! 増産しなくては。(城田談)」その2週間後の19日(土)に出撃された方(とりあえず匿名)から、成虫18exs.+蛹30exs.+幼虫18exs.を採集したとの報告があり、相変わらず沢山発生している様子がうかがえる。なお、その翌日、富津の斉藤氏より、三芳村で少ないながらも複数個体を採集したとの報告があった。ついに分布を広げ始めたようだ。何やらもう一波乱ありそうですね。ちなみに、県南部では正月のお花材として出荷するため多数のソテツが植栽されており、ビワと並ぶ農家の収入源となっている。その新芽を食うクロマダラソテツシジミは、いずれ間違いなく駆除の対象となるであろう。採りたい方は今がチャンスかもしれません。なお、本文中のナゾの地味カミキリは、コゲチャサビカミキリと判明しました。県内ではまだあまり数の採れていない種だそうですが、探せば沢山いそうな気がします。(鈴木智史・城田義友)